何も力が掛っていない物体  

(2022年10月19日)


 @地球上の物体で何も力が掛っていない状態は無い

 空を飛んでいる飛行機はジェットエンジンやプロペラの推力を受けています。グライダーでも揚力や空気抵抗を常に受けています。海水面を走る船は造波抵抗やプロペラの推力を受けています。

 動くものばかりか、地上に静止している物体も常に力を受けています。建物は自重に等しい反力を地面から受けています。体質量50kgの人が体重計に乗るとデジタルで数字が50と出るでしょう。このとき、体重計から足の裏に500Nの力を受けているのです。

 地球周辺は重力場ですから、いかなる物体も重力の支配下にあります。重力の物体に対する影響は重力中心に向かって加速度運動を引き起こすということです。そして、この運動を阻止するとその物体には慣性力が生じます。これが重さです。阻止する力は地面反力です。

 質量mの物体を地上に静止させると、地上の重力加速度がgですから、mgの慣性力が生じるのです。この慣性力が重さであり地面反力と等しいのです。

 

 A何も力が掛っていない唯一の状態がある

 地球周辺は地球の重力場にありますからどのような物体でも静止させれば慣性力が生じます。これを逆に考えますと重力場にある物体の重力加速度運動に抵抗しなければどうでしょうか。これが自由落下と言う状態です。

 空気中では空気抵抗が生じますから自由落下は出来ません。高度100km以上の宇宙空間ならほぼ真空ですから自由落下状態は容易に作れます。人工衛星や宇宙ステーションも重力の方向に直角方向に速度を持っているだけで自由落下状態にあることに違いはありません。

 「自由落下状態にある物体には重力が消えている」ことに気が付いたのがアインシュタインで1907年のことでした。つまり、自由落下状態にある物体には何の力も働いていないのです。

 現在のニュートン力学では、宇宙ステーションの中が無重力状態になっているのは重力と遠心力(慣性力)が釣り合っているからとの説明がなされています。これは誤った説明です。

 

 B等価原理

 「自由落下しているエレベータの室内空間と全ての星から遠く離れた空間では全ての物理法則が同じように成立する筈である」。これは証明出来ないことなので原理として認めることにするのです。これがアインシュタインが一般相対性理論の構築に当たって元にした等価原理です。
 重力場での自由落下状態にある空間と重力場でない空間で物理法則が同じであるために必要な条件を光速一定を仮定し、リーマン幾何学により一般相対性理論が構築されているとのことです。

 

 C重さは慣性力である

 今質量mのロケットが発射台に立っているとします。すると発射台はW=mgの重さに等しい反力で支えています。そして、このロケットがエンジンを吹かしたものの推力Fが丁度F=Wであったとしますと、ロケットは発射台から殆ど浮いた状態を保ちます。燃焼と共にロケットの質量は小さくなりますが、推力も合わせて小さくなっていくなら、このロケットは何時までも浮いた状態を保ちます。

 このようなロケットを重力場でない宇宙空間で同じように推力を出すと、このロケットは推力Fを出すことによって加速度gで飛行しますからロケットは慣性力mgと釣り合いながら飛翔することになります。このときエンジン推力Fに釣り合っているのは慣性力mgです。

 このことから地上に静止させた物体の重さと言うのは慣性力であることが判ります。

 

 D重力質量は不要の概念であった

 質量mの物体が地上に置かれたとき重さWであるとき、重力加速度gなのでW=mgで表されます。この時の質量mは重力質量と呼ばれます。
 一方質量mの物体に力Fが作用してその物体が加速度αで動くとき、ニュートンの運動の第2法則でF=mαの関係があります。この式で表した時の質量mは慣性質量と呼ばれます。
 長い間、慣性質量と重力質量は同じものであるか検討されて違いは見いだせなかったのです。重力質量と慣性質量は同じであると等価原理として認めることにしたと説明している人もいます。

 しかし、上述の重さが慣性力であることの説明からも分かるように、重力質量の概念は不要でした。質量は慣性質量の概念だけで良かったのです。重力質量の概念は不要であったと説明している人は意外に少なくて、小野健一ぐらいです。アインシュタインも重力質量という用語を使ったためかも知れません。

 

 E質量の唯一の特性は慣性である

 質量は物体を特徴づける全ての物体が保有する特性です。質量が大きいとは重いことで良かったのです。質量とは重さでしょうと混同して使っても少しも困りませんでした。

 ところが宇宙ステーションの中ではどんなに大きな質量の物体でも重さがありませんから重さと質量は明確に区別されるようになりました。多くの大人は混同したままですが、現在の理科の教科書では質量と重さを明確に識別し、質量の単位はkgであり、重さの単位はNであると正しく書かれています。

 質量の唯一の特性は慣性があることです。慣性とは動きの変化のしにくさです。止まっている物体は何時までも止まっているし、速度Vで動いている物体は何時までも速度Vで動いています。ニュートンはこれを運動の第一法則としました。

 この動きを変化させるときに質量が大きい物体ほど大きな力が必要なのです。質量mの大きさを決めるには力Fを与えてどのぐらい速度が変化するか(加速度α)を見なければなりません。このときニュートンの運動の第2法則F=mαが成立します。(ニュートン自身は力は運動量の時間変化としました)

 F=mαは運動方程式とも呼ばれていて力の単位Nを規定する式としても使われています。しかし、私はこの式は質量の大きさを決める慣性方程式と呼ぶことが適切であって、力は圧力×面積として定義した方が良いと提案しています。

 

 F万有引力と称する力は無かった

 ニュートンはハレーに万有引力があればケプラーの3法則が導けることを示しました。それ以来、天体の動きはすべて予測できるようになりました。逆にケプラーの3法則からニュートンの万有引力の式を導くこともできます。

 ところがケプラーの3法則からニュートンの万有引力を導く途中で、加速度の項を力/質量に置き換える必要があります。ケプラーの3法則はチコ・ブラーエの惑星の観測データから作られています。観測データというのは時間と位置の集積ですから、これらから作られる物理量は、位置、速度、加速度、必要なら加加速度、であって、次元的に考えて、力や質量は出てきません。加速度の項を力/質量で置き換えたことは加速度があれば力が作用しているという仮説に過ぎなかったのです。

 ニュートンの万有引力の式は力の式にすることによって対照的な美しい形に収まっていますが、ケプラーの3法則から演繹的に導けるのは加速度の式までだったのです。このことから物体に重力が作用しているということは加速度運動をもたらすことであって力が作用しているのではなかったのです。

 

 Gフライバイで宇宙機が壊れることはない

 深宇宙まで飛行するボイジャーのような宇宙機は木星や土星の重力を利用して加速させることが不可欠です。宇宙機に積めるロケットエンジンと燃料には厳しい制限があるからです。惑星の公転運動からエネルギーを貰って方向転換だけでなく加速します。このことを惑星フライバイと言います。

 惑星への近づき方によっては加速でなく減速してしまうこともあります。月がどうして出来たかということは確定した答えはまだありませんが、地球に捕らえられた天体であるというのもあります。これは地球の重力により減速させられたということです。

 宇宙機がフライバイにより加速するにしても減速するにしても重力に従って飛行していることは変わりありませんから力は働いていません。従って、フライバイにより宇宙機が壊れるようなことはありません。

(了)


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