今日は何の日??


「11月11日は何の日でしょうか」

「え・・・」


その日、いつものように2人で夕食をとっていた。

店は彼が選んでくれた店で、一般的に高級といわれているようなレストラン。

自分のお金では決して候補にあがることすらない所。

最初はキョロキョロと不躾に辺りを見渡すことが止められなかった。

それも、毎回そういう場所に連れて行かれるとなれば少しだけ落ち着いて周りを見ることができる。

そして、食事の味もようやく理解できるようになってくる。


食事はメインが終わり、もうすぐデザートのプレートがやってくる頃。


彼が急に不思議なことを言い出した。


「今日は11月11日でしょ」

「はぁ・・・」

「今日は何の日でしょうか」

「え・・・」


思わず彼の誕生日だったかと考えてしまう。


「誰かの誕生日・・・でしたか」


私がそう答ると、彼はにっこり笑いながら


「残念、違います」


と言った。


次に私が考えついたこと、それは


「何かの記念日でしたか」


2人の記念日だったかということ。

申し訳ないが、私は彼と出会った日や付き合いだした日を正確に覚えてはいない。

だから、もし付き合いだして何百日目だとか言われても分からないのだ。


「記念日・・・といえば、記念日なんでしょうか」


私の答えに彼は困った顔をして、首を傾ける。

その仕草があまりに似合っていて、私は思わず答えなど忘れて見とれてしまう。


「良隆さん?」

「あ、・・・あの、ヒントとか・・・」


私は見とれていたことを隠したい気持ちもあり、変に声が高くなってしまう。

恥ずかしくて、顔が熱くなる。


「そうですね」


彼がヒントをくれる間、私は手で顔を扇いで少しでも顔の火照りを冷まそうとする。


「ヒントと言われると、何を言えばいいか迷いますね」

「そ、そうですよね」


彼は小声で、
「あれだとすぐ分かるし・・・あれは分かりにくいかも・・・」
と私へのヒントを考えてくれている。


「分かってしまってもしょうがないですね」

「え・・・」

「ヒントはテレビです」

「テレビ・・・」


彼はまるで意を決したかのように言ってくれたが、そのヒントでは私は全く何も思い浮かばなかった。


「・・・・分かりますか」


私の表情を楽しそうに眺めている彼に、私は困った表情しか返すことができない。

自分の感の悪さに少し落ち込んでしまいそうになる。


「それじゃあ・・・最終ヒント、お菓子です」

「お菓子・・・ですか」


よっぽど私は変な顔をしていたのだろう、彼は


「お願いします」


と笑いながら・・・この場合、苦笑っていう方がいいのかもしれないが・・・店員に何か頼んだ。

店員は何も言わず、軽く頷くと奥へと戻っていく。


「正解がもうすぐ来ますから」

「え・・・」


それから本当に数分だった。

店員がテーブルにそれぞれデザートを置いてくれる。

ただ、私のそれと彼のでは1部分だけ違った。


「これって・・・」

「それが正解です」


デザートは表面がこんがりと焼かれた小さなケーキと、鮮やかなオレンジ色をしたアイスだった。

それが、私のケーキには1本のよく見たことがあるお菓子が刺さっていた。


「今日はポッキーの日なんですよ」

「え・・・」

「さあ、良隆さん」

「はい」


私は彼の声を聞き、反射的に顔を上げる。


「そのポッキーを手に取ってください」


もしかして彼はこれをわざわざ用意してもらったのだろうか。

本当にこれは巷に出回っている物なのか、それとも無理を言って似たものを作ってもらったのか。

私はそんなことを考えながら、そのケーキに突き刺さっているものを手に取る。

本来はケーキに刺さる役目の物ではないはずだ。

それでなくとも、ケーキに突き刺さっているポッキーというのはシュールな映像だった。


「どっちでもいいですから、端っこを口に・・・」

「ん・・・」

「そうです、そうです」


この時点で私の中で、もしかしてという気持ちが沸き上がる。

そして、それが本当らしいということに気づいたのは彼が身体をのばしてきた時点だった。


カシュ、カシュ


2人が奏でる音は乾いている。

でも、それとは反対に私の心は燃え盛っていた。

ほんのりビターなチョコレートも、今の私にはとてもそれを堪能できることはできない。


どんどん近くなっていくお互いの顔と顔。


彼だけでなく、私もテーブルから身体を起こす。


「ふふ・・・」

「んん」


私達は唇が触れ合った後もしばらく顔を離さなかった。


そしてようやく唇が離れる時、彼は笑いながら私の唇に溶けて付いていたチョコレートを舌で舐めとっていった。


「ポッキーの日っていいですよね」


彼はそう言うと、チュッと音がする軽いキスをくれた。





※ あとがき ※
特に意味のない記念小説でした。

久しぶりに2人を書くためのリハビリ小説という感じですね。

「True」がシリアスなので、これだけでもほんわかさせました。