おさかな生態塾

第13回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 9〜

 
 アオリイカの産卵
 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回も前回に引き続き「産卵行動」です。 

4.産卵行動 その2

・サンゴの産卵 

 サンゴは産卵することからも分かるように、れっきとした動物です。さまざまな形をしたサンゴは、実際はたくさんのサンゴ虫(ポリプ)からなる群体なのです。大部分のサンゴは雌雄同体で、1つのポリプの中に卵と精子の両方をつくり、これらが一緒に入ったカプセルを生み出します。しかし1つのサンゴ群体の卵と精子では何故か受精できません。ですから、うまく受精させて子孫を残すためには、同じ種類のいくつかのサンゴが同時に産卵して、卵と精子が混ざり合わなければならないのです。 

 サンゴの産卵は5月から8月(種類によって違う)にかけての満月の前後に見られます。最も多くみられる時間帯は夜9時半から11時の間です。仲間同士が同時に産卵するために、彼らは何らかの合図を使っているはずです。この合図が分かれば産卵日が正確に予測できるようになるのですが...。 

 産卵のあった翌日には港の角や海岸付近に異臭のするピンク色の浮遊物が見られますね。それは風や波によって吹き集められたサンゴの卵です。サンゴの幼生は水面近くを浮遊しながら分散し、1週間ほどで岩や死んだサンゴの上に着床し1つのポリプとなり、分裂を繰り返しながら群体として成長していきます。 
 

・ウミガメの産卵 

 ウミガメは世界で8種類いると言われています。日本で産卵するのはアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種で、沖縄ではこれら3種全ての産卵が確認されています。産卵時期は少しづつずれていて、八重山での調査では、アカウミガメが4月から7月、ついでアオウミガメが5月から8月、タイマイが最も遅く6月から9月に産卵するとされています。産卵は夜間に行われます。1m近い大きさの親ガメが砂浜に上がり、気に入った場所を見つけてはヒレを使ってきように穴を掘り、100個前後の卵を生み落とします。この巣穴を決めるまでのカメはとても神経質で、上陸する時にライトを当てたり、浜が騒がしかったりすると産卵せずに海へ帰ってしまいます。ですから、ものウミガメが産卵しそうなところに出くわしたら、騒がずにそーっと見守ってあげて下さいね。 

 産卵された卵は砂中の温度にもよりますが、45〜70日で孵化します。このウミガメの孵化についてはとても面白い現象が知られています。それはね孵化するまでの温度によって雌雄の割合が変わってくるというものです。室内の実験では、卵の埋まっている砂の温度が28〜30度を境に、それより高いとほとんどが雌になり、低いと逆にほとんどが雄になるという結果がでています。自然ではいったいどのようにして雌雄のバランスが取られているのでしょうね。砂の中で孵化した子ガメは数日かかって表面近くまで上がり、周りの温度が下がることで夜を感じ、砂から出て海に向かいます。夜だと海鳥や大きな魚などに見つかりにくいため、生き残る率が高くなるからでしょう。孵化したばかりの子ガメには光に集まる性質があるので、夜に明るくみえる海の方向に向かいます。しかし開発が進んだ海岸などでは、街灯に向かっていき、海にたどりつけずに死んでしまうことがあるそうです。うまくできた自然の本能も、環境を変えられてはたまりませんね。 
 

・イカの産卵 

 イカはサザエなどの貝と同じ軟体動物ですが、自由に泳ぎ回るために貝殻が退化し、代わりに外套膜という外側の筋肉が発達したものです。そして、タコと同じく、頭の前に足がある頭足類に属します。アオリイカのように、よく泳ぐ種類のイカほど外套膜が発達しており、美味しいと言われています。御存じのように、イカには腕が10本ありますが、このうち2本は餌を捕まえるために発達した触腕です。 

 イカの愛の儀式は腕で行います。雄には触腕の他に、形が特殊化した1本(種によっては2本)の腕があり、これで精子の詰まった精包を壊さないように雌に渡します(交接)。そして雌イカは受け取った精子で卵を受精させながら産卵するのです。 

 産みだす卵の形や大きさは、種類によって違います。イカ類で最も大きな卵を産むのはコブシメで、直径1〜2cmの白いピンポン玉のような卵を一つずつ枝サンゴの間に産みつけます。この卵は孵化前にはさらに直径3cmほどにまでふくらみます。またアオリイカは直径5mmほどの卵が入った、サヤインゲン豆のような形の白い卵のうを産みます。この卵のうには、卵が5〜9個入って海藻などに産みつけられるタイプと、2個しか入ってなく、岩の下などに産みつけられるタイプの2タイプがあります。このことから、アオリイカは2タイプいるらしいことが最近わかってきました。 

 やがて卵の膜を破いて、イカの赤ちゃんが飛び出します。生まれたイカの赤ちゃんは、多くの種で親とだいたい同じ形をしています。コブシメは生まれた時から胴長が1cmほどもあり、すぐに親と同じように、サンゴ礁で小魚などを捕えて食べます。とても大食いで、時には自分の体より多い魚でも捕えて食べることもあります。一方アカリイカの赤ちゃんは胴長が6mmほどで、しばらくは流れ藻などについて、海面近くを漂っています。そして成長とともに、群れて泳ぐようになります。 

 多くのイカは成長がとても早く、生まれて1年で産卵するようになります。そしてほとんどの場合、産卵の大任を果たした後、精魂つきて短い一生を終えるのです。しかしコブシメは2年から数年生きるため、かなり大きくなり、重さ20kgに達することもあります。巨大なソデイカも、1年で成長するとは考えられにくいのですが、何年生きるかはよくわかっていません。 

参照:阿嘉島臨海研究所発行「アムスルだより」 
(次回は「社会行動の用語解説」です)


 

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