力の定義を変えよう  

(2018年2月25日)


 「力」は広く使われる用語の一つである。一般的には何かを動かす原因となる作用を力ということが多いように思われる。岩穴に隠れてしまった天照大神を引き出すため、力持ちの須佐之男命が大きな岩を動かしたという伝説もある。力と言えば人間の腕の力が元祖であろう。現代でも、力士やプロレスラーなど力を生活の糧にしている人たちもいる。

 何かの物体に力を負荷すると、その物体は二つの変化が生じる。物体と断っているのは話を混乱させないために分子や原子のようにミクロな対象を除きたいからである。理論物理学でこれらのミクロな対象に働く作用も力と言っているが相互作用のことであって簡単に力と称しているだけであろう。

 工学で対象とする力は物体に作用する力である。日常の生活で目にするのはマクロな対象に作用する力である。物体に力が作用すると次の二つの変化が生じる。両方の変化が生じることが力を特徴づけている。

1.その物体に加速度運動を起こす。(負荷した力は慣性力と釣り合っていると考える。これをダランベールの原理という。)

2.その物体に応力・ひずみを生じる。(常に、ひずみを検知することで力を検知できる。)

 慣性力というのは物体の加速度にその物体の質量を乗じた量で、これを体積力と考える。

現在の力の定義

 力の大きさの単位は、[kg-w](キログラム重)が長らく使われていたが、現在は[N](ニュートン)である。Nの定義は次のとおりである。これは4年に1度パリで開かれる国際度量衡総会で決められ、SI単位と称される。

  定義【1】 1Nの力は1kg(キログラム)の質量に作用したときに1m/s^2の加速度を生じる

 物理で必要な各種のSI単位は7種の基本単位とその他の組立単位がある。力の単位[N]は基本単位である、質量[kg]、長さ[m]、時間[s]から構成された組立単位である。Nの定義にはニュートンの運動の第2法則を基に構成されている。

 SI単位としてのNは力の単位の定義であるが、力の定義でもあると解釈されている。力の定義【1】として上記の物体の変化1.だけを採用したことになっている。このため加速度に質量を乗じた量はすべて力であるとみなされる。

 これまで誰も指摘していないようであるが、実は力の定義【1】に2.を無視して1.だけを採用していることがいくつかのおかしな状況を招いている。

 力とは質量に加速度を乗じたものと定義することが不適切な理由:

@ 日常の生活で普通に使う力の概念にあっていない。
 冒頭にも述べたように力と言えば力士の発生する力であったり、構造物や機械を動かしたり、破壊の原因となる作用である。日常の生活で関係するのは物体の運動よりも応力・ひずみが関係することの方が多い。

A 力の釣り合い状態を表していない。
 力は常に釣り合った状態である。物体に作用する二つの外力が均衡していると物体は動かないから加速度はゼロである。定義【1】は力の測定に使えないばかりか、力の均衡状態を説明できない。

B 座標系に依存する。
 力は座標系に依存しないが、定義【1】では座標系に依存してしまう。このため、みかけの力を考えざるを得ない。このため、時に実際の力とみかけの力との混乱が生じている。
 ロケットの推力飛行中に宇宙飛行士は加速度を感じて推力の発生を感じるがロケットに固定した座標系で見れば加速度はゼロである。

C 実際に定義どうりに測定できない。
 力を測定するときに使われる器具はロードセルやばねばかりである。これらは応力ひずみのフックの法則を背景にしているのであってニュートンの運動方程式を基にしているのではない。
 組立単位であるから、実際に定義どうりに測定できる必要性は必ずしもないが、加速度を測定して力を決めることは、まず行われていない。

D 力が関係する多くの工学の分野で使われていない。
 構造力学、材料力学、建築工学、等、SI単位の[N]が使われているが、力の意味としての定義【1】は無視されている。

 

新しい力の定義(案)

 力を測定する方法は、ロードセルやバネ秤など殆どが応力・ひずみを測定する方法を利用している。従って、フックの法則を背景に、基準の秤を作成する方法、つまり力原器を定めることも一案である。

 しかし、物体に力が作用したときの物体の変化を力の定義にするよりも、力の作用方法に戻って力を定義する方が物理に適っていると考えられれる。力の元をミクロまで辿っていくとすべて電磁気力相互作用となるのであろうが、マクロの状況で観察する。

 弓を引く場合やハンマー投げなど力いっぱい引っ張っているように見えるが、良く見ると常に圧縮することにより力を作用していることに気が付く。弓の場合、左手は押し手と言って弓を押すが、右手は矢をつがえて弦を引くというのであるが、実際には弦を押している。エキスパンダ―は両手で押しているから類推できるであろう。

 ロケットのエンジンが推力を出しているときは燃焼室から高圧の燃焼ガスが排気されている。エンジン推力はガス圧を壁面にわたって積分したものになっている。

 力は圧力として面で負荷させるから、圧力を作用面で積分したものである。従って、力の大きさの単位1Nは次の定義にできる。

   定義【2】 1Nの力は1Pa(パスカル)の圧力が1m^2の面積に作用したときに釣り合う大きさである

 定義【2】の力であれば、ニュートンの運動方程式も常に成立するし、フックの法則も満足させることが出来る。軌道解析における力も構造力学における力も同じ定義となる。

 

備考

a) 外力はどのように物体に作用するのかを考えて見ると力が作用する方法は圧力であることに気が付く。決して、点でも線でも作用させることは出来ない。

b) ニュートンの運動方程式は質量の主な特性が慣性であるから、質量の単位の背景にすべきと考えられる。
  定義【3】 1kgの質量は1Nの力を加えたとき、1m/s^2の加速度を生じる慣性がある。

c) 現在、圧力の単位Pa(パスカル)は次のように定義されている。
  定義【4】 1Pa(パスカル)の圧力は1m^2の面積で1Nの力を受けた大きさである

d) ニュートンは質量を密度に体積を乗じたものと考えた(m=ρV)。現在は密度が体積当たりの質量と定義されているが、密度と質量はこの関係式で対等である。同様に単位を決めるにあたって圧力と力の関係も対等であるし、質量と力の関係も対等である。

e) 重力により自由落下中の物体に力は働いていない。地上に置いた物体には重力による慣性力が働き、地上の反力と釣り合う。これを重量(重さ)という。定義Aにより重力(Gravity)が力でないことは自明となる。強いて言えばみかけの力でしかない。

f) 定義【3】により、質量が組立単位になってしまうことに抵抗があれば、定義【3】でも質量は基本単位の名称のままとすればよい。長さの単位[m](メートル)は基本単位であるが、現在は時間[t]に光速cを乗じたものに変更されている。しかし、基本単位の名称は変更されていない。

g) 引張り力は物体の内部で外から加わった圧縮力が変わって発生するものである。剪断力も然り。

(了)


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