龍勢ロケットの姿勢安定について  

(2019年5月4日)

(追記:2020年2月29日)


 埼玉県の秩父市で毎年行われる龍勢祭りでは手作りのロケットが打ち上げられる。このロケットの打ち上げは椋神社に奉納されるものであるが現在では観光対象として見物に出かける人も多い。

 このロケットは竹竿の先の方に火薬を推進剤とするロケットモーターを取り付け櫓に差し込んで発射される(図ー1)。このロケットの構造は図ー2,3に示す。以後、龍勢ロケットと略す。

 何故長い竹竿が必要か、しかもロケットモーターを竹竿の先の方に付ける必然性はあるのだろうか。

図ー1 龍勢ロケットの発射

図ー2 龍勢の構造

図ー3 龍勢の内部構造

 一般に固体ロケットは点火直後の姿勢が不安定である。このため尾翼を持っているロケットでも発射台にレールを取り付けていることが多い。(図ー4)

図ー4 発射台に取り付けられた固体ロケット

 龍勢ロケットの長い竹竿の第一の役割は発射台の櫓から打ち出すことで点火直後の姿勢安定を図っていることである。

 それでは飛行中の姿勢安定はどのような方式が取られているのであろうか。とにかく、このようなロケットはなるべく真上に打ち上げる必要がある。

 龍勢ロケットの場合、火薬筒を竹竿の先端部分に付けないとやぐらに引っかかってしまうから先端に付ける必然性はある。

 飛行中の安定は、やじろべえ安定であると考える人が多いのではないだろうか。やじろべえ安定という言葉で思いつくのがゴダードのロケットである。

 ゴダードは米国のロケット開発の父と呼ばれる人である。彼が飛ばした液体ロケットは写真に残っている。(図―5)

図ー5 ゴダードの液体ロケット

 この写真で明らかなようにロケットエンジンの噴射口は上部に取り付けられている。燃料と酸化剤タンクは下部にあってこれらの推進剤はパイプを通って上部に運ばれる。

 何故、ゴダードは噴射口を上部に取り付けたのであろうか。このロケットを真上に打ち上げようとしたことは言うまでもない。この説明にやじろべえ安定を考えたからであると誤解している本などが散見される(参考ー1)。ゴダードもそのように考えた可能性はあるが、このロケットはやじろべえ安定になっていない。

 やじろべえ安定は支点を重心より上にすることにより、何もしないで復元力モーメントを得るものである。(図―6)

図ー6 玩具のやじろべえ

 ゴダードのロケットは噴射口が上部にあって着力点が重心より上にある。一見、やじろべえ安定のようにみえる。しかし、本体が傾くと噴射口も傾く、つまり推力の方向は常に重心を通っていて復元力モーメントは発生しない。

 龍勢ロケットを飛行安定に関して観察すると、推力の発生個所は重心より上にある。しかし、ゴダードのロケットと同じく竿が傾けば噴射口も同じように傾き、復元力モーメントが発生するわけではない。

 龍勢ロケットはスピンがかかることにより安定して上方に飛んでいく。このスピンがかかる理由は噴射口が少し傾いて取り付けられているからである。少し傾けて取り付けることを長老が伝承技術として伝えているのであろう。あるいは、むしろ噴射口を竹竿と平行になるように保つことの方が難しいかも知れない。

 龍勢ロケットが飛行中にスピンがかかっていることはYoutubeで動画を見ればよく判る。龍勢ロケットの飛行安定は槍投げの選手がスピンをかけて投げることと同じである。
https://www.youtube.com/watch?v=GZ3NoD0yt_4

 こちらは龍勢まつりについても説明されている。
https://www.youtube.com/watch?v=XwXlbg9G_5Q

参考ー1 誤解していると思われる記事
http://pocari.hatenablog.com/entry/20130228/asari12

(追記)
ゴッダードが推力の発生部を上部に持ってきた理由は座屈を避けるためだったのかも知れない。比較的重い燃料と酸化剤のタンクを押し上げるための構造材を太くするより引き上げた方が軽いと考えたのではないだろうか。

ゴッダードのロケットは推進剤タンクが下部にあり燃焼室は上部だから推進剤を燃焼室に導くにはポンプかあらかじめタンクに窒素などの高圧ガスを封入する必要がある。写真で見る限りポンプではなさそうである。エンジン点火も外部から火炎を近づけたのであろう。よくこの装置で高度400mほど飛翔できたものである。

(了)


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