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海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回はいよいよ最終回となりました。最終回は「性転換」のお話しです。まずは用語解説から...。
性転換 魚の性が一生の間に雄から雌(雄性先熟)、あるいは雌から雄(雌性先熟)へと変化すること。雌性先熟はハナダイ類をはじめ、ベラ・ブダイ類、キンチャクダイ類、トラギス類、ゴンベ類など多くの種類で見られる。雄性先熟はクマノミ類、ハナヒゲウツボなど少数の種類で知られるのみである。 一次雄 生まれながらの雄をいう。一次雄は雌と同じ体色のまま成熟し、繁殖に関与する。さらに成長するにつれて大部分の個体は雄の体色へ変わる。一次雄が存在するものにベラ類などがいる。 二次雄 雌から性転換した雄のことをいう。雄へ性転換する雌はまず雌として機能した後に雄へと性転換し、その際、体色も雌のものから雄のものへと変化する。 雌雄同体 性転換ができるということは、体の中に雄と雌の役割をもつ器官をそれぞれ持っているとうことであり、これを雌雄同体という。魚類でいうと雌雄同体の種のほうが割合が多い。 雌雄異体 ほ乳類をはじめ、陸上で生活する動物の多くは、生まれたときから雄と雌に分かれる。これを雌雄異体という。 性転換のお話し 美しいハナダイ類は雌雄で色彩が異なることと、雌から雄に性転換すること、すなわち雌性先熟の雌雄同体であることがよく知られている。ハナダイ類の大きな雄はそれぞれが一定の縄張りを持ち、そこに3〜6尾の雌が住んでいる。すなわち、一夫多妻のハレムが形成されており、繁殖期になると、雄は縄張り内の雌を次々と産卵させる訳である。雄は十分な大きさに成長しなければ自分の縄張りを持つことができない。ということは、性的に成熟した雄でも、大きくならなければ繁殖に参加できないことになるが、雌は小さなサイズであってもハレムの一員となって産卵することができる訳である。このような繁殖戦略は、体が小さい間は、雄よりも雌の方が有利だということを意味している。 一般に魚類の雌は、体が大きくなれば産卵数が増えるのは事実であるが、その増加はわずかである。ところが、一夫多妻のハレムを形成すれば、大きな雄は複数の雌に産卵させることができる。結局、たくさんの子孫を残すことができるかどうかという点から考えると、小さい時は雌が有利、縄張りを持つほどの大きさになると雄が有利ということである。これが雌から雄に性転換する雌性先熟の雌雄同体の理論である。 ところが、イソギンチャクと共生するクマノミ類は、逆に、雄から雌に性転換する雄性先熟の雌雄同体である。クマノミ類ではきっちりとした一夫一妻の関係が保たれており、そのため、大きい個体が雌であった方が卵数が多くなるわけである。サンゴ礁では、大きなイソギンチャクに大小の2尾の成魚と数尾の未成魚・幼魚が1つのグループとしてすみついているのが普通である。成魚は大きい方が雌、小さい方が雄で、このペアはどちらかが死なないかぎり続く。雌が死んだり、何かの事故でいなくなったりすると、雄は未成魚のいずれかとペアになり、自分は雌に性転換し、未成魚は雄になる。
「おさかな生態塾はこれをもって連載を終了します。ご愛読ありがとうございました!」
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