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小倉金之助


                   小倉 金之助

                    

                         OGURA KINNOSUKE


                               (1885‐1962)










                       ◎ 謹告 = 「 so-net 」 の 「 PHNの会ホームページ 」 は、2021年1月28日を もちまして 「終了 」 となりました。







         人文的数学者 ・ 小倉金之助





                                            

              ◇ 小倉金之助は、山形県酒田市に生まれ、東京物理学校に学び、

                その後、林鶴一に誘われ、草創期の東北帝国大学理科大学の

                数学科助手となり、学位を取得する。


                大阪医科大学の塩見理化学研究所に招かれ、数学の研究に従事

                する。そして、フランスに留学。


                帰国後、『数学教育の根本問題』 を著して注目をあつめる。


                昭和三年、『カジョリ・初等数学史』 を翻訳してから、数学史、数学教育史

                の研究をすすめ、数学と科学の大衆化の論客として活躍する。


                数学の社会性を強調し、社会の中での数学の役割を考え、科学的精神を

                叫んだ。それは、当時の世界的なファシズムの嵐への抵抗でもあった。


                戦後は、科学史研究を主導し、民主主義と科学者のあり方を提起した。


                小倉金之助は、「 科学的精神 」・「 芸術的精神 」・「 社会的精神 」 が、

                人間形成にとって、重要であることを力説した。


                今日でも、「 人文的数学者 ・ 小倉金之助 」 に学ぶことは、多大である。 ◇






              ◇ 【 和田耕作による 小倉金之助 関連著作の ご案内 】 ◇



                ・ 和田耕作 著 「小倉金之助の科学(者)論の果した役割――1930年代を中心として ― 」

                ・ 和田耕作 編・追補 「 小倉金之助自筆年譜

                            ( 小倉金之助研究会 編 『 小倉金之助と現代 』 第一集、所収 、1985)



                ・ 和田耕作 著 「 小倉金之助と三木 清

                            ( 小倉金之助研究会 編 『 小倉金之助と現代 』 第二集、所収 、1986)



                ・ 和田耕作 著 「 林 鶴一と小倉金之助

                ・ 和田耕作 著 「 林 鶴一・小倉金之助略年譜

                            ( 小倉金之助研究会 編 『 小倉金之助と現代 』 第三集、所収 、1987)


                ・ 和田耕作 著 「 石原 純と小倉金之助

                ・ 和田耕作 編・追補 「 石原 純自筆年譜

                            ( 小倉金之助研究会 編 『 小倉金之助と現代 』 第四集、所収 、1988)


                ・ 和田耕作 著 「 小倉金之助における文学的精神

                            ( 小倉金之助研究会 編 『 小倉金之助と現代 』 第五集、所収 、1993)






◎ 新型コロナウイルスへの対応策と「科学的精神」の徹底へ

  ――今こそ 小倉金之助の「科学的精神」に学ぶ時である

 

・ついに 新型コロナウイルスが 医療関係者、検疫官、

 患者の輸送に従事した消防官にまで 感染が拡大して

 しまった。


・感染症への 十分な備えをしていたというが さらに

 十全の対策が求められねばならないであろう。


・小倉金之助は 日本社会における「科学的精神」の欠如を指摘し、


「科学的精神」の重要性を叫んだ科学史家・数学者である。


・われわれは 今 こそ 小倉金之助の「科学的精神」に学ぶ

 時である。時代はかわれども 小倉の主張を 現代に活かして

 いくことの必要性を痛感する。


・今日 小倉金之助を 語る人は 少ないようである。


・東京理科大学の学生となっていた、私が、最初に小倉金之助の本

 を読んだのは、『一数学者の回想』(筑摩叢書)であった。



・その後、『小倉金之助著作集』が刊行されはじめたのは、1973

 である。私はその著作集の刊行を待ち望んで、読んでいった時代の

 体験者である。



・小倉金之助により「東京物理学校」の歴史を学んだと言ってよい

 であろう。


・小倉金之助の魅力は、どこにあるのだろうか。専門の数学史に


 限らず 幅広い文章の数々 一般人が読んでも多くを学べる回想

 録など。


・小倉金之助の時代を超えた思想は、現代の我々に多くのことを語

 っている。


 

   2020. 2. 16、和田耕作(C)、無断転載厳禁〕








◎「人文的数学者・小倉金之助と現代」◎

 

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人文的数学者・小倉金之助の「科学的精神」と

「同性愛」への先見的な理解について

 

            和田耕作

          

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近ごろ、「同性愛」者たちなどの人権についての問題が、世界的な話題となっている。

人文的数学者・小倉金之助(18851962)が、かつて「同性愛」についての小説(レズビアン小説)を読んで感想文を書いていたことを思い出した。

      *       *      *

 当時、小倉金之助は、長く病床にあり、文学書類を乱読していた。そんなある日、近所に住む婦人記者が、新刊のラドクリフ・ホール(18801943)の『さびしさの泉』(上・下、大久保康雄訳、新潮社、1952〔原著は1928刊〕)という本を、小倉のところに持参してきた。

 

 この本を読んで、小倉は、「同性愛について――『さびしさの泉』をよむ」という感想文を口述する(「図書新聞」〔1952.12.13〕に掲載される)。

 

 小倉は、まずこの小説の中に紹介されていたドイツの精神科医クラフト・エビング(Krafft Ebing)による専門書『性的精神病理』(英文で600頁もある)を読もうとする。しかし、難解なその学術用語などに閉口して、こんどは、イヴァン・ブロッホ(Iwan Bloch)の本『われらの時代の性生活――現代文明との関連における性科学』を読んでいく。こちらも英文の専門書であるが、小倉には比較的わかりやすかったという。

このブロッホの本に教えられて、小倉は「同性愛が決して変態と見るべきものではないという事実」を科学的に理解する。

 

 このように、科学的に探求を進めていく態度こそ、すなわち「小倉金之助における科学的精神」の一つの見本でもある。

 

 小倉は、チャタレイ事件を例に挙げて、「文学的精神」と「社会的精神」にのみ偏った議論に警鐘をならしつつ、ここでブロッホ(皮膚科医・性科学者)のような科学者の意見を尊重するべきであると述べている。


小倉金之助は、常に「文学的精神」と「社会的精神」、そして「科学的精神」のバランスのとれた生き方を追求し、理想としていたのである。このような生き方が、現代にも通ずるところの、「同性愛」への先見的な理解を可能にしたのであった。

  

 ラドクリフ・ホールの『さびしさの泉』は、当時のイギリスで有罪になったという。小倉は、そのような状況をバートランド・ラッセルが批判していることも紹介している(小倉『読書と人間』〔角川新書、1957〕での「追記」)。

しかし、アメリカでは発禁にならずに済んだので、非常によく売れたという。

     *       *      *

 さて、今日、ラドクリフ・ホール(Radclyffe Holl)への再評価の動きが、顕著である。

 

 『さびしさの泉』は、『孤独の井戸』(The Well  of  Loneliness

と改題され、鷺澤伸介訳でネット上において、無料で公開されている。

 

 また、ラドクリフ・ホールについての初の本格的研究書が、ペンシルバニア大学出版局から刊行(20115月)されている。リチャード・デラモア(Richard  Dellamora〔カリフォルニア大学・ロサンゼルス校客員教授〕)著の『Radclyffe Holl ―― A Life in the Writing』である。本書は、「ホールが依存した、宗教的、精神的、性的な世界に焦点を当てている」(マーサ・ヴィキヌス〔ミシガン大学〕)という。

          



      〔2019. 2. 27、和田耕作(C)、無断転載厳禁〕