楽しい授業和歌山
1998/8改定版
●小学生以上で1〜2時間ほどでできるミニ実験です。炎が出るので外連味がありこどもたちの印象に残ります。ちょっとひねった問題を入れたので,ちょっぴり「哲学的(?)」で気に入ってます。この5年間,私の定番授業です。
●授業は,下記の問題文の指示にしたがってやるとだいたいうまく運ぶと思います。実験の前に必ず一人ひとりに予想をたててもらってください。ですから,問題やお話は実験をする前に子どもたちが読んでしまわないように配慮して下さい。あとは,クラスや指導者に応じてアレンジしてくださるとよいでしょう。できれば,仮説実験授業の授業運営法について知っておいてください。『仮説実験授業のABC』(仮説社)参照のこと。
●参考授業記録
[準備物]
・ライターガス(詰め替え用のボンベ),・試験管,・ゴム栓(ガラス管を通す穴をあける),・ガラス管(細いもの),・コップ(ビーカー),・ライター,・氷,・ドライアイス,・-100℃ぐらいまで測れる温度計
[注意]
*思わぬほど高い炎が上がる場合がありますので,くれぐれも安全に注意してください。児童まかせの実験にせず,児童に触れさせる場合も指導者が手を添えてきちんと管理してください。
*