おさかな生態塾

第12回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 8〜

 
スミゾメミノウミウシの産卵

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回は「産卵行動」です。 

4.産卵行動 その1

 産卵行動はフィッシュウォッチングのなかでも最も感動的なシーンです。産卵行動は彼らの領域を侵しさえしなければ実に神秘的な場面を見せてくれます。海の生き物たちもさまざまな産卵行動の形態があります。それらを見ていきましょう。 

 動物はすべて自分の子孫を残すことを目標にしている。たとえ繁栄は無理だとしても、絶滅だけは避けるようにさまざまな工夫がなされている。縄張りをつくるのもその一つで、餌が限られた場所に同じ食性の魚が多く住めば、餌が不足して結果的に全滅してしまう。このようなことが起きないように、同種の魚を追い出し、別の場所へ移住させる。これをすみわけとよび、その結果、絶滅を防ぐとともに分布域を広げることになる。 

 さて、産卵された卵がどのような場所で成長してゆくかによって産卵行動の形態が異なります。以下では卵が成長する場所別に分類してみる。 

・付着卵性 

 岩やサンゴその他のものに卵を生み付ける、付着卵のタイプ。スズメダイを例にとると、産卵時期が近づくと雄は産卵をしやすくするために岩肌や死滅したサンゴのところを丹念に掃除して、産卵床を作ります。雄のプロポーズに成功すると雌はそこに卵を産み付け、雄は放精する。このあと、雄が中心になって卵を守ります。ひれや口を使って新鮮な水や酸素を送り、世話をします。このような時にダイバーや他の魚たちが近寄ってきたならば、雄は必死に卵を守ろうと、口でつっついたりして激しく威嚇することもある。ゴマモンガラのように普段はコソコソ逃げるのに卵を守っているときは、どう猛になる魚もいます。 

・浮遊卵性 

 産み放つことによって卵を拡散させ、少しでも生存する確率を高めようとする方法で、産卵数が非常に多いのが特徴です。回遊性の魚はすべてこのタイプで、その他沿岸性の魚もほとんどはこのタイプなのです。 
 このタイプの魚たちの行動を見てみましょう。雄は産卵間近な雌を見つけるとそぉーっと雌を水面の方へうながし、目にも止まらぬ速さで産卵、放精をし、素早く海底へ戻ります。海中に産み放つと他の魚たちに食べられてしまうのではと思ってしまいますが、それはすべて食べ尽くされないほどたくさん卵を産むのでしょう。よく知られているのはネズッポ系の魚でヤマドリが有名です。 
 浮遊卵を生むタイプのものは、観察する事はできても、撮影をしようとすると難しくなります。イワシのような回遊性の魚の場合は、ただ海中が白く濁るだけであるし、そのほかのものはオスがメスを水面に追い上げてその途中でポッと白いケムリのようなものが、見えるだけなのです。 

・胎生 

 親の胎内で卵が孵化し、稚魚の形で生み出される胎児生のもの、サメ、エイ、ウミタナゴなどがこのタイプです。例外としてネコザメやナヌカザメは卵生です。 
 また、胎生に似た産卵形態として、口内保育や育児のうを使ったものがあります。それらを以下で紹介します。 

・口内保育(マウスブリーディング) 

 ネンブツダイなどテンジクダイ系の魚にみられます。これらの魚はマウスブリーダーといってメスがオスの口の中に卵を生み付け、オスがされを口中孵化させるタイプもある。これはネンブツダイの仲間に多くみられます。 

・育児のう 

 オスが育児のうという袋を腹部にもち、メスがその中に卵を生み付け、オスが孵化まで卵を守るタイプもあります。タツノオトシゴなどがこの仲間です。 
 

産卵行動の撮影法 

 ダイバーがよく目にする産卵は、クマノミやスズメダイの仲間が多い。これらの魚は岩やサンゴに卵を生み付ける付着卵なので、比較的時間をかけて産卵をする。このためダイバーがじっくりと観察ができる。またクマノミなどは一ヶ所のイソギンチャクに住みかが決まっているため、産卵のタイミングさえわかれば、それを狙って観察できる。 
 生物の産卵を写真に収めようとするならば、実際は撮る事よりも遭遇する事の方がはるかに難しいもの。事前に生物のデータを十分に集める事が大切なポイントです。 
 たとえば、アカリイカなども卵を産みに来る場所がだいたい決まっているので、そのシーズンの適切な時間帯を狙って潜れば、産卵の撮影は思っているほど難しくはありません。実際の産卵の撮影では、生物は産卵が始まるまで割合に神経質なもの。産卵が始まるまでは少し距離をおいて観察し、始まったら徐々に近寄ってゆけばよいでしょう。 

(次回は「4.産卵行動 その2」です)


 

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