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俺が勤めている会社は世間的に優良企業として認められている。

しかし、その裏ではヤクザの1人がこの会社を取り仕切っている。
ただこの事実を知っている人間は限られている。

社員の中には自分が勤めている会社の本当の顔を知らない奴もいるだろう。

俺は普通の社員である人間と違う。
高校を中退、街をブラついていて喧嘩ばっかりの毎日。
そして、就職先に選んだのがヤクザという社会のゴミみたいなものだった。

そんな俺が今では社長付きの部下にまで成り上がったわけだ。

しかし、そう簡単にこの位置を守っていられるわけではない。
俺の代わりなんてたくさんいるし、俺の座を狙ってる奴らも多い。

俺が上司の下に就くまでにも何人かの人間が俺と同じ立場に立っていた。
まあ、そいつらは上司の機嫌を損ねたり、上司の極悪っぷりが恐ろしくなり辞退していった。

そんな俺だって上司の極悪っぷりには驚くことがある。

俺の上司は仲間内で悪魔とさえ言われているくらいだ。
俺が就くことになった理由でさえ

「自分のことを怖がっている時の表情が気に入った」

っていうんだ。

そんな上司の下に就いてすでに2年近くになる。

こんなに長く続いているのは珍しいことだ。
それにここまでくれば何とはなしに上司の機嫌を読み取ったり、しようとしていることの10分1ぐらいは察することができるように なっている・・・と思う。

ただ、最近の上司は変わった。

世間的にも恋人ができると人間は少なからず変わると言われるが、そう考えると悪魔だと言われる上司も人間 だったんだと改めて思う。

上司に恋人ができたということも驚きで、それも相手が冴えないサラリーマンだということにも驚ろかされる。

上司に恋人ができた、それも中の中という程度の人間だということはすぐに仲間内に伝わった。
中にはこっそりと相手を視察しに行った奴もいたらしい。

上司が恋人と呼ぶものを作ったのは俺が知る限りでは初めてだ。

そして、毎日機嫌が良い。
これも俺が知る限り最長記録だ。

周りの人間もこれが恋人効果なのかと喜んでいた。

「毎日がとても楽しくて仕方ないですね」

まさかそんな言葉が聞ける日が来るとは思っていなかった。

ところが、この恋人の存在によって上司を軽んじる人間がポツポツと出てきた。


その日は組長の家に金を納めに行った時だった。
月末近くになると、こうして組長の家に人間が集まって来る。

同じ時間帯に来る人間も何人かいるわけで、


「よお、前中」

「こんにちわ」


人相がまんまヤクザな男が俺の上司に声を掛ける。
名前は知らない。
俺が知らないということは、きっと上司も知らないはずだ。

というか、俺の上司は自分が必要なしと思った人間の名前は一切覚えない人だ。

きっと目の前の人間の名前を覚えていない・・・というか覚える必要のない人間に対しても、いちおう挨拶をする。
どんなに失礼な奴に対してもうっすらと笑顔を浮かべ、挨拶する姿は俺自身、見習うべきところだと思っている。


俺と上司はそのまま男の横を通り過ぎて行った。


そんな俺達に男は話があったようだ。


「前中ぁ、恋人ができたんだってなぁ」


上司は足を止め、振り返ると


「えぇ。この度、ご縁がありまして」


と笑顔で話す。

しかし、上司と一緒に振りかえった俺の目に飛び込んできたのは人の神経を逆撫でするような笑顔を浮かべている男だった。
それを見るだけで男が何を上司に言わんとしているのか分かる。


「はは、どんなご縁だぁ?同じ男にカマを掘らせて喜んでいるようなカマと、どうすればお近づきになれるんだろうなぁ」


上司は何も言わず、しかも笑顔のまま話を聞いていた。


「そんなカマだったら、誰にでもさせてるんだろぉ?どうだ、今度俺にも貸してくれよ。一回カマとやってみたかったんだよなぁ」


男はそこまで言うと、高らかに笑い声を上げた。
それはおそらく、他の部屋にいた人間にも聞こえただろう。
いや、逆に男は他の人間に聞かせたかったんだと思う。

俺の上司は常に組の中でもトップクラスに入る程の金を納めている。
もちろん、そうなると組長の覚えもよろしく気に入られている。
上納金の額だけでなく他の理由もあるらしいが、組長に可愛がられているという点においても上司は敬遠されている。

今まで弱点という弱点がないとされていた上司に初めてできた弱点。
それが恋人だと思われていた。


「冗談はやめてください」


上司はあくまでも落ち着いていて、笑顔で答えている。


「なんだぁ、前中。まさかそのカマに本気だっていうんじゃないだろうな」


男はますます声が大きくなっていく様子だった。
上司のことを馬鹿にして、自分の立場を少しでも良く見せようとしているのは明らかだったが、そんなことしない方が良かったんだ。


「あの人のことをそんな風に言わないでください」

「あぁ!?」

「あの人をあなたが付き合ってるような尻軽女と一緒にしないでください」


上司の表情は変わらない。
変わっていないように見えるが、明らかに怒っていた。

それがなんとなく俺には分かる。

分かるようになったことが、ちょっと嬉しく感じる。
だってそれは2年という歳月の間に培われたものだから。

男は相手が全く動揺していないことで、逆に自分が動揺し始めていた。


「お前、お前に何が分かるって言うんだ。男のケツを追い回してるような奴に言われたくねぇなぁ」

「自分の女が何をしているのか知らないで、人の恋人のことをそんなに言える人がいるなんて・・・滑稽ですね」

「なんだとぉ」


上司はそれ以上は何も言わず、男に背を向けると歩き始めた。
俺はただそれに従うだけ。
上司の後ろをついて行こうとすると、

「前中ぁ」

まだ何か言い足りないのか、男が上司の肩に手をやり引き留める。

「お前、あいつの何を知ってるっていうんじゃ」

さっきまで上司を馬鹿にしていた表情はどこへ行ったのか、男の表情は怒りに満ちていた。


「さあ」


上司はというと、そんな男の怒りを逆撫でするように笑顔で答えている。


「お前、出まかせ言うなら・・・・」

「汚い手を離してください」

「あぁ?」

「服が汚れます」

「お前・・・」


男の怒りは頂点に達したようだ。
服を掴んでいた手と反対の手が大きく振り上げられる。

本来ならここで俺が間に入り、上司を守る。
しかし、俺はその場を動かない。

俺が動くより前に上司が男の腕を掴んでいたからだ。


「お前、はな・・・・ぃぃてえぇえぇ」


男の絶叫が廊下中に響き渡った。
上司が手を離すと、男はその場に崩れ落ちてしまう。


「お前・・・お前・・・」

「私は離してくださいと言いました。それを聞いて下さらなかったのですから、当然です」


上司は特に武器を隠し持っているわけではない。
腕の力と、そしてツボを心得ているだけで男にあれだけの悲鳴を上げさせた。

上司の体型から、そんなに筋肉質ではないために勝てると思って向かっていく奴がたまにいる。
しかし、上司は意外にも身体を鍛えているようで、俺よりも握力や背筋力、全てにおいて勝っている。

俺も男ほどではないが、何度かあれを体験したことがある。

まさに腕に電気が走るように鋭い痛みが身体を駆け巡る。
骨が折れるんじゃないかと思える程だ。


「それでは・・・」


そう言うと、今度こそ男に背を向けて歩き始めた。

ただ、この出来事はこれで解決ということにはならなかった。








それから数日後、会社に電話が入った。
社長に用事があるというらしい。

社長への電話は大抵俺にまずは回される。

それから社長に繋げるか、それとも俺が聞くかを決めるんだが・・・


「もしもし」

『おい、俺は社長を出せって言ったんだがなぁ』

「あいにく、社長は会議中で・・・」

『は、そんな見え透いた嘘で誤魔化されるか』


電話の口調などからも、先日の男だろうというのが分かった。


「いえ、誤魔化しては・・・」

『社長だよ、社長の前中を出せ。出ないなら、あいつの恋人がどうなってもしらねーぞ』

「え?」


まさかの言葉に俺は受話器を持ったまま、固まってしまった。

男がとんでもないことをしでかしたのではないかと考えたからだ。

その時、運がいいのか悪いのか、社長室から上司が出てきた。


「電話は誰からですか?」

「あの・・・」


上司はどんな電話なのかまるで分かっているようだった。

あまりに落ち着いていて、それが逆に恐ろしいとさえ思った。


「社長を出せと・・・出ないなら社長の恋人がどうなっても知らないと・・・」


俺がそこまで言うと、上司はフッと笑った。
そして、


「代わります」


俺の持っていた受話器を取り上げた。


「もしもし」


上司はあくまでも穏やかな口調で電話に応じる。


「ご用件はなんですか?」


俺の位置からではほとんど相手の声が聞こえてはこなかった。


「そんなこと、私は知りませんよ。言いがかりはやめてください」


どんな会話がされているのか、それは上司の言葉でしか分からなかった。



「あの人は何も関係ないんですが・・・」



「あの人に何かするつもりなんですか?」



「そうですか、そういうつもりなら・・・・」



上司はスーツのポケットに入れていた携帯を取り出すと、受話器を持ちながらどこかに連絡している様子だった。
しかしそれは携帯で電話をするわけではないようで、すぐに携帯をポケットに仕舞った。


それからしばらく上司は受話器を持ったまま何も話さなかった。


ただ、その受話器から男の悲鳴が少しだけ聞こえたような・・・



「もしもし。それはいつもの所へ運んでください」



上司がやっと話し始めたかと思うと、それはさっきまで話していた男と話している様子ではなかった。
まるで、受話器の向こう側にいるのは別の人間のようだった。


「後で行きます」


それだけ言うと、上司はあっさりと電話を切った。


「あの・・・」


俺は上司に何を言いたいのか、頭の中で整理のできないままに話しかけた。


「あの男は・・・」


「ああ、あの人は私と遊びたかったみたいです。この後、たっぷりと遊んであげようと思って」


上司の言う”遊び”が普通の遊びであるわけがないと分かっている。
きっと、あの男は”遊び”と称して拷問を受けるんだろう。


「もちろん、君も来ますよね」


上司はニッコリと笑っている。
それは本当に楽しみだと言わんばかりだった。



恋人ができたことで上司も世間一般の人間と同じように、何か変わったところがあるのではないかとしばらくは噂の的だった。
まるで悪魔が人間に変わったとさえ言われるほどに・・・

しかし、その噂もすぐに消えてしまうことになる。

何人かの人間が・・・上司に対してやその恋人を侮辱するような発言をした人間が、次々と世の中から姿を消していった。

その中で2人は生きたまま見つかったが、五体満足とは言えない状態で発見された。


それからすぐ、再び上司は周りから敬遠され始める。

そして”悪魔”と再び呼ばれるようになった。


ただ、上司はそんなことを気にしてはいない様子で・・・



「良隆さん、今度私の会社に遊びに来て下さい。この間、本で社長室でっていうのがあったのを実践しませんか?」



仕事の合間にこうしてプライベートな電話をしている。


上司は恋人の前だけ”人間”に戻るらしい。
いや、化けるらしい・・・・






※ あとがき ※
4万hitお礼の小説です。

今回は部下視点で書きたかっただけです。
それができただけで満足で、あとは何にも考えていませんでした。

変なところとかあるかもしれません。

そして、すぐそこまで5万hitが迫っていますね・・・

えっと、「社長室で」っていうのを実現させてみましょうか?