ぺこり庵

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■数学は何の役に立つか

 

数学の世界に「フェルマーの最終定理」というシンプルで美しい定理があります。 その定理を証明したのはプリンストン大学のアンドリュー・ワイルズという人です。 彼はこの問題に取り組んでいた最初の7年間、他の研究には一切手をつけず、しかも研究の内容を誰にも明かしませんでした。 そのため周囲の人間は彼が何をやっているのか見当もつきませんでした。 その彼がついにこの定理の証明を発表したのは1993年のことです。そのニュースは、世界中を震撼させました。 なぜならこの定理は最初に予想が立てられてから350年もの間誰にも証明できず、これに挑戦してきた幾多の天才の人生が水泡に帰してきたからです。
 ところでこの定理が「何の役に立つ」か? もちろん、何の役にも立ちません。けれども、この定理を人類の最高の至宝たらしめているのは、 何の役にも立たないにもかかわらずそれに人生を賭けて立ち向かった人間がいたという事実そのものです。芸術もしかり、とぼくは思います。
 以前、ぼくが学習塾で数学を教えていたとき、生徒から「何のために数学なんて勉強するの?」と質問されました。 ぼくは「自然の摂理の不思議さに感動するためだよ」と答えました。 生徒はわかったようなわからないような顔でぽかんとしていました。

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