Memory effect

〜メモリ効果との付き合い方〜

 メモリ効果についてはみなさんいろいろと心配されているようで、きちんと放電してから充電されている方が多いようです。このメモリ効果、果たしてフォト派ダイバーが使用する環境でどのような影響があるのでしょうか?

 結論から言ってしまいますと、充電池を水中ストロボなどで使用する場合にはメモリ効果を心配する必要はほとんどないと考えます。メモリ効果が起きてしまっている電池を使用しても使用できなくなるというような問題にはなりません。以下に考察してみましょう。
 ところで、ここでお話するメモリ効果が発生するのはニッカド、ニッケル水素充電池のみであることをあらかじめ申し上げておきます。リチウムイオン充電池では起きません。以下ではニッカドもしくはニッケル水素充電池を使用している機器の使用を前提に話を進めていきます。

 メモリ効果とは容量が残っている充電池を使い切ることなく充電するいわゆる継ぎ足し充電を繰り返すことで、充電池内部の化学物質が不活性化してしまい、使用途中で電圧の低下が起きる現象です。機器によっては見かけ上の電池容量が減ったように見えます。

 メモリ効果を心配しなければならないのはこの電圧低下によって動作しなくなるような機器を使うときです。MDウォークマンやデジカメなどの電子機器類では液晶にバッテリーの残量を示す機種が多いです。バッテリーの残量はバッテリーの電圧を検知して判断しています。アルカリ乾電池やニッカド、ニッケル水素充電池は使用するにつれて少しずつ電圧が下がっていく特性があります。そこで、電圧からおおよその電池の残量を知ることができます。

 さて、メモリ効果で使用途中に電圧が低下した場合、機器によってはいままでフル表示していたのが残りが少なくなった、もしくは電池交換サインが表示したという現象に遭遇します。
 デジカメなどの精密機器にはたくさんのLSIが組み込まれています。これらの回路が動作するのに最低限必要な電圧というのがあります。この電圧よりも低いとLSIは誤動作してしまう恐れがあるため、その前にバッテリー交換サインを出し、使えないようにしています。どれくらいの電圧で使えなくなってしまうのかは機器によりさまざまですが、消費電力の大きい機器ほど高い電圧が必要です。その機器が動作するのに必要な電圧がメモリ効果によって低下した電圧がよりも低ければ容量がいくら残っていても使えません。これがメモリ効果の問題点です。

 それでは、われわれダイバーがストロボやライトなどで使用するニッカドやニッケル水素充電池はどういった使われ方をするのでしょうか。 ストロボやライトには電池容量サインなどありません。電圧をチェックしたりしていないのです。これは電圧が低くなって誤動作するような電子回路が入っていないからです。ストロボは発光できるだけの電気があればそれを取り出そうとします。ライトは電球が光るのに必要な電気がある限り光ります。つまりメモリ効果が起きてしまっているバッテリーをストロボやライトに使用した場合、低下した電圧のぶんだけストロボのチャージが遅れたり、ライトが暗くなったりするだけとなります。ライトやストロボは電圧が高ければ高いほど明るく点灯したりチャージが早くなります(もちろん限界はあります)。逆に低ければ低いほど暗くなり、チャージが遅くなるだけなのです。

 おわかりになりましたでしょうか? つまりメモリ効果が起きる充電池だろうがそうでない充電池であろうが本来の電池の容量がなくならない限り、ストロボはチャージできますし、ライトも点灯します。その明るさやチャージの早さが少しだけ悪くなるだけで、使えなくなったりするわけではないのです。ダイビング関連でメモリ効果を気にすべき機器としてはニッケル水素やニッカド充電池を使っているデジカメですね。リチウムイオン充電池を使ったデジカメではメモリ効果は発生しませんので心配いりません。

 メモリ効果について、こんな裏話があります。SONYが2代目のMDウォークマンを発売した頃(MZ−R2 1993,4年頃)、採用された充電池は専用のリチウムイオンでした。当時の充電池といえばニッカドが主流でようやくニッケル水素がでてきた頃です。こういった機器では動作に必要な電圧が高く、メモリ効果による影響が大きいのが悩みでもありました。そこへ登場したのがメモリ効果のないリチウムイオンだったのです。当時のMDウォークマンは消費電力が大きく、また低い電圧で動作させるほどLSIなどの回路技術が成熟していませんでした。リチウムイオンは1つのセルで3.6Vを発生し、ニッカドに比べてエネルギー密度も高かったためSONYにとっては都合のいい充電池だったのです。
 さて時代は進み、90年後半になると技術革新で消費電力はかなり抑えられ、動作に必要な電圧も低くできるようになりました。そこでSONYはリチウムイオンにこだわる必要がなくなり、ガム型のニッケル水素充電池を採用しました。ニッケル水素になったのではまたメモリ効果が起きるのではないかと思われるかと思いますが、動作電圧が低くなると実はメモリ効果によって電圧が下がっても、バッテリー切れと判断するほどの電圧には至らないのでそのまま使えてしまうのです。つまり動作電圧が低ければ、実質上メモリ効果は無視できるわけです。したがって、メモリ効果を心配しなければならないのは比較的消費電力が高い携帯型機器であり、上にも書きましたがニッケル水素充電池を使ったデジカメぐらいなのです。

 さて、最後にメモリ効果のあるバッテリーはいったいどうしたら復活するのでしょうか?簡単です。一度容量をすべて使いきってから充電すればいいのです。不活性化した部分はそこの電気を使うことにより化学物質がまた活性化されます。一般的には3回くらい充放電を繰り返すと完全に復活すると言われています。それでも使えなくなったものは寿命だと思われます。しかし完全に使いきれといっても水中で使うわれわれにとって水中で使いきってしまうことは避けたいですね。なぜなら水中では交換できないからです。ではどうすればいいかというと、放電機能のついた充電器を使うのがおすすめです。毎回ある程度使用した後に放電してから充電するようにすればまずメモリ効果は起きないでしょう。ただし、上にも書きましたようにストロボやライト用に使う場合はメモリ効果の影響はほとんどありませんので放電してからの充電は気休めにしかならないとわたしは思っています。

おわり

 

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