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「つまらない」
たったこの5文字で何人の人間が死んでいったのだろう。
彼にとって退屈な時間が一番嫌いなものだ。
それなのに、退屈な時間は思ったよりも多いのだ。
今日も彼が放ったこの言葉は周りの人間を緊張させる。
「そういえば、この間面白い話がありましたよね」
「え・・・」
「たしか、借金の担保に家族をと言ってた」
それは1週間ほど前の出来事だった。
ある企業の社長が一人、前中を訪ねてきた。
社長は株の取引を中心に、多くの企業に融資をしていると聞いたため訪問したのだが、
簡潔に内容を言えば、借金の申し込みに来た。
しかし、社長は簡単に金を貸してくれとは言わない。
自分の会社がどれ程の優良企業なのかをアピールし、将来の見通しも明るい。
今自社株を買っておけば、1年後にはその価値が2倍・3倍になると・・・
そして、最後に言うのだ
「絶対、損はさせません」
と。
前中が会う気になったのは、その企業の株が気になったわけではない。
それもただ単に「ちょうど時間が余って、暇だから」だった。
そんな前中の事情は知らない社長は自社に興味を持っているのだと勘違いし、必死でアピールを繰り返す。
そして説明をさせるだけさせると、前中が一言
「で、いくら欲しいんですか?」
と切り出した。
社長はそんなに単刀直入に聞かれるとは思っていなかったのだろう、口を大きく開けたまま前中の顔を見た。
その顔には期待と不安が入り交ざっているようだ。
それまで自信満々という風に前中を見ていた顔がゆっくりと下がっていく。
「200万ほど・・」
小さく呟いた声は十分前中に伝わっていた。
「200万でいいんですか?」
「いや・・・」
社長は首を傾げながら、どんな風に言うか迷っているように見えた。
本当の値段を言っていいのか・・・と
そして、
「500万」
「500万でいいんですか?」
「はい」
「いいですよ」
前中はニッコリと笑っていた。
それは金策に困っていた社長にはどんな風に映っただろうか。
「え?」
「500万、貸しましょう」
「あ、ありがとうございます」
顔を上げた社長の頬はかすかに上気していた。
ところが、次の瞬間にはその表情が凍ることになる。
「担保にはあなたの家族をいただきますね」
「え・・・?」
「担保なしにお金をあげるわけにはいきませんから」
「あの、自社株を・・・いや、担保と言うなら私が所有している土地でも・・・」
「そんないつ紙屑になるようなものはいりませんし、土地も私は興味ないんです」
前中は笑顔を決して崩すことはない。
それは時に恐怖を相手に与えることとなる。
本人はそれを知っていているのか・・・きっと分かっている。
そして、その表情の変化を見て楽しんでいるのである。
社長は頼む相手を間違ったのだ。
ただ、そんなことを考える余裕が残されていたのなら「冗談じゃない」とその場を離れていただろう。
再び社長は俯き、絞り出すような声で
「お願いします」
と答えたのだった。
「あれから、あの会社はどうなったんでした?」
「まだ、なんとか・・・」
「そうですか、電話してみましょう」
その言葉で部下はデスクに備え付けられた電話の受話器を手に取る。
手帳の中から目的の番号を見つけると、番号を押す。
受話器を前中に渡す頃、相手に繋がる。
「もしもし、社長さんをお願いします」
『どちら様ですか?』
突然の電話に、突然の言葉。
電話の向こう側では明らかに不愉快だという声音でもって答える。
そんな相手の気持ちを分かっていながら、前中は表情を変えることはない。
「前中と言っていただければ分かります」
『少々お待ち下さい』
それからほんの数分、受話器から流れてくるのは・・・
「”星に願いを”ですか。星にいくら願ったとしてもお金は生まれてきませんよね」
皮肉な言葉を呟きながら、前中はその音楽を楽しんでいるようだ。
『もしもし、お待ちしてすみません』
「ああ、突然すみません」
相手の声音は焦っていることは明らかだった。
500万、その日に現金で渡され書類も交わした。
まだ1週間しか経っていないのに、というのが正直な気持ちだろう。
「どうですか、お仕事の方は順調ですか?」
