おさかな生態塾

第7回 〜ダイバーが目にする魚たちの社会行動 3〜

 
カワハギが中層のホヤを捕食

 
 海の生物たちの個々の生態ではなく一般的によく知られている社会行動を「ダイバーが目にする魚たちの社会行動」と題してご紹介います。今回は「摂餌行動」の続きです。 

1.摂餌行動 その2

 さて次は「砂の中の底生生物を食べる」魚たちです。この系統の魚は年がら年中砂をほじっているのですぐに食事中だというのが分かります。この仲間にはカワハギやヒメジ、ベラ類がいます。こういった食性の魚は口から水を吹き出して出てきた生物を食べるタイプと、砂ごと口から吸い上げ、中で餌を選り分けていらないものを鰓からはきだすという、高度なテクニックを持っているタイプに分かれます。ヒメジの仲間は口の下にひげのようなものがついていて、これで餌を探したり、味を確かめたりするといわれています。 

 次は「サンゴのポリプや藻類、カイメン類などを食べる」魚たちです。チョウチョウウオやキンチャクダイの仲間はサンゴやイソギンチャクのポリプを食べたり、底生生物を食べたりと雑食性の魚です。ここでおもしろい実験結果があります。クマノミとイソギンチャクの共生は有名ですが、クマノミをイソギンチャクから離すとどうなるかというものです。結果はクマノミのいなくなったイソギンチャクをねらっていたかのようにチョウチョウウオの仲間が、イソギンチャクをついばみはじめたとう結果だったそうです。その後、クマノミを戻すと一生懸命チョウチョウウオなどを追い払ったとのことです。クマノミとイソギンチャクの共生はいつか話をするとして、チョウチョウウオはイソギンチャクやクラゲなどもたべるようです。 

 ちょっと奇妙な食性なのが、「他の魚についている寄生虫やかべかす」を食べてくれる魚です。いわゆるクリーニングする魚と呼ばれ、有名なところではホンソメワケベラがいます。この魚はいつも決まったところにいて、そこへ他の魚たちがクリーニングしてもらいにたくさんやってきます。ホンソメワケベラのような魚(またはエビ類)はクリーナーと呼ばれ、クリーナーがいつもいる場所をクリーニングステーションといいます。クリーナーにも好みがあるらしく、ほかの魚たちをクリーニングしているときに大きな魚がくると、それまでクリーニングしていた魚たちをおきざりにして、大きな魚に対し、クリーニングさせてと自分をアピールするそうです。クリーニングされている魚はクリーナーに対して体色を変化させたり、背ビレや尾ビレをピンと伸ばしたりして、寄生虫を見つけやすくするそうです。また、クリーニングを受けている間は気持ちよいのか体が斜めになったり、壁にぶつかったり、人が近づいても逃げようとしません。 

 次はなんと「砂を食べる」生物です。その生物というのはすばり「ナマコ」です。砂をたべるといっても砂など栄養になりません。砂の中の有機物やバクテリアなどといったものを食べているのです。ナマコはあまり動かない動物であり、あまり餌を食べないでも生きてゆけます。したがって、このような栄養価の低い砂でも十分やっていけるのです。ナマコはたいてい砂の上にいます。したがって、人間にしてみたらさしずめお菓子の家に住んでいるようなものでしょうか。ナマコを見ていると、食べるために悪知恵を使ってあくせくはたらいている人間が嫌になってきます。 

 さてさて最後(多分もっとあると思う)にご紹介するのはなんと「魚のひれや鱗を食べる」魚たちです。こういった食性はいまのところ、ギンポの仲間にいるようです。しかもそういった魚は、前で書いたクリーニングする魚(ホンソメワケベラ)にそっくり(擬態という)で、さもクリーニングをしようかとアピールし、(餌である)魚に近寄り皮膚を食べるそうです。しかし、やっぱり栄養がないのか他のもの(魚の卵など)も食べており、むしろそっちのほうが主食で、ひれや鱗を食べることはごくわずかだということが最近の研究で明らかになりました。知られているところではニセクロスジギンポやミナミギンポ、テンクロスジギンポなどがいます。 

 このように魚にもじつにさまざまな食性があり、フィッシュウォッチングをする楽しみのひとつでもあります。水族館などで魚たちの食事シーンを見た時は、その魚がいままでに挙げた食性のどれかをみてみるもの楽しいでしょう。 

(注:水族館や餌付けが行われているところでは環境の変化から食性が変わってしまう場合もあるので注意が必要です) 

(次回は「2.海の生き物の防衛手段 その1」です)


Copyright (C) Toshiaki Uematsu