おさかな生態塾

第11回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 7〜

 
ウミシダに住むコシオリエビの仲間は宿主の色彩にそっくりである

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回は前回までの「防衛手段」の中から擬態を取り上げてお話します。 

3.擬態(カムフラージュ)

 擬態をある書籍の用語解説より引用すると... 

 「ある魚(生物)が他の魚(生物)の姿や行動を装うことによって、みずからの生存を可能にしている現象を擬態という。そして擬態されるほうをモデルと呼ぶ」 

 と書かれてあります。 

 ある動物が別の種類あるいは無生物と似た体色、形態をすることによって何らかの利益を得ている場合、擬態するほうを擬態種、擬態されるほうを擬態モデルといいます。幾つかのタイプが知られていますが、ナンヨウツバメウオの幼魚が木の葉に似ているように、何かに似ることによって敵に発見されにくくなっている場合を隠ぺい的擬態といいます。ノコギリハギがシマキンチャクフグに似ているように、敵が嫌うモデルに似ることによって保護を受ける場合をベイツ型擬態といいます。また、ニセクロスジギンポがホンソメワケベラににているように、捕食者が無害または有益な種類に擬態して被食者を襲う場合は、攻撃的擬態と呼ばれます。 

 擬態が成立するには、幾つかの条件が必要です。擬態種がモデルに似ていなければならないのは当然ですが、さらに分布域も生息場所も同じことが必須条件となります。以下に擬態の代表的な生物を挙げてみましょう。 

・シモフリタナバタウオ 
(モデル:ハナビラウツボ、クロハコフグ、ミゾレフグ) 

・ハナダイギンポ 
(モデル:キンギョハナダイ) 

・ノコギリハギ 
(モデル:シマキンチャクフグ) 

・フタスジタマガシラ 
(モデル:ヒゲニジギンポ) 

・イナセギンポ 
(モデル:オウゴンニジギンポ※) 

 ※:オウゴンニジギンポは下あごの犬歯に毒線があるため、他の魚に捕食されることは少ないといわれている。たとえ食べられたとしても、すぐに吐き出されたということが確認されている。 

・ニセクロスジギンポ 
(モデル:ホンソメワケベラ) 

周囲の環境に溶け込むような体色や斑紋、つまり保護色を利用した隠ぺい的擬態の代表例を以下に挙げてみます。 

・クダゴンベとオオイソバナ 
・イソバナカクレエビとイソバナ 
・ムチカラマツとイボイソバナガニ 
・マンジュウヒトデとヒトデヤドリエビ 
・ウミシダとコシリエビ 
・ウミシダとウミシダヤドリビ 
・岩やサンゴに擬態するタコ 
・岩やカイメンに擬態するイザリウオ 

(次回は「4.産卵行動 その1」です)


 

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