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その日はとても寒く、普通の人間ならこたつやヒーターといった暖房器具をフル活用しているだろう。
そして一日中、暖かい部屋に閉じこもるという選択肢をほとんどの人間が選ぶ。

しかし、ここにはそんな寒さにもかかわらずこれから出かけようと計画している人間がいた。
今はまだ温かいブランケットに包まるように寝ているが・・・


「良隆さん、おはようございます 」

「ん・・・」

「早く起きて支度をしましょう」


ブランケットにくるまったまま、なかなか起きようとしないのは御木だった。

普段はそんなに寝起きが悪い方ではない。
ただ、昨夜はいつもより2ラウンド多く挑まれ、その結果と して今日という大切な日になかなかベッドから離れられないでいた。


そんな起きれない御木とは対照的に、前中はすでに身支度も済ませ準備万端といったところ。


「良隆さん、このまま起きないなら色々していいんですか?」


前中としてはその方が嬉しいのだが、この言葉が効いたのかゆっくりとブランケットが動き始める。


「ダメ・・・です。昨日・・・したの・・・に」


ブランケットの中からくぐもった声が漏れてくる。

前中は御木が何を言いたいのか分かっていた。
いつもの休日では昼までベッドで過ごすというのがパターンだった。

御木はそうなると出掛けたくても出掛けられないというのが分かっていたため、


「明日の朝は・・・」

「じゃあ、今日はいつもより多くしていいですよね」

「え・・・」



そんな言葉のまま、御木は前中に挑まれるままに身体を重ねた。
御木はそのことを言っているのだが、そんなことは前中にとっては正直なところどうでもよかった。

このままブランケットを剥ぎ取り、御木を快感の波に沈めてしまうことは簡単にできる。
そっちの方が休日を過ごすことに適しているとさえ思える。

しかし、そんなことをしてしまえば確実に御木の機嫌を損ねてしまうことになるのも事実だった。

その他大勢の人間がどんなに機嫌を損ね、拗ねてしまったとしても前中は一笑に付すだけだろう。
それだけでなく、その人間に見向きもしなくなるだろう。

ただ 前中にとって御木は他の人間と同じように接する事ができない唯一と言っていい人間だった。


「ダメなんだったら、早く起きてくださいね」

「・・・はい」


ようやくシーツの間から顔を出してきた御木。
その髪はボサボサで、まだ眠そうに顔をしかめた姿は客観的に表現するならば
『お父さんの日曜日』
と言ったところだろうか。

ただ普通のお父さんと違うのは、布団から出てきた姿は何も身にまとっていないというところだろう。

寝室がきちんと温度調節されているお陰で御木は想像以上に寒さを感じることはない。

前中はようやく御木がベッドから出てきたことを背中で感じながら、今日御木に着せる服を選ぶ為にクローゼットを開く。

クローゼッ トの中にはたくさんのシャツやジャケ ット、ネクタイやパンツといった衣装が前中の物と一緒に並んでいる。
そして、収納ボックスの中には下着類やセーターなどがきちんと整理され入っている。

その中からいくつかの衣装を選び出すと、ベッドに並べていく


「良隆さん。今日、外は本当に寒いですからね」

「・・・はい」

「外に出る時はコートとマフラーを忘れないように」


そう前中は言っているが、果たしてどれぐらい御木に伝わっているのか怪しいところだ。

御木の目はまだほとんど閉じたままで、それでもなんとか前中が出してくれた服を着ようとしている。
前中は御木を見ているだけで決して手伝おうとはしない。

少し離れた場所で壁に背中を預けたまま、御木の全身を一つ一つ確かめるように見ている。

御木の首筋にいくつか散らばっている暗赤色の痕。
それは昨夜前中がわざと付けたもので、服では隠せない位置にある。

その他にもいくつか印を付けているが、あとは自分だけが見て楽しむ場所。
ほとんどが内股や腰の背中側で、そこは御木自身もめったに見ない場所。

足元から視線を上げていけば、平らな胸で小さく自己主張している突起に惹かれる。
出会った頃はほとんど刺激を受けたことがない、本当に処女地であった。

色もくすんだピンクといったところで、小さかった。
それが少しずつ刺激を与えられ、赤く熟した色へと変化していった。
今では前中が与えた過剰な刺激により、赤というよりも更に深い色を放つようになり、決して綺麗とは言えないような色になってきていた。

