おさかな生態塾

第14回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 10〜

 
コバンザメ
カメの甲羅の上で逆さになっているコバンザメ
片利共生の好例

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回はその他の社会行動の用語解説です。 

共生・片生・寄生

 異なる種類の魚が、長期にわたって密接な関係を保つことをいう。この関係によって双方が利益を得る場合を相利共生(例:ホンソメワケベラと掃除される魚)、片方が利益を得て他方は害を受けない場合を片利共生(例:コバンザメとサメ)、片方が害を受ける場合を寄生という。 

 ホンソメワケベラと掃除される魚は、クリーニングによって他の魚は不快感を取り除くことができ、一方のホンソメワケベラたちは食物を確保できるという相利共生の関係である。クリーニングしてもらっている時に体色が変わる魚がいる。環境によっての体色変化は保護色の意味があり、クリーニングの際の変化は、寄生虫をを浮き立たせるためという説がある。 

その他の相利共生の例 

・イソギンチャクとクマノミ 
・ダテハゼとテッポウエビ(とハナハゼ) 

縄張り

 縄張りとは動物の個体が同種、あるいは他種から防衛する行動範囲をいう。その範囲内に侵入しようとする個体は威嚇され、侵入すると攻撃される。多くの魚が一時的(例:スズメダイ雄の繁殖縄張り)、あるいは恒久的(例:クマノミ)な縄張りを作る。 

すみわけ

 動物はすべて自分の子孫を残すことを目標にしている。たとえ繁栄は無理だとしても、絶滅だけは避けるようにさまざまな工夫がなされている。縄張りをつくるのもその一つで、餌が限られた場所に同じ食性の魚が多く住めば、餌が不足して結果的に全滅してしまう。このようなことが起きないように、同種の魚を追い出し、別の場所へ移住させる。これをすみわけとよび、その結果、絶滅を防ぐとともに分布域を広げることになる。 

側面誇示

 体の大きさを比べる行動であり、動物の世界では体の大きさで強弱が決まることが多い。魚の同種どうしもそうで、体の大小を比較し、たいていは小さい方が引き下がって決着が付く。こうして、無意味な争いを避ける仕組みになっている。 

一夫一妻

 繁殖期の一部、あるいは繁殖期を通じて、さらにある場合には一生涯、一尾の雄と一尾の雌がペアになり、ペアの間のみで繁殖する婚姻形態。真の一夫一妻制はクマノミ類、ヨウジウオ類、チョウチョウウオ類など少数の種類でしか見られないが、一夫多妻の魚が生息密度が低い場合に一夫一妻になることが、キンチャクダイの仲間で知られている。  一夫一妻のメリット

 「常に繁殖相手がそばにいることで、種の個体数が少ない場合に多くとられる婚姻形態である。また、餌場などを共同で防衛するにも有効と考えられる。 
一夫一妻の例:イシヨウジ、クマノミ 

ハレム(一夫多妻)

ハレムのメリット

 一生のうち性が変わるのはハレムを作る種に多いようである。一匹の雄が数匹のめすを従えて一つのグループを形成している場合、何らかの理由で雄がいなくなった時に、最優位(通常は最も体の大きい個体)の雌が雄になるという決まりがある。 

 ハレムの雄が広範囲にわたって一生懸命に見回りをする理由は、隣の縄張りの雄や風来坊の雄が侵入するのを防ぐためである。見回りの雄は、同じような行動を、わりと頻繁にハレム内の雌にも行う。これはハレム内の雌に対して雄の健在ぶりをしめし、性転換するのを抑えるのと同時に、成長をも制御しているといわれている。 

(次回は「性転換のお話し」です)


 

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