おさかな生態塾

第8回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 4〜

 
ホンソメワケベラはクリーニングフィッシュとなったことが防衛手段となっている

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介います。今回は「防衛手段」です。 

2.海の生き物の防衛手段 その1

 サイパンにマニャガハ島というところがあります。水深が1.5mの浅場にとてもたくさんの魚たちが生活しています。こんなにたくさんいるのだから1匹くらい素手でとれてもいいのですが、まず無理でしょう。彼らは素早く動くことで、敵(捕食者や人間)から逃げる方法を体得しています。ところが同じところにいるナマコはどうでしょう。ボテッと砂地にいて、簡単に手で捕まえることができます。なぜ彼らは逃げないのでしょうか?彼らは逃げることではない、ほかの防衛手段を持っているのでしょうか。実はナマコにはナマコの防衛手段があるのです。そこで今回はこういった海の生き物たちの防衛手段についてお話ししたいと思います。 
 ここで、ちょっと海からはなれて陸の生き物たちの防衛手段というものを見てみたいと思います。海の生き物たちと相通じる部分があるはずです。 

 まずはゾウ。生きているゾウに襲いかかる動物はいません。なぜでしょう。それはゾウが巨大であるというのがひとつの理由でしょう。巨大であることによって他を圧倒しているのです(注:ここでは自然淘汰で話を進めます。したがって人間による乱獲は考慮しません)。しかだって、ゾウは大きいことが防衛手段であるといえるでしょう。 

 つぎにネズミを見てみましょう。ネズミはとてもすばしっこく、小さな体ゆえにいろいろな場所に隠れることができます。したがって、ネズミは素早く動け、いろいろな所に隠れることができる小さな体によって捕食者の目をごまかしているのです。ネズミは小さいことが防衛手段といえるのではないでしょうか。 

 しかし、ゾウにしてもネズミにしても彼らはその大きさ、体形を保つためにとても多くのエネルギーを消費しています。ゾウはその大きな体を支えるために骨格系に無理を生じています。ネズミはその小ささゆえに少しの餌をいつも食べていなければなりません。しかし、彼らはその体形を保っていなければ捕食者に食べられてしまうのです。 

 いつ捕食されるかわからない恐怖は圧力として常にまとわりつきます。この圧力を「捕食圧」といいます。動物たちはこの捕食圧を低くする方向へ進化していき、生き残ったものが現在にいたっています。われわれ人間を例にとれば、直立二足歩行により脳の発達と道具を自在に作る「手」が生まれ、捕食圧を武器という道具によって下げてきました。 

 話を戻しましょう。捕食圧低減方法としてゾウは大きくなる方へ、ネズミは小さくなる方へ進化の道を歩んだといえます。ここまでで捕食圧が動物たちの進化上、多少なりとも影響を与えていることがわかりました。そこで、この捕食圧がなくなるとゾウやネズミはどうなるかという話をしましょう。古生物学の中に「島の規則」というものがあり、それによると島では大きいものは小さくなり、小さなものは大きくなるそうです。具体的にはゾウは仔牛くらいに、ネズミは猫くらいの大きさになるそうです。島の中では資源(食べ物)が限られるので、無理のないサイズになるのでしょう。たくさん食べる動物がいたら、限りある島の食べ物を食べ尽くしてしまい、自らを絶滅の危機においやるでしょう。だから食べる量も減り、天敵もいないので無理のないサイズになるのでしょう。 

 さて、長々と陸の生きものを例に防衛手段についてお話ししてきました。ここで、いよいよ本題の海の生き物たちの防衛手段について見ていきたいと思います。ゾウやネズミのような防衛手段をとるものももちろんいますが、それ以上に海の世界は多様な防衛手段が見られます。一つ一つ見ていきましょう。 

(次回は「2.海の生き物の防衛手段 その2」です)


 


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