ただそんな風に変えたのが自分だと思えば前中は御木を愛した証なんだと 、その歪な色も可愛く見えてくるのだ。

胸がシャツの中へと隠れてしまえば、そこが自分だけしか見ることが許されない場所のように感じる。
それが前中の抱えている 独占欲を少なからず満たす。


「着替えが終わったら、来てくださいね」


前中は最後まで御木の更衣を見ることなく、部屋を出て行く。
このまま見ていれば自分の理性とは関係なく、襲ってしまいそうだった。

キッチンまで移動すると、御木に食べさせるサンドイッチをランチボックスに詰め込む。

リビングの時計を見れば、ゆっくりと朝食を楽しんでいる余裕は残されていなかった。
小さなポットにはミルク多めのコーヒーを入れ、いつでも出発できるように準備を整える。


「峻くん」


寝室から出てきた御木はまだ眠そうに目を擦っている。

前中よりも年上のはずの御木だが、ついつい構いたくなるのだ。

今は抵抗なく前中のしたいようにさせてくれる御木だが、付き合いだした当初はいちいち恐縮してばかりだった。

その恐縮する姿も可愛かったが、今の御木の態度は前中を信頼してのものだと感じられるため、さらに愛おしさが増す。


「良隆さん、洗顔と歯磨き」

「ん」


それだけの言葉で御木はラバトリーへと歩いて行く。


前中はその後ろ姿を見ながら、携帯を取り出す。

相手は2コールで電話に出る。


「おはようございます」


前中はゆったりとした、仕事モードの口調に知らずなっている。


『お、おはようございます』

「ずいぶん賑やかですね。状況はどうですか」

『は、はい。今からでは少し厳しいかと・・・』


相手の声は周りの雑音で時折聞き取りにくいこともあったが、だいたいの予測はできる。


「分かりました」


御木がラバトリーから戻ってくる気配に、前中はそれだけ言うと通話を一方的に切り上げる。

すっきりした顔で出てくる御木に、用意していたコートを差し出す。


「良隆さん」

「はい」


御木は前中が持っているコートを受け取りながら、用意していた鞄を持つ。
前中も自分のコートを片手に、そして反対の手にはサンドイッチの入った紙袋を持ち玄関へと急ぐ。

エレベーターに2人で乗り込み、少しすると前中が

「あ、そうだった」

と何かを思い出したかのように呟いた。


「忘れ物ですか?」


前中の言葉にそう聞いた御木だったが、前中の方を見るとその唇を塞がれる。
軽く触れた程度で終わった口づけに、御木は目を見開いたままだった。


「朝起きた時にするのを忘れていました」

「・・・あ、そう」


前中はそれだけ言うと、何もなかったかのように再び正面を向く。
御木も前中の態度に自分だけが動揺しているのも憚られ、同じ様に正面を向いた。

ただ、エレベーターが止まったにもかかわらず前中に促されるまで動けない程度には気持ちは騒いでいた。


「今日は運転をお願いしたんです」


エントランスを抜けると、そこには車とそして1人の男性が2人を待っていた。
車はいつも前中が愛用しているマセラティではなかった。

「いつもと違う車なんですね」

「後ろが少し広い車なんです」

御木は車に興味がないため、自分が今乗ろうとしている車がどんな種類なのか知らない。
前中が普段愛用している車でさえ分かっているのか怪しいところがある。

「さ、寒いですから」

前中は御木が持ったままのコートをさりげなく奪うと、肩にかけてやる。

そして、後部座席の扉を開けて待っている男の元へと向かう。


「あ、いつもより広いんですね」

御木は車に乗り込みながら、いつもとは違う車に少し緊張した声を出す。

前中はそんな御木の感想と声音に笑いを噛み殺しながら、運転手代わりの男に小さく頷く。
それを見た男も小さく頷き返すと、後部座席の扉を閉めて運転席へと急ぐ。


「だいたい30分ぐらい掛かりますから、車の中で朝ごはんをしようと思ったです」


そう言いながら御木に持っていた紙袋と、ポットを見せる。


車が走り出したのを身体で感じながら、御木は前中から紙袋を受け取る。
前中は御木が紙袋の中身を覗いている間に、紙コップを準備しポットからまだ温かいコーヒーを入れる。


