工学における力は電磁気力と慣性力

 
 

(2015年8月8日)


 自然界には四つの力が存在します。機関車が動輪を回す力、ロケットが人工衛星を宇宙に運ぶ時の推力、水車を回す水の力、力士が相手を押し出す腕の力、など力を列挙するといくらでもありそうですが、根源を辿ると四つしかないということです。文学の範囲では鈍感力とか精神力とか何でも力をつけて本のタイトルにする傾向がありますが、物理が対象とする世界は自然界ですからこれらは含みません。

 それでは、物理学者が言う力とは何なのでしょうか。意外にも明確に定義した文書が見つからないのです。さらに、四つの力と言わずに、四つの相互作用とする学者もいます。力を相互作用と書き直さなくても、どういうものか判ってしまえば困らないので物理学者は気にしないのでしょう。「強い力弱い力」の著者、大栗博司教授も気にせず、四つの力と書かれています。少なくとも、相互作用と書くより力とした方が簡単です。

力とは何か、取りあえず、辞書で調べてみましょう。

 大辞林で「力」の項目で《物》は次のように書かれています。
《物》物体を変形させたり、動いている物体の速度を変化させる原因となる作用。巨視的な力としては、物体表面に働く圧力や物体内部に生ずる応力などのほか、力の場を形成する重力と電気力がある。微視的には、原子核の核子間に働く核力と、原子核・電子間および電子相互間の電磁力が基本的な力である。さらに、一般的には素粒子の相互作用のことを力とよぶこともある。

 素粒子の相互作用とは素粒子間に働く基本的な力です。強い順に強い相互作用、電磁気相互作用、弱い相互作用、重力相互作用の4種があります。

 強い相互作用(強い力)とは陽子や中性子を構成するクォークを陽子や中性子に閉じ込める力であり、陽子や中性子で原子核を作る力です。弱い相互作用(弱い力)とは電子と陽子を結びつけて中性子を構成する作用です。これらはどちらも、原子核内部の作用で力の及ぶ範囲は極めて小さい範囲にとどまっています。電磁気力のように集合して物体を動かすような「目に見えるような」力にはなりません。もし、そのような力になるのであれば、ニュートン時代にも誰かが気がついていたでしょう。

 目に見える物体の運動を解析したり、機能的な物体を作ることを目的とする学問がニュートン力学です。工学分野で取り扱う力は電磁気力と重力だけになってしまいます。従って、「目に見える」力の起源を辿ると電磁気相互作用と重力相互作用だけになります。

これを少し、検討して見ましょう。以下、「力」とは巨視的な作用とし、「相互作用」とは力の起源を微視的に辿ったときの作用とします。

電車は電動モータで動きますから、まさに電磁気力です。これは疑いようもありません。強力な永久磁石が発明されて電動モータの効率は良くなり、応用範囲はますます広くなってきています。車もガソリンエンジンに取って変わるかも知れませんし、飛行機まで飛ばせるようになってきました。

ガソリンエンジンは燃焼ガスがピストンを動かします。燃焼ガスの多数の分子がピストンに衝突して力になるわけです。燃焼ガス分子がピストンの金属分子に衝突して跳ね返されるのは分子間での電磁気相互作用です。

気体のガス分子が電磁気力による衝突で圧力を発生して力になるという点ではロケットエンジンも同じです。ノズルから燃焼ガスが高速で噴出するときの反動で推力が生まれるのですが高速の噴出ガスが発生する元は電磁気相互作用の反発からきています。

圧力を発生して動力源になる機械は元はすべて電磁気相互作用であるということになります。

力士の力は腕や足の筋肉が収縮することから来ています。筋肉が収縮するためにはエネルギー源となる栄養素が消費されることによるのでしょう。化学反応は電磁気相互作用です。

以上のように殆どの力は起源を辿ると電磁気相互作用であることが判ります。それでは重力はどうでしょうか。

もし、質量60kgの人が地上でバネ秤である体重計に乗ると、目盛は60kg-重(600N)を指します。これにより地上では600Nの重力が掛っていると、ほとんどの人が理解しています。しかし、これは間違いです。正確に表現すると、「重力相互作用に起因する慣性力が600Nである」となります。この慣性力はバネの力と釣り合っています。

ロケットエンジンが推力を発生しているとき、この力と釣り合っているのはロケット本体の質量に基づく慣性力です。

 物理用語としての巨視的な力を定義づける要素は次の二つです。
 (a)  物体に作用すると加速度運動を生じる。
 (b) 物体に作用すると応力・歪が生じる。

(a)はニュートンの運動方程式F=mαに対応します。(b)はフックの関係式 F/A=σ=Kγ に対応します。
 慣性力は(b)の集積です。重力相互作用は(a)のみであって集合しても(b)の効果はありません。

 アインシュタインが発見した「重力に従って加速度運動をしている時(自由落下中)に重力が消えている」ことは、重力には(b)が無いということです。重力加速度がgであるとき、質量mの人がバネばかりに乗ると、加速度運動が阻害されることによりmgの慣性力が働くという事なのです。

 物体から物体に接触して力を伝えるとき、圧縮力しかあり得ません。力が加えられた物体の中では引き張り力になることも、せん断力になることもあります。例えば、ハンマー投げの選手がケーブルにつながれたハンマーを振り回すと遠心力(慣性力)でケーブルに引き張り力が加わりますが、その力に釣り合う力もケーブルを握った手の接触部分では圧縮力として平衡しています。

 以上は「4種の力と重力(2012年11月20日)」と同趣旨のことです。

 物体を通じて伝わる力は応力・ひずみの伝達ですから、その伝わる速さは物体の材質によって決まる音速です。

 ニュートンの運動方程式は重力場の運動方程式にまとめる必要があります。

(了)


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