質量の定義  

(2017年11月26日)


 この世に存在するあらゆる物質に共通な特性は質量である。それはすべての物質が分子からなり、分子は原子の集合体であることによる。原子は人工物も含めて100種類以上あるがすべて質量がある。原子を構成する陽子や電子という素粒子に質量があるからである。ニュートリノは長らく質量がないと考えられてきたが質量があることが実証されて間もない。それではすべての素粒子に質量があるかというと必ずしもそうではない。光子には質量がない。光子は物質とは言わないからすべての物質には質量があると言って間違いないだろう。

 「綿1トンと鉄1トンでどちらが重い?」という有名なクイズがある。うっかりと「鉄の方が重い」という答えが返ってくるのを期待して「どちらも同じだよ。両方とも1トンだから。」と答えることになっているひっかけクイズである。

 しかし、もう少し厳密に検討すると「トン」は質量の単位であるから、両方とも質量は同じなのである。重さで比較すると地上で測れば周囲の空気による浮力が関係するから違ってくる。密度の低い綿の方が体積が大きく浮力も鉄より大きい。従って、「鉄の方が重い」という答えもあながち間違っているとは言えない。真空中で比較すれば浮力がないから、やはり「同じ重さ」ということになる。

 質量とは文字どうり物質の量なのである。これらを比較するためには基準が必要である。そこで、最初は一辺が10pの立方体(1リットル)の水の量を基準とし、1kgとした。水は世界中のどこにでもあるし、分かり易くて良いのだが、温度4度Cの純水と指定しても、なお誤差があるとのことで1889年に国際キログラム原器に取って代えられた。

 パリの度量衡局で保管されている国際キログラム原器を1kgと定義したのであるから、例えこの原器が錆びることがあっても定義により1kgなのである。しかし、40個同じものを作って各国に配った副原器で時間変化などが報告されると、正の原器も変化しているのではないかと考えられるようになった。結局2014年に国際キログラム原器は廃止されることが決まった。

 新しい質量の基準はシリコンの球を1kgになるように作成し、その球に含まれる原子の数を抑えることにするそうだ。アボガドロ定数を高精度で決めることに成功し、この成果から来年にも1kgが定義されるようである。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/a/072100020/

 科学者の行う実験精度は物を作る立場の工学者から見ると信じられないほどの高精度である。原子は同位体などがあって全部が同じではないから、最終的には陽子の質量を数えるところまで行くのかも知れない。陽子の質量は1.6726219×10^-27キログラムである。陽子の質量が一番不変である。陽子崩壊もしない。陽子崩壊を観測できればノーベル賞と言われているぐらいである。

 質量の特性は何ですかと問われれば即座に「重さ」でしょ、という答えが返って来るかもしれない。実際、現在世界の最先端で活躍している物理学者、大栗博司博士でさえ大衆向けの解説書「重力とは何か」で「質量と重さは実質的に同じもの」とまで書いている。

 重さは地球の表面で物体が示す力であるから単位が「N」(ニュートン)であり、質量の単位[kg]とは異なる。最近の理科の教科書では質量と重さは明確に使い分けている。宇宙ステーション内ではすべての物体の重さが無くなっていることをTVで見て実感できる。理科の教科書で質量と重さは明確に区別して教えざるを得なくなったものであろう。

 史実としては1901年に国際度量衡総会が「質量と重量を峻別せよ」との趣旨声明を発表していたそうであるから、日本では100年以上かかったことになる。

 質量の特性は次の三つがあると考えられる。

(1) 質量には慣性がある。
  ニュートンの運動の第一法則が慣性の法則である。何も力が働かなければ静止している物体は静止を続け、運動してる物体は直線等速運動を続けるというものである。相対性理論では物体は重力場で自由落下を続けるとなる。相対性理論ではと断っているが、相対性理論が古典力学を修正したとされる現在では断る必要はない。力に対して抵抗する度合いが質量の大きさによって決まる。ニュートンの運動の第2法則は質量の慣性の大きさを表現するものと解釈すべきである。
 質量1kgの物体の慣性は1Nの力が作用すると1m/s^2の加速度運動を生じる大きさである。

(2) 大きな物体の質量はその物体の周辺の時空をひずませる。つまり重力場をつくる。
  大きなと断った理由は日常目にする大きさの物体の質量程度では重力場が小さすぎて全く検知できないからである。大きな物体の質量をMとすると、その物体の中心からrの距離にある場所の重力場はすべての物体に次の大きさの加速をを与える重力場を生ずる。これを重力加速度という。
      g=MG/r^2  
 ここで、Gは万有引力定数である。

(3) 重力場にある物体は加速度運動をする。
  すべての物体は質量があるので重力加速度の運動をする。質量mの物体が重力加速度gの重力場にあって、これを静止させるためにはF=mgの力が必要である。mgが重さであり、慣性力である。

 これらのことから「質量の単位1kgは1Nの力が働いたとき加速度1m/^s2を生じる量」と定義するのが良いのではないだろうか。現在の力の定義を言い換えただけだから、このように質量の定義を変えても実際上の不具合は何も起こらない。

 それでは力の単位1Nの定義はどうするかである。現行の定義は次の通りである。
 1Nの力の大きさは質量1kgの物体に働いたとき、1m/^2の加速度を生じる。

 この定義が物理に反するものであることは、1Nの力が反対方向から同時作用したとき、力がかかっているのに加速度はゼロであることであることから分かる。今まで誰もおかしいと言わなかったことが不思議なことである。

 1Nの力の大きさはフックの法則を利用して物体の弾性を利用して決めるか、圧力×面積で決めるかであろう。物理の意味からは後者が良いと思われるが、自然現象で適切な圧力基準となるものは見当たらない。弾性ある金属を利用してニュートン原器を作るのが実際的かも知れない。

 なお、現在SI単位で質量は基本単位とされているが、ここで提案したように質量1kgの定義が変更されると組立単位に格落ちすることになる。

 しかし、長さの単位1mは基本単位とされているが、メートル原器から光速を利用した単位に変更されている現在、本来は速度が基本単位になるべきで時間を乗じた長さは組立単位に格下げになっている筈である。慣習により基本単位にされているだけである。この故に、質量の単位の定義が変わっても基本単位のままとしても不都合はない。

(了)


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