「良隆さん」

「あ、ありがとう」


御木の持っている紙袋とコーヒーの入った紙コップを交換する。
まだ湯気のたっているコーヒーを小さく”フーフー”しながら御木は飲み始める。

その間にも前中は紙袋からサンドイッチを取り出す。


「はい」


前中がパックから出してきたサンドイッチは、食べやすいようにという配慮から1口大にカットされていた。
御木は受け取ろうと手を出したのだが、

「違いますよ」

と前中がその手を遠くへやってしまう。

「え?」

前中の思わぬ行動に困った顔をする御木だったが、そんな御木の顔を見ながら前中は笑って


「そのまま口を持ってきてくれないと」


そう言う。
そして、再びサンドイッチを御木の口元近くへと戻す。


「良隆さん」

「・・・えっと」


まるで新婚夫婦のような行動を強要してくる前中に、御木は運転席の方を見てしまう。
前中はそんな御木の気持ちが分かっていながら、わざとそうしている風があった。

「良隆さん」

もう一度前中がそう呼ぶと、御木はチラチラと運転席を気にしながらもゆっくりと口を開けた。

前中はその開いた唇の間にサンドイッチを入れてやる。

「ん」

御木はサンドイッチを口に含むと同時に、唇を閉じる。
しかし、その時に前中の指も口腔内に迎え入れていた。

前中もすぐにサンドイッチを指から離せば良かったのに、あえてしなかった。

御木の口の中でサンドイッチから指を離すと、出て行く前に舌を指で弄る。
されている御木は歯で噛むわけにもいかず、顔を歪めるしかない。

「んん」

前中は上顎をくすぐるように指で遊ぶと、ゆっくりと御木の口から出て行った。

それと同時に御木は勢いよくサンドイッチを咀嚼し始める。
前中に与えられた刺激を誤魔化すためにも・・・

一方で前中は御木の唾液で濡れ光っている指を御木に見せつけるようにしながら、自分の口へと入れる。


「美味しいですか?」


前中の唇に視線が釘付けになっていた御木はその言葉に、慌ててサンドイッチを飲み込む。


「は、はい」

「そうですか、私も美味しかったです」

「え・・・」


にっこりと笑いながら前中は口から指をだしてくる。
そして、それを見せつけられた御木は顔を赤らめるしかなかった。

それから2切れ、同じ様に食べさせられた御木だったがパックにあるのが最後の一切れだと見ると、


「峻君も・・・」


と前中に食べることを勧めた。

その言葉に前中はニッコリと微笑めば、

「そうですか?じゃあ・・・」

サンドイッチを手に取り、御木へと渡す。


「良隆さん、持ってください」


前中の行動に戸惑いを隠せないが、言われたとおりにサンドイッチを受け取った御木だったが、

「いただきます」

その言葉と共に前中の顔が近付いてくるのを、目を釘付けにしながら見るしかなかった。


前中はあっさりと御木の手からサンドイッチを受け取ると、咀嚼する。
もっと何かをされるのではないかと密かに思っていた御木だが、思っていたよりも普通の行動に自分が少し恥ずかしく思えた。


