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まさか、まさか自分に恋人と呼べる人ができるとは思っていなかった。

自分の片思いで終わるなんてことは数知れず。

それなのに、自分のような人間を好きだと言ってくれる奇特な人が現れた。
もちろん、私も彼のことが好きだ。

付き合ってまだ日が浅いけれど、この関係が壊れないようにしたいと思う。


「良隆さん、今日は泊まっていけますか」


彼は優しく、私の意見を尊重してくれる。

無理強いすることもない。


ただ、今の質問のようにそれが恥ずかしい場面もある。


「は、はい」


私は言いながら、自分の顔が赤くなっているのが分かった。


「じゃあ、急ぎましょう」

「え・・・」


彼はそう言って私の手を握ると、歩くスピードを早める。

そんな些細なことに、私は胸をときめかせていた。


「あれ・・・?」


ところが、駐車場に着くと少しおかしいことに気づいた。
彼の車の側に誰かがいるようだった。

隣の車の人かと思いきや、その車には背を向けて立っている。


「あれって・・・」


私は言いながら彼の方を見た。


「車上荒らしみたいですね」


彼は特に驚いた様子もなく、笑顔のまま教えてくれた。

逆に私は彼の言葉に驚きを隠すことができなかった。


「車上荒らしって。そんな、泥棒じゃないですか」

「そうですね」

「そうですねって」

「都会に住んでるんですから、よくあることですよ」

「で、そんな・・・早く、早く警察を・・・」


私は携帯を出そうと鞄を探ろうとした。
でも、


「警察なんて呼ばなくていいですよ。」

「え、でも・・・」

「ちょっと待っててくださいね」


彼はポケットから携帯を取り出すと、どこかに電話を掛け始める。
電話の相手が出たのかは分からないけれど、電話尾しながらもゆっくりと車上荒らしに近づいて行く。

私は何度か彼に助けてもらったこともある。
だから、彼の強さを知っているつもりだ。

ただ知っているからといって、相手が武器を持っていたらと考えれば安心できない。


「前中さん」


嫌な想像に私は彼の名前を呼びながら近づいていこうとした。

その時、

「ここで待っててください」

と後ろから来た人に引き戻されるように腕を引かれる。

「何するん・・・」

言いかけたあとの言葉を思わず飲み込んだ。

私の腕を掴んでいたのは彼の秘書をしている男。
そしてもう一人、初めて見る男が1人立っていた。

初めて見るその男は少し厳つい感じで、言ってはなんだけれど怖い人に見えた。


「私達が行ってきますから」


秘書の男〜実は名前をまだ聞いたことがない〜はそう言うと、2人で彼の方へと行ってしまった。
彼も気づくと、2人に何か言っている様子が見えた。

車上荒らしの方もようやく近づく気配に気づいたみたいだった。

最初2人だと思っていた車上荒らしは、3人いたようだった。
実行犯の2人と、見張りの1人という感じなのかもしれない。

見張りの1人が他の2人に何か言っているのが見える。

3人は逃げ道を探すようにキョロキョロし始める。


私の位置からではどんなやり取りがされているのかあまり分からない。

私は待っていろと言われたのに、好奇心とそして彼が大丈夫なのかという不安が入り乱れる。
我慢できなくなった私は1歩ずつ近づいていく。


車上荒らしの3人はバラバラになって逃げることを決めたようだ。
一斉に3人が3方向に別れて走り始める。


ただ、彼の方も3人いるわけで・・・同じようには3方向に追って行くのかと思っていた。

でもそうじゃなかった。

彼はその場から動くことはなかった。
代わりに秘書ともう1人の男が素早く動く。

3人の内の1人だけを捕まえる。

他の2人は姿が見えなくなっている。


少し近づいたけれど、私がいる場所からではまだ話し声が聞こえるような距離ではなかった。
しかも、姿さえもたくさんの車に隠れて見え難くなってしまった。

私はさらに近づいて行く。


「お前、誰の車狙ってんだよ」


私の耳に低くて小さな声、でも相手に恐怖を与えるには十分な声が聞こえてきた。


「助けて、誰か・・・」


次に聞こえてきた声は反対に怯えを含んだものだった。
きっと捕まった1人だろう。

私は姿が見える位置にじりじりと移動していく。

すると、そこには微笑みながら全ての成り行きを眺めている彼がいた。

捕まった人間は若い男だった。
もしかして、男の子と言える年かもしれない。

強面の方が男の子を後ろ手に捕まえると、秘書の方がおもむろに男の子の腹部に拳を突き入れるのが見えた。


「ぐぅ・・・」


男の子は叫び声をあげることもなく、体をくの字に曲げる。

私は暴力シーンに驚き、ただ呆然と見ているしかなかった。

彼がこんなことを許すなんて。

思わず彼の方を見れば、彼は相変わらず微笑んだままだった。

その間にも男の子は何度も殴られていた。

男の子の口から何かが吐き出される。


「ひ・・・」


あまりの光景に私は悲鳴にも似た声を上げていた。

その声は小さかったけれど、その場にいた人間には聞こえたようだ。

一斉に6つの目が私の方を見る。


「良隆さん。待っててって言ったのに」

「あ、私、心配で・・・」

「大丈夫ですよ、2人が来てくれたので」

「そ、そうですね・・・」


私の顔は彼にどんな風に映ってるだろう。

私の声は震えているだろう、でもそれを直すことは今は難しい。


「か、彼はどうなるんですか」

「どうもしないですよ、もう悪いことをしないと言ってますし」


私はその言葉にホッとした。

男の子はぐったりしたままで、動く気配はない。


「良隆さん、帰りましょうか」

「あ、はい」


私は男の子が気になりながらも、彼に近づく。


「社長。私達は帰りますので」

「分かりました」


そう言って私は彼に再び手を引かれながら車に乗り込む。

彼もすぐに乗るのかと思っていた。
しかし、フロントミラー越しに見えたのは彼があの男の子に近づき何か言っている姿。

それでも彼はすぐに運転席にやって来た。

私はすぐに、

「彼に何を話してたんですか」

と尋ねた。


「ああ、これを返してもらったんです」


そう言うと彼は私の膝の上に可愛いピンクの箱を置いてくれた。


「何ですか、これ」

「開けてみてください」


そう言われれば私は嬉々としてリボンを解く。


「これは・・・」

「私からのプレゼントです」


中に入っていたのはいくつもの図書カード。


「10万円分ありますから、ドンドン使ってくださいね」

「そんな、こんなに・・・」

「返されても私には必要のないものですから」

「ありがとうございます」


私はそのプレゼントを箱ごと抱きしめると、彼にお礼を言う。


「でも、あの男の子は大丈夫でしょうか」


喜びもしばらくして落ち着くと、やはりさっきの男の子が気になり始める。


「そんな泥棒のことを心配する必要はないですよ」

「でも、あんなに殴られて・・・」


私はそこまで言うと、さっきまでの光景がフラッシュバックする。

殴られる男の子に、殴る男。
そして、それを見て微笑んでいる彼。


「怖かった」


無意識のうちに言葉が零れ落ちていた。


「怖かったですか」

「はい。あの秘書の人、怖い声で、あの、なんて言えばいいのか」

「まるでヤクザみたい、ですか」

「え・・・?」


彼の言葉に戸惑ってしまう。

実際ヤクザを見たこともない私は、あの場面を見てもどう表現すればいいか分からなかった。

でも、彼にそう言われればそうなのかとも思えてくる。


「よく分からないですが、そんなものでしょうか」

「まあ、それも仕方ないですね」

「仕方ない?」

「ええ、彼ら2人は元々暴走族に所属していたことがあるんです」


彼の言葉は予想外だった。


「暴走族・・・ですか」

「そうなんです、だからその時の言い方というか・・・」

「そうなんですか」

「ええ。でも、根 っこの部分はいい人間なので」

「はい、分かりました」


きっと若い頃のことを思い出し、暴走してしまうということだろう。

私の若い頃は彼らのような溢れ出る力を別の所に注いでいた。


「良かった」

「これで安心してできますね」

「で、できるって・・・」


彼が何を意図しているのかは分かる。

分かるけれど、まだまだ慣れない私は恥ずかしい。

私が何も言わないのを彼は気にしないまま、


「楽しみですね」


そう言いながら彼は車をマンションへと向かわせた。







「ま、まえ・・・なかさん・・・」



私の声の筈なのに、何故か別の人の声にも聞こえてしまう。


「あ、あぁ・・・」


こんな声が恥ずかしくて、彼に聞かれたくなくて、声を抑えようとする。

それなのに、


「良隆さん、今日も可愛い声をいっぱい聞かせてくださいね」


と、口元に持っていこうとしていた手をやんわりと外されてしまう。


「いや、いやです」


私は首を横に振ると、後ろから彼がクスクス笑う声が聞こえた。

その振動は中に入っている彼のモノにも直結していて、私はさらに泣きそうになってしまう。


「良隆さん、私の方を見て」

「え・・・そ・・な・・・」


彼の方を見るということは、今しがみついているクッションを離すということになる。
そして身体を捻って振り返る。

そんな事をすれば、どんな衝撃が私を襲うのか。

きっと気持ちいい。

でも、まだそれに慣れない私はそれが怖い。


「良隆さん」


彼が私に被さってくる。


「・・・ひ」


同時に彼のモノがさらに奥へと侵入してくる。


「こっち向いてください」

「む・・・り。むり・・・ぃ」

「無理じゃないですよ。ね」


彼はきっと私がそうしないといつまでも奥に留まりそうだった。


「ふ、・・・んん・・・」


私はしがみついていたクッションを少しだけ顔から離すと、そのまま顔だけで彼の方を向く。
彼のことを正面から見ることはできず、節目がちになるのは仕方ない。

私の目に映るのは彼の着ているシャツ。

彼はどんなに淫らな行為をする時でもシャツを脱ごうとしない。

最初の時はあまりに夢中で気づかなかったけれど、彼との関係が数回を数える頃に気づいた。


『昔、背中に大火傷をしたんです。付き合った女性に醜いからと言われてからシャツを着るようにしてるんです』


と彼は理由を話してくれた。

私は傷を見た位で嫌いにならないと言ったものの、彼は
『いつか』
と言ったきりだ。

この先もっと彼と深い絆を築けた時、その時こそ見せてくれると信じている。

だから今はシャツ越しの彼に抱きつくのが精一杯の私の気持ち。


「良隆さん」

「あ、あ・・・くぅ・・・ん」


私は首だけを彼に向けた体勢で、彼と唇を合わせる。

実はまだ後ろだけの刺激だけでイケない私を、彼は助けてくれる。
優しく、でも確実に頂点に導いてくれる。


「ふっ・・・んぁ・・・あぅ・・・」

「くっ」


彼が私で気持ちよくなってくれた証拠が、中に溢れる。
ここまでも十分恥ずかしいのだが、


「良隆さん、お風呂に行きましょうか」


この後はさらに恥ずかしいことになってしまう。

明るい浴室で、中から彼の出したものを掻き出される。

もう何度となく経験しているのにいまだに死にそうな程に恥ずかしい。


「私、自分で・・・」

「前にそう言って、次の日にお腹を下すことになったじゃないですか」

「あ、あれは・・・」

「良隆さんは私に全部任せてくれればいいんですよ」


そう言われると、私はもう何も言う言葉が見つからない。

浴室に連れて行かれ、そして再び・・・・


暑い浴室での行為は私の許容範囲内を超えるようで、いつも逆上せてしまう。

彼に抱かれ、部屋に戻るけれどその時の記憶はいつも曖昧。
彼の濡れたシャツにしがみつくけれど、それだけしか記憶に残っていない。

でも、彼に抱かれて移動するのは気持ちがいい。

その気持ちいい記憶を持ったまま、今日も私は眠りに就いてしまう。




浴室での一戦はわざと御木を疲れさせるため。

「ヤクザみたいか。本当のことを知ったらどんな反応をするんだろうな。」

前中は疲れきって眠る御木の髪を梳きながら、もし御木が自分の背中を見てしま ったらと考える。

”逃げるか、それとも・・・”

ただ、今はまだ時期ではない。

そのいつかは分からない、そんな未来を前中は密かに想像しながら眠りに落ちた。

※ あとがき ※
ついに10万hitお礼の小説をお送りいたします。

アンケートで、
カップリングが「前中×御木」
シチュエーションが「偶然前中さんの本性を見てしまい引いてしまう御木さんに焦る前中さん」
が1番となりました。

ただ、焦る前中さんが・・・
あんまり焦っていないですね。

これは本編終了後、数週間という設定です。

ということは・・・(笑)

また本編も楽しみにしてくださいませvv

本当に10万hitありがとうございました。