見かけの力と重力  

(2012年11月23日)


 アインシュタインの思考実験に習って天使に吊り下げられたエレベータを考えよう。地上の上空で天使がこのエレベータの紐を離すとエレベータは自由落下する。中にいる人は無重量状態になり浮いてしまう。この様子を地上から眺めると、エレベータは中にいる人と共に(重力によって)加速度gで自由落下している。

 ニュートン力学ではエレベータが加速度を持って自由落下をするのは重力と称する力Wが作用しているからだと説明する。このWに釣り合う力は慣性力である。天使が紐を離したエレベータの質量(中にいる人も含む)をmとすると、加速度gにmを乗じたmgが慣性力である。つまり、W=mg。ダランベールの原理で言えば、W−mg=0である。

 重力が慣性力と釣り合っているから、エレベータの中にいる人は無重力状態となる。この説明で特に問題とすべきことは無いように見える。

 それでは、エレベータの中にいる人から見てみよう。エレベータに固定した座標系で見ると言っても良い。エレベータの中にいる人はこの座標系に対し動いていないから加速度=0である。従って質量mを乗じても0で、力はかかっていない。エレベータも中にいる人も無重力状態である所以である。

 それでは、自由落下しているこのエレベータから地上を見ると、地上が加速度gで近づいてくる。この加速度に地球の質量Mを乗ずるとZ=Mgの巨大な慣性力Zが生じていることになる。同じくダランベールの原理からZMg=0 で力の釣り合いは成立しているという説明になる。

 つまり、重力に従って運動している物体の加速度に質量を乗じて力の次元の量にした値は、見かけの力であって、物理的には無意味な力である。換言すると、重力は物体に加速度を与えるが力を生じさせるものではないということなのである。つまり上述のWZも物理的には無意味な見かけの力であることになる。

 もう一度地上の座標系に戻って、地上で立っている人を見てみよう。この人は地上の座標で静止しているので加速度はゼロである。しかし、足には地面からの反力を感じている。つまり、力がかかっている。人の質量をmとすればその力の大きさがmg なのである。

 ニュートンの万有引力の式(1)は力の次元で表された式である。その力は加速度運動を静止させた時に生じる力を表している。重力を構成する主たる要因は万有引力なので、簡単には、(その他の要因はないときを考えると)重力=万有引力である。ところが重力は力でなく加速度であるから、重力を構成する主要因は、万有引力でなく、万有加速度、つまり重力加速度(2)であることになる。

      FGM/r^2     ・・・   (1) [N

       g=GM/r^2      ・・・   (2) [m/s^2]

 重力に従って運動している物体、つまり自由落下している物体には力が働いていない。加速度から質量を乗じても見かけの力に過ぎなかった。重力による運動(加速度)を静止させたときに力が働く。これが重量である。力である重量と加速度である重力は明確に区別しなければならない。

 太陽を周回している惑星は太陽の重力による運動を妨げられているわけではないので、力は加わっていない。従って、惑星には重力と言う力が作用しているのではなく、重力(Gravity)という加速度が働くことによって、常に太陽に’落ちて’いるのである。

(了)


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