キログラム原器の廃止について  

(2018年9月3日)


 国立科学博物館の地球館地下3階は「自然のしくみを知る」と題した展示が常設されています。ここにキログラム原器が展示されていて、「キログラム原器ー合金製の円柱は100歳をこえた今も現役」、とあります。現行の定義は簡単です。

 現行の定義:キログラムは質量の単位であり、国際キログラム原器の質量に等しい

 少し詳しい説明がつぎのように書かれています。

 1889年に正式に1kgの原器として採用された。「国際キログラム原器」が一つあり、それと同等の原器がメートル条約の加盟国に配られた。メートル原器と同じく白金90%−イリジウム10%の合金でできていて、高さが39mm直径が39mmの円柱形をしている。メートルをはじめ、他の基本単位の標準が原器という現物から光の波長などの自然界の不変な量にに移っていくなかで、ただ一つ原器として現役である。

 キログラム原器は現役であるとの説明ですが、2018年11月の国際度量衡総会において廃止されることが決まっています。新しく提案された定義では次のように難解なものになるようです。

 提案された定義:キログラム(kg)は質量の単位である。その大きさは、単位s-1・m2・kg(J・sに等しい)による表現で、プランク定数hの数値を6.62607015×10-34と定めることによって設定される。この変更により、キログラムの定義は秒とメートルの定義に依存することになる。

 キログラム原器の展示から少し離れた場所に単結晶シリコン球の展示もあり、密度の標準として用いるとの説明です。さらに、「これを質量の標準にしょうとする研究が行われている。」とあります。

 半導体技術の進歩で極めて純度の高いシリコンが作れることから、高精度の質量測定ができるということなのでしょう。原器は廃止することが出来るものの、キログラムの定義は複雑にならざるを得ないようです。殆どの実務上は超高精度を必要としないのでキログラム原器が今までどうり使われることになるのではないでしょうか。この意味では今後も現役でしょう。

 キログラムの基準となる原器がどのようなものになろうと、何かの質量を知るためにはこの原器と比べなければなりません。では何を比べることで質量を知ることができるのでしょうか。それは体重計などの秤でしょう、とすぐ答えが返ってきそうですが、宇宙ステーションの中では体重計が使えません。もう一度質量の特性について考える必要があります。

 質量には次のように@からEまでのの特性があります。まだあるかも知れませんが。

@ 自由落下する
 地上だけでなく宇宙空間は大なり小なりの重力場です。どのような物体でも質量があるかぎり、重力場の決める方向に加速度運動をします。これを自由落下(運動)と言います。

A 重力場をつくる
 大きな質量の周囲には重力場ができます。質量Mの中心からrの距離にある場所の重力(加速度)の大きさはMG/r2です。Gは万有引力定数です。小さな質量の場合にも周囲に重力場が出来ているかは重力が小さすぎて検知できません。実証できないことは相手にしないのが物理です。

B 重さを生じる
 重力場で自由落下を止めると慣性力が発生します。これが重量でもあり重さでもあります。地上における質量の測定にはもっぱらこの特性が用いられてきました。現在もこれからも実測では一番の方法です。しかし、宇宙ステーションの中ではすべてが自由落下中ですからこの方法が使えません。

C 質量は保存される
 化学反応の前後で全体の質量変化はありません。これを質量保存則と言います。しかし、核反応があると質量保存は成立しません。

D エネルギーと等価
 アインシュタインの特殊相対性理論の結果でもありますが、質量はエネルギーと等価であるとみなすことにより、エネルギー保存則は常に成立します。

E 慣性がある
 すべての質量には力に対して運動変化に抵抗する性質があります。これを慣性があると言います。大きな質量の物体は動かしにくいし、動いている大きな質量は止めにくいのです。慣性の大きさは、ニュートンの運動方程式は力をF、質量をm、加速度をαとするとF=mαですから、m=F/αです。つまり運動方程式は見方を変えれば慣性方程式でもあるのです。

質量の定義変更(案)
 キログラム原器がまさに変更されるときですが、精度が高く実測できる方法は時代の趨勢に従い変更されるものとして、物理的な意味の質量の単位(キログラム)は次のようにEの性質を使って定義することが適切であると考えられます。

 1キログラムの質量は1ニュートンの力を加えている間、1メートル/秒2の加速度を生じるだけの慣性をもつ大きさ

このとき、1ニュートンの定義1パスカルの圧力が1mの面積に作用したときの大きさです。

 

(参考) 2018年9月3日付朝日新聞のニュースです。
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180903000125.html

 

(了)


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