『は、はい。なんとか』
「そうですか、返済は明日ですけど大丈夫ですか?」
『え・・・・』
その一言を放った後、社長は受話器を落としたようだ。
受話器を少し耳から離すと、前中の表情は楽しそうに
「あー、きっといい表情しているんでしょうね。見たかったな」
と残酷な言葉を口にする。
『も、もしもし』
「はい。この間交わした書類にも書かせてもらっていると思いますが」
『は、はい・・・そうみたいですね』
「ちゃんと確認してサインして下さったんですよね」
社長は融資してくれるという喜びと、早くお金を持って帰らなければという気持ちでほとんど書類の内容を確かめなかった。
それに、まさか返済期限がそんなに短いとは予想もしていなかった。
前中は全て分かっていた。
分かっていて、あえて何も言わなかったのだ。
それが分かった時に相手が受けるだろう衝撃が心地いいから・・・
「ここで提案なんですが・・・」
『・・・はい』
「確か、娘さんがいらっしゃいましたよね?」
『え・・・』
「その娘さん、うちの会社に来てもらっていいですか?
お綺麗なお嬢さんだとお聞きしました、一度お会いしたいと思ったんですが」
『それは・・・』
社長は明らかに迷っているようだった。
そんな申し出を受ければ、娘がどうなるのか分からないからだ。
見染められ、うまくいけばお金を返済することもなくなる。
ただ、そうでないならばどんな目にあわされるか・・・
しかし、前中は言葉をさらに重ねていく。
「娘さんとお話したいだけなんですよ。
社長さんがどんな風に仕事をされているのか聞いた上で、返済期限をもう一度考え直そうかと思ったんです」
『・・・・そうですか』
「なんだったら、奥様でもいいですけど」
娘か、妻か・・・
社長は2者択一を迫られていた。
「失礼します」
数時間後、前中の部屋をノックして入ってきたのは娘だった。
社長は少しでも娘が前中に見初められることを期待した。
もしそうでなくとも、娘から父親の良さを語ってもらい少しでも返済期限を延ばしてもらうつもりだった。
娘はなるべく清楚に見える服装をしていた。
色の薄いワンピースに、メイクも薄く・・・
「どうぞ、急に呼び出してすみません」
「いえ、こちらこそ。この間はお世話になりました」
「立っているのもなんですから、どうぞ」
そう言って前中が勧めたソファに座ると、目の前にはサイコロが1個。
来客用のテーブルは他には何もなかった。
そのため、サイコロは異質なものに見えた。
娘は気にしないように努めるが、視線はそのサイコロへと吸い寄せられる。
前中は向い合わせに座ると、
「今日はゲームをしようと思うんです」
「ゲーム、ですか?」
娘は前中の言っている意味が分からなかった。
自分は父親からゲームをするとは聞いてはいない。
なんとかして、目の前の男と親しくならなければならない。
最初に父親から話を聞いた時には冗談じゃないと怒りも覚えた。
しかし、このビルを見てからその気持ちは薄れた。
そして目の前に現れた社長という男を見れば、誰でも親しくなりたいと思うだろう。
「そうです、簡単ですよ。このサイコロを振るだけなんですから」
「それで・・・?」
「サイコロの目が1なら500万は返してもらわなくていいです。
2.3.4なら一晩付き合ってもらいましょう。
それで1ヶ月返済を待つことにします。
5.6 ならお母様に一晩付き合っていただいて、返済を1ヶ月待つことにします。
どうですか、どの目が出たとしても返済が延長になる。
運が良ければその返済をしなくても良くなるんですよ」
そう話す前中は娘に選択権があるかのように説明しているが、娘にはそのゲームに参加する以外に道はない。
ゲームをせずに帰ったとして、明日に500万もの大金を用意できるわけがない。
前中はそんな事情を分かった上でゲームをしようと言っている。
そうとしか考えられなかった。
「どうします?サイコロ、振りますか?」
「します」
娘はキュッと唇を噛みしめながら、運命のサイコロを振る決意をする。
そんな娘を見ながら、にっこりと微笑む前中は果たして天使なのか・・・・悪魔なのか・・・
「じゃ、いつでもどうぞ」
机の上のサイコロを手に取ると、空いている手で娘の手を掴む。
