慣性飛行の矛盾について

 
 

(2015年5月7日)


 種子島から3段ロケットで静止衛星を打ち上げる時、ロケットは概ね次の経過を辿ります。

   まず、射点でロケットの1段エンジンを点火し、固体ロケットを装備している場合は固体ロケットも点火して,
人工衛星を搭載したロケットは垂直に打ち上げられます。

  ロケットは徐々に頭を下げて東に向かって飛びます。燃え尽きた固体ロケットは投棄し、高度が100Kmを越え空気が薄くなった時点では衛星フェアリングも投棄し、所定の速度に達したとき1段エンジンも停止し、1段を分離して、あまり時間をおかずに2段エンジンを点火します。

  高度200Kmまで上がったときにはロケットの姿勢はほぼ水平になり、速度が人工衛星速度に達するとエンジンを停止します。このときロケットはパーキング軌道に入ったと言います。

  昔のNロケットはこの時点で2段を分離していましたが、最近のH-UAロケットでは2段再着火に備えてまだ分離しません。ロケットが赤道を越える地点まできて3段ロケットの点火または2段再着火が行われます。

  この地点でロケットを作動させることにより、遠地点が赤道上にあるトランスファー(遷移)軌道に入ることが出来るのです。トランスファー軌道とは低高度の軌道から高高度の軌道に移る軌道の意味です。

  ロケットの打ち上げをアナウンスする人はロケットが2段エンジンを停止してパーキング軌道に入ったとき、「ロケットは慣性飛行に入りました」と言います。まだロケットのイベントは残っているのですが、このアナウンスを聞いたロケット関係者はとにかく人工衛星にはなったと少し安心します。やれやれとお茶を飲める時間は、パーキング軌道を慣性飛行を続け赤道上空にくるまでの約20分です。

  さて、パーキング軌道に入った人工衛星と上段ロケットが慣性飛行に入るという表現は正しかったのでしょうか。ここで慣性飛行は慣性だけによる運動の意味です。真空中の運動は羽のあるなしに関係ありませんが飛行という用語も良く使います。例えば星間飛行です。

  慣性(inertia)とは物体(または物質)の一つの性質です。物体は力を加えない限り運動状態を変えません。このことを物体には慣性があると言います。宇宙におけるあらゆる物質が共通に持っている性質であると考えられています。

  ニュートンは上述の慣性から運動の第一法則として、「力を加えない限り静止している物体は静止したままであり、運動している物体は等速直線運動を続ける」としました。ニュートンの運動の第一法則は慣性の法則とも呼ばれる由縁です。

  パーキング軌道で地球を周回する物体は等速ではあっても直線運動ではありませんからニュートンの慣性の法則でいうところの慣性運動ではないことになります。従って、アナウンスの表現は不適切であったことになります。

  ところが、一般相対性理論が正しいことを認める人達は慣性運動とはニュートンの慣性の法則による運動に加えて自由落下運動も慣性運動であるとするのです。

  自由落下とは真下に落ちる運動だけでなく、遠くに投げるボールが手を離れた後の放物線を描く運動も自由落下なのです。パーキング軌道にある物体も水平速度が大きいだけで常に地球に落ちていることは変わりありません。

  上述のアナウンスはニュートン力学(または古典力学)では間違った表現と言わざるを得ませんが、一般相対性理論がニュートン力学より広い範囲で正しいと考えられているのですから正しい表現であることになります。

  慣性運動とは物体に何も力が掛かっていない時の物体の運動です。従って、”慣性飛行”の矛盾はニュートン力学では自由落下の原因である重力(Gravity)を力であるとみることにその原因があります。

  ニュートン力学で用は足りる工学関係者も”重力は力でない”と認識し直すだけで慣性飛行の矛盾も簡単に解決できるのです。

  重力を力でないと認識し直すと、逆にあちこち矛盾を生じるのではないかと心配される方もおられるでしょうが表現の修正が必要になるだけでむしろ簡単になります。

(了)


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