おさかな生態塾

第10回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 6〜

 
こんな奴を捕食するものがいるのだろうか?(ハリセンボン)

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介しています。今回も前回に引き続き「防衛手段」です。 

2.海の生き物の防衛手段 その3

・同じ色でカムフラージュ 

 砂地や岩にじっとしていて、普通なら見過ごしてしまうほど見事なカムフラージュ。ヒラメやカサゴなどがそうです。他にもイザリウオ、エイの仲間がいます。カサゴは岩に寄り添ってじっとしています。オニダルマオコゼは岩そっくりに擬態するため、誤って手をついて大けがする場合があります。ヒラメやエイの仲間は砂の中で目だけを出して隠れています。イザリウオはカイメンに寄り添うように付いており、カムフラージュの達人です。タツノオトシゴは海藻の幹に尾をまきつけ、一緒にゆらゆらしているため、非常に見つけるのが困難です。 

・いざとなったら私は溶けます(ナマコ) 

 砂地にいつもゴロゴロしていて気味の悪いナマコですが、ナマコにはナマコの防衛手段があります。ナマコを手でつかんでみるとゴリッと表面の皮が固くなります。さらに強くもむと急にドロドロと溶けてしまいます。これはナマコの表面を覆っている皮がはじめは固くして身を守るようにし、それでも駄目な時は体の一部を溶かして切りはなし、逃げることで身を守っているためです。溶けてなくなった部分は数週間後には元に戻るそうです。そうすることによって、万一魚に襲われても体の一部を切り放し、再生することによって身の安全を守っています。また、皮にはサポニンとよばれる毒があり、魚に対しては効果がありますが、貝などには効果がないそうです。 

・あなたの寄生虫をたべさせて(ホンソメワケベラ、エビ) 

 食性の話でも出てきました、クリーニングする生物。彼らはクリーニングされる魚たちにとってみれば自分の役に立つ大切な魚ですから、攻撃などしたら自分に不都合になります。したがって、クリーニングされる魚は絶対に彼らを襲おうとはしません。クリーナーたちは自分たちがほかの魚の害となる寄生虫を食べることによって捕食圧を下げています。 
 クリーナーとしてのエビ類はひげが白いほどクリーニングをする頻度が高いといいます。ウツボが住んでいる岩穴をのぞいてみると必ずといっていいくらい、エビの仲間とかヨウジウオの仲間が入っています。かれらはお得意さまであるウツボの専属のクリーナーだといえるでしょう。 
 ところが、彼らはクリーニングをするからといって終始安泰ではないのです。実はハナミノカサゴはホンソメワケベラをおいしい餌だと思っているらしく、彼らを追いかけまわします。カサゴ、特にハナミノカサゴがクリーニングステーションにいることはほとんどないそうです。かれらは掃除屋さんのサービスを利用しない唯一の魚といわれています。 

・食べたら死ぬでー(フグ) 

 フグは体に毒を持つことで自らの身を守っています。トラフグは高級食用魚として有名ですが、その肝臓にある毒、テトロ・・キンは煮ても焼いても消滅しないというので有名です。キタマクラは食べると死に至るためにそのような名前が付けられています。フグの毒を知らないのか、オキエソがキタマクラなどを捕えている写真を見かけることがあります。両者相打ちというところでしょうか。また、フグはハコフグの仲間を除いて自分の体を膨らませることできます。次でご紹介するハリセンボンやイシガキフグの体には数百ものとげを持っていますが、普段はたたまれています。捕食者が襲いかかってきた時などはめいいっぱい水を吸い込み体を膨らませます。体が膨らむとそれまでたたまれていたとげがピンと立ち相手を威嚇します。 

・棘はわたしのトレードマーク(イイジマフクロウニ、ハリセンボン) 

 鋭いとげで相手に隙を与えないのはウニの仲間です。とくにイイジマフクロウニはとげの先にとても強い毒を持ち、危険な生物としてダイビングのテキストにも載っています。また、ガンガゼは細くて長いとげを持っており、うかつにさわったりしてとげにささるとそこからポキッと折れて危険な場合があります。また、ガンガゼは夜行性なのでナイトダイビングの時には不意に手をついたところにいたりして危険です。 

・深いところならだれもおるまい(深海魚) 

 モーレツに高い水圧という厳しい環境に対応することによって捕食圧をさげているのは深海に住む魚たちです。 外敵のいないほうへ、いないほうへと進んだ結果なのでしょうか? 

・みんなで群れれば恐くない(キンメモドキ) 
・泳ぎで勝負 

(次回は「3.擬態(カムフラージュ)」です)

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