娘は前中の意図を汲み取り、ゆっくりと手のひらを開いていく。
そして、開かれたその手にサイコロが渡される。
渡されたサイコロを手に握ると、口元に持って行く。
その手は微かに震えていた。
ひとつ、息を吹きかける。
次の瞬間、手から机へとサイコロが移動していく。
前中はサイコロに視線はやらず、娘の表情を追う。
数字が決まった瞬間の彼女の表情が見たいという気持ちだけだ。
「あ・・・・」
期待と不安が入り混じった複雑な表情が変わっていく。
頬がうっすらと赤くなり、唇が震えている。
そして、俯くことでその表情が見えなくなった。
机を見れば・・・
「4ですね」
「・・・・・はい」
「じゃ、さっき言ったように1晩付き合ってもらいますね」
「それは・・・」
娘は再び顔を上げると、前中の顔を正面から見据えることとなった。
前中は社長室に入って来た時から全く変わっていないように見えた。
それがかえって娘に恐怖を与えた。
次の言葉が見つからず、口を閉ざしてしまう。
「”それは酷い”と言いたいんですか?」
「いえ・・・」
「そうですね、1回じゃ可哀想ですよね」
「え・・・」
前中の言葉は娘にとっては意外としか言いようがなかった。
「もう1回、いいですよ」
「本当ですか?」
「どうぞ」
娘はその言葉にすがる他なかった。
再びその手にサイコロを持つ。
ところが、サイコロを振ろうとした瞬間に前中は言葉を付け加えた。
「これで1が出ても、1晩付き合ってもらうことは変わりませんから。
ただ、1晩付き合ってもらった上で返済は不要ということで・・・それでもいいですか?」
娘はしっかりと頷き、もう一度手を振り直す。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい」
玄関を入ると奥から声が掛かる。
「お疲れ様です」
「すみません、遅くなってしまって」
「いえ」
廊下を手を拭きながら自分を出迎えに玄関へと来てくれる姿。
そんな姿を見ていると、前中の心の中に少しだけ残っていた温かい気持ちが揺り動かされる。
「お仕事大変だったんですね」
「いえ、ちょっとした接待があって」
「そうなんですか、そんな接待なんて・・・すごいですね」
柔らかい笑顔を見せてくれる。
思わずその人を胸に引き寄せてしまう。
「良隆さん、お帰りのキス・・・してください」
「え・・・」
恥ずかしそうに、でもその人は少し背伸びをして頬に軽く唇を寄せてくる。
「良隆さん」
お返しにと顔を赤くしているその人の顔を上げさせると、唇と唇を重ねていく。
何度か軽く合わせていると、それだけでは足りなくなる。
舌で唇をノックすると、その人もゆっくりと唇という扉を開放してくれる。
そしてゆっくり、深く唇を重ねる。
舌と舌が絡み合わさり、部屋に淫靡な空気が漂い始める。
クチュクチュとお互いの唇から音が漏れ出てくる。
その音がさらに2人の気持ちを高めていく。
その人はもう一人では立っていられない。
前中が腰をしっかり支えている。
「良隆さん。今日はゲームをしましょう」
「え?」
前中とその人はようやく唇を離す。
すると、前中は部屋に置いているソファにその人を促す。
その人を先に座らせると、自分はその人を守るように後ろに回る。
「これです」
「サイコロ?」
ポケットから出てきたのは小さなサイコロ。
その人は珍しそうに前中の手にあるサイコロを摘み上げる。
「ゲームですよ。
1が出たら私が良隆さんの大きくなってきているココを舐めてあげます。
2.3.4が出たら、良隆さんが舐めてください。
5.6が出たら、良隆さんが上に乗って下さい。
ね、簡単ですよね」
前中はその人の耳元で囁くように話す。
その人は言葉を理解すると、耳と言わず顔中を真っ赤にしていた。
「そ、それはどれになっても君が得するようにできているような・・・」
「そうですよ。やっぱり、ゲームをするんだったら自分に有利な条件でないとね」
「そんなこと・・・」
「ほら、サイコロを転がしてください」
こんなに穏やかな気持ちで人と過ごすことになるとは前中自身考えていなかった。
ただ、それは目の前にいる御木良隆に限定される。
今日2度目のゲームは恋人同士の楽しい戯れ。
”そういえば、彼女も楽しんでいるでしょうか?”
前中が考える彼女は、あれから一度家に帰らせた。
父親に500万を返さなくて良くなったことを伝えるため。
そして、夕方にはベンツが彼女を迎えに来た。
父親には前中が食事を御馳走してくれると言った。
その時の彼女は嘘を言った気持ちはなかった。
たとえ食事だけで済まないと考えていたとしても、前中と一緒に過ごすのだから。
ベンツが到着したのはとあるクラブ。
そこで前中は彼女を出迎えてくれた。
しかし、そこには前中以外の人間も3人いた。
「では、彼女が今日の生贄候補です」
彼女の腰にさりげなく腕を回し、前中はニッコリと笑いながら残酷な言葉を告げる。
「え・・・」
彼女が前中を見上げるが、前中は彼女の方をチラッとも見ない。
「ほう、若いねー」
「ほんとですね。こんなに若くて活きがいいと色々試してみたくなりますね」
「壊してしまってもいいってことだしね」
目の前でニヤニヤ笑っている人間達は年齢はバラバラだった。
しかし、その表情はほとんど変わりはない。
「い、いや・・・」
彼女は恐怖で声を震わせている。
そんな彼女の背中を軽く前へと押す人間がいた。
「1晩、彼らに付き合ってあげてくださいね」
「私はそんなつもりで・・・」
「私はあなたに、”私と1晩付き合って下さい”とは言ってませんよ。
あなたが1晩付き合うのは彼らです」
彼女はその言葉をどんな気持ちで聞いていたのか・・・・
ただ、その彼女の恐怖と初めて知った真実に困惑した表情は前中を十分に楽しませてくれた。
「さあ、私は私の天使に会うために帰りますので」
前中はそう言うと、彼らと彼女をその場に残して帰ろうとしていた。
「えー、前中さん帰るんですか?」
3人の中では1番年若い男が不満げな声を上げる。
「はい、私にはもうそんなモノが必要じゃなくなったんです」
「そんなにイイの?」
「それは、もう」
彼女はすでに1人の男に捕まり、その服を引きちぎるように剥かれていた。
その状況を前中はただ微笑みながら眺めている。
「そんな女よりも・・・」
「貸出しはないのかい?」
3人の中での年長者が笑いながら前中に問いかけるが、それも前中は笑いながら答える。
「貸出しはしません。私専属ですので」
「ほー」
「もし、手を出してこられるなら・・・・」
それ以上は誰も前中に言わせなかった。
「いや、ちょっと聞いてみただけだ」
「そうそう。俺達は別にそんなつもりじゃないからさー」
「そんな命知らずではないですよ」
前中はその答えに満足したのか、頬笑みを崩すことなく
「お互い、楽しいひと時を過ごしましょうね」
と言って店を後にした。
※ あとがき ※
1万hitお礼の小説がこんな酷いお話ですみません。
メッセージを下さった方の中で、「つまらない」という前中の一言で振り回される人が見たいというのがありました。
で、書いたのはこんな非人間的なお話で・・・
最低な奴ですね前中って奴は・・・
でも私はこんな最低な主人公が好きなんですよ(爆)
もし、「誰この前中って」って思った人は拍手ボタンを押してみてください。
拍手でもいいので、感想とかあればコメント欲しいです(こんなんでも好きって人がいるのかちょっと不安)
また何か面白いネタがあれば教えてください。