(2015年10月8日)
私は毎日お風呂に入る前に体重計に乗っています。メタボを心配しているわけではありませんので単なる習慣に過ぎません。それでも一番活動し易い体重に比べると1kgか2kg多いように思います。我が家の体重計もいつの間にかデジタル表示に変わっていて、目盛版が回転するものや、針が回転するメカニカル機構による表示の体重計ではありません。この体重計のデジタル表示は数字が小数点一桁まで出て0.1kg単位です。体重計に乗る時の重心の掛け方で数値が少し動きますので、実際には誤差が0.5kg程度あるかもしれません。
(注)本来問題にすべきは体質量です。体重計は地上で使う限り、質量に比例した量を表示しますので、体重計は重さで計った質量の意味です。このブログでは慣習に合わせて体重表示を質量単位のkgで表示しています。
もし、g(グラム)単位で数値が出る体重計を作ることが出来ればその体重計は高精度体重計として売れるのではないかと思います。食前食後でも体重の違いが判るからです。
まず、体重計はどのようなセンサが使われているのか使わなくなった体重計を分解して調べてみました。図−1、図−2です。
図−1
体重計の内部
図−1を見ますと、足の裏から伝わった体重は金属のリンクで中央の金属片を曲げるようになっていることがわかります。金属片の中央は少しくぼませてあって青色のテープが巻かれています。このテープの下に歪(ひずみ)ゲージが貼ってあります(図−2).
図−2 貼られた歪ゲージ
この歪ゲージからリード線が3本出ています。良く見ると、この歪ゲージは2枚のゲージで構成されています。計測回路はホイートストーン・ブリッジ回路が使われて、2枚のゲージで温度補償がなされているのでしょう。
この金属片の歪の量から金属片に働いている応力を知る仕組みです。応力と歪の関係式はフックの法則です。フックの法則は、歪は応力に比例するというだけです。その比例定数はヤング率と呼ばれ、材料の種類によって数値は異なります。
歪の量は元の長さに対して力が掛ったときの伸びまたは縮みの量の比で表します。この比の値が百万分の一をマイクロと称し、歪の単位のように扱います。フックの法則で応力と歪が比例関係にあるのは精々1000マイクロです。従って、体重計に使う場合、100kgの人が乗ったとき1000マイクロの歪になるように計測用の金属片の大きさを設定すれば、最大100kgの体重計となります。
歪ゲージは金属片と一緒に伸縮することで抵抗値が変化します。この抵抗値の変化を電流の変化に変えてデジタル表示をすると小数点一桁までの表示は出来るという仕掛けです。電流値の表示だけならもう一ケタ多くできるかもしれません。しかし、温度変化による回路定数の変化など誤差要因を考えると無意味な数値になることは明らかです。
歪ゲージも2mm四方ぐらいの大きさで非常に小さなものです。これではグラム単位の高精度体重計を作るのは到底無理な話です。私は何かうまい方法はないものかとずっと考えておりました。
ところが昨日のことです。CEATEC
Japan
2015の太陽誘電の展示ブースを見て驚きました。20名足らずの訪問者を相手にクイズを出していたのです。そのクイズは「体重60kgの人を測る計測器の精度はどれでしょう」という3択問題で、選ぶ答えは@60g、A6g、B0.6gなのです。そして正解はB0.6gというものでした。
何と、60kgに対して0.6gなら、その計測器は1/100,000の精度があると言っていることになります。体重計の表示桁は6桁ほど必要です。まさに高精度体重計が出来ているのでしょうか。本当かなと疑問を抱いて家に帰りました。
太陽誘電のHPを開いて調べてみると、関連していそうな製品では光変位センサが見つかりました。測定原理の説明もあります。
http://www.yuden.co.jp/jp/solutions/optical/outline/
仕様を見ますと、検出範囲が1000μmで測定精度が±0.1μmとあります。歪ゲージを貼る代わりにこの光センサを利用したとすると最大1mmの変化を0.1μmの精度で計測できるということですから1/10,000となるでしょう。歪ゲージよりは精度の良い体重計が作れる可能性がありますが、それでも展示ブースでのクイズのB0.6gは無理なように思われます。
回答者はBと答えて賞品を貰っていたのですが、今から考えると正解はAだったのをプレゼンターが間違えたのでしょうか。それとも、太陽誘電では本当に高精度体重計は実現できているのでしょうか。
(了)
(補足)
今日、CEATEC
Japan
2015の3日目、もう一度太陽誘電のブースを訪ねました。光変位センサの説明担当を掴まえて聞いてみました。すると、60kgに対して0.6gの精度は出来る筈とのもとに体重計を開発中であるとのことでした。まだ実現はしていないということです。電流値は精度よく測定できるということが基本にありますが、1Aの測定レンジで10μAの分解能が実現できるものでしょうか。電子回路の専門家を見つけたら聞いてみたいと思います。
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