しかし、


「指が汚れてしまいましたね」

「あ・・・」


気にするほど御木の指は汚れていなかったはずだった。
それなのに、前中は御木の人さし指を口に含み始める。

最初は指先だけを含むと、舌が指の腹部分を舐めるのが分かった。

そのすぐ後、前中は口から指を離した。

「・・・冷たい」

前中の唾液が空気に触れると、冷えた感覚が指から伝わる。
御木は指を突き出したままで、どうすればいいのか迷っていた。

濡れた指が気になるが、自分の口に含むことが躊躇われる。
それがまるで前中の唾液を欲していての行動に見られるのではないかと・・・


「じゃあ、温めてあげますよ」


そんな迷いを前中は理解しているのか、再び御木の指を口腔内に受け入れる。
さっきと違うのは、指先だけではなく根本まで銜えられたところだろう。

人さし指全体が温かい口腔内へと導かれる。


「あったかい」


御木は無意識に言葉を漏らしていたが、その言葉は前中を誘っているようにも聞こえた。

前中はそんな御木をさらに煽るように、指の根元から舌を這わしていく。
根元から先端にかけて、ゆっくりと、そして御木に見せつけるように唇を少し開きながら。


「ん・・・」


御木がくぐもった声を出した時、それは前中が銜え込んだ指の根元に軽く歯を当てた時だった。

数回、指の根元を食むようにする。

前中がそうしながら御木の顔を見れば、御木は眉を寄せながら目を閉じていた。
唇は小さく開き、息が小さく吐き出されている。

視線を少し下げれば、御木の腰は少し揺らいでいる。

御木の変化は手に取るように分かっている前中は、それを面白そうに見ながらも決して強い刺激を与えることはない。
弱いけれど、確実な刺激を少しずつ御木に与える。


先端へと向かうように何度か指を食む。
甘く指に歯を立てる度に、御木の身体が反応しているのが伝わっている。

そして前中は先端、爪の根元部分に来た時には歯をたてるのと同じく、キュッと吸い上げてやる。


「あ・・・んん」


御木はひと際大きく身体を震わせると、前中に身体を凭れてくる。

射精するところまではいかなかったとしても、御木の身体はすでにトロトロに溶けている状態と変わりなかった。
そこまでに御木をさせながら、前中は口から指を離す。

「え・・・」

御木が驚いたように閉じていた目を開けると、そこにはいつもと変わらない前中の笑顔があった。

自分だけが盛り上がっていたのではないかと御木が顔を赤らめる。


「着きましたよ」

「あ・・・」


前中の言葉に御木は車の窓から見える光景に目を移す。
車は駐車場へと入ろうとしていた。

御木の身体は火照っている状態だったが、どうしようもなく前中をもう一度見返すと、


「どうしたんですか?」


と何事もなかったかのように言われてしまう。


「いえ、別に」


前中の言葉で御木はやはり自分だけが変に盛り上がってしまったのだと思い、前中から身体を離す。
しかし、前中は離れていこうとする御木の腕を掴むと


「この続きは、帰ってから」

「・・・は、はい」

「早く、帰りましょう・・・ね」


耳元で囁くと、掴んでいた腕を離す。

それと同時に車の扉が開いた。










「峻君、いつも誰がチケットを譲ってくれるんですか?」

「それは内緒です」


御木と前中は2人並んで会場へ向かう。


「お礼を言いたいんですけど」


御木は歩きながらそう言うものの、前中はそれをサラッと受け流す。


「良隆さん、どこから回ります?今回の私の担当リストをまだ貰ってませんでした」

「あ、そうでしたよね」


前中がそう言えば御木も何も反論できないまま、鞄から1枚の紙を取り出す。
それを前中に手渡しながら、


「それじゃあ、お互いに終わったらいつもの場所で」


そう言う。
さっきまで醸し出していた甘い雰囲気は御木からは漂ってこない。


「分かりました。もし早く揃ったら、連絡しますね」


前中がそう言うと、

「分かりました」

と御木は簡単に答え、足早に人ごみの中へと消えて行った。


その後姿を見送りながら、前中は携帯を取り出す。


「もしもし。もうすぐですが、どうですか?」

『は、はい。おそらく・・・開場して20分以内には入れるかと思います』

「そうですか。リストを持って行かせるので、よろしくお願いしますね」


前中がそう言うと、さっきまで運転手の役をしていた男がスッと横に立つ。
そして、御木から前中へと渡されたはずの紙を受け取ると、またどこかへと行ってしまう。


『分かりました』


電話の相手がそう答えるのを聞き遂げると、前中は何も言わずに電話を切る。


そして、

「そうだ・・・今年は面白いものが見れるんだった」

と一人笑いながら言うと、ある場所へと足を運んで行く。


10分程歩いたところで、前中の目に大きな体が飛び込んでくる。
この場に自分と同じ位不似合いな人間。


「おい、これはどこに置くんだ」

「それは、ここ」


甲斐甲斐しくも、その大きな体をどうにかして愛する者の手伝いをしているようだ。


「準備で忙しそうですね」


いつもと変わらない笑みを浮かべたまま、前中は忙しそうに動いている人物に声を掛ける。


「お前・・・」


振り返ると、その人間は驚きとそして見られたことに対してばつが悪そうな表情をした。


「1冊、購入させていただこうかと思いまして」

「嘘をつけ、嘘を・・・お前は面白がって見に来ただけだろ」

「そんなつもりはないですよ」


2人が話していると、そこにもう一人の人物がやって来る。

2人に比べれば幾分小柄な人物は、小さな段ボールを抱えながら歩いていた。
しかし、前中の姿を見つけると


「あ、あんた!」


と大声で駆け寄って来た。


「お久しぶりと言った方がいいでしょうか」

「なんでこんな場所にいるんだよ。まさか、狂慈に用があってわざわざ来た・・・ってわけ?」


前中の言葉を無視するように話すと、狂慈と呼ばれた人物の方を指さす。

無視された形になったが、それに対して前中は何も言わない。


「あるわけないだろ。こいつがここにいるのはなー」

「狂慈君」


代わりにと狂慈が何か言おうとすると、笑顔のままで前中は狂慈の名前を口にした。

前中の表情はさっきから変わりはないのだが、目は笑ってはいなかった。

狂慈もそれ以上は何も言えず、


「芳、こいつが1冊本を買ってくれるってよ」

「え、でも・・・」

「いいんだよ。悪魔に絵本でも読ませて少しでも心を清めさせなきゃなー」


芳に今並べかけていた冊子を一冊取らせる。


「お代はいらねーよ」

「どうしてですか?」

「今度店に食べに行った時、タダにしてもらうからな」


狂慈は薄い冊子を前中に押し付けると、前中の笑顔と反対にニヤリと人を馬鹿にしたような笑いを浮かべる。


「狂慈」


そんな狂慈を咎めるように、芳は声を掛ける。


「いいですよ」


前中は冊子を受け取りながら、ゆっくりと視線を芳へと向ける。

「今日は2人なんですか?」

「いや、あと2人来る予定になってるけど・・・こいつが、自分も行くって言うから」

「そうでしょうね、こんな人相の怖い人間が絵本を売っていても誰も買いませんからね」

「いや、そこまで・・・あるかも・・・」

芳はそう言いながら狂慈の方を見る。
狂慈はそんな芳の言葉を聞きながら、

「お前なー、何があるかわかんねーだろうが。それに、せっかくの休日を恋人同士が過ごせないって・・・意味がわかんねー」

まるで自分がそこにいることが当然のように言う。


そうしているうちに、場内アナウンスがもうすぐ開場であることを知らせる。


「ああ、もうすぐですね。それじゃあ、私はこれで・・・」


前中はそう言うと、あっさりと2人から離れていく。

その後姿を見ながら、芳は


「あの人、何でこんなとこにいるんだ?・・・・ま、まさかあんな顔して、オタクとか?」


と本人が聞いたら顔を引き攣らせたであろうことを呟いていた。


「そんなわけねーだろ。あれは、恋人を一人でこんなとこに来させたくないからくっついてきてるだけ」

「まるでお前みたいだな」

「いや、俺よりも酷いぜ。だって、この為に自分の部下を何人か早朝から並ばせて、恋人に頼まれてる買い物をそいつらに任せるんだぜ。
で、自分はどこかでゆっくりお茶しながら待ってるだけってやつ」

「それって・・・」

「それなのに、恋人には自分が並んで買ってきたみたいに・・・やっぱ、悪魔だな」


前中はそんな風に自分が言われていると、少しだけ予測しながらもそのブースを後にする。



これからの数時間、御木が買い物をしている様を少し後ろから見守ることに専念するつもりだった。

御木は必死で気づかないため、案外楽に見ていられる。





「峻君」

そう潤んだ目で見られることの幸せを実感するまであと数時間。

帰りの車で・・・そして、家に帰ってからどうやってあの身体を溶かしていくのか考えるのは案外悪くない。

前中は御木の後姿を追いながら夏と冬、毎回この大きなイベントに参加しながら考えている。





※ あとがき ※
3万hitお礼の小説です。

ちょっと中途半端な終わりだったような気もしますが・・・
ほんわかした雰囲気と、そして狂慈に悪魔と言われていたのが誰だったのかというのを書きたかったのでそれを書けただけで十分です。

「カゴ」を書いている時点で、悪魔と言われていた人が誰なのか興味を持って下さった方が何人かいて下さり、
メッセージで誰ですか?という質問があったので、種明かしをしてみました。

やっぱりと思う人もあるかもしれません。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

次は4万hitですが、何を書こうか全く考えていません。

何がいいですかね(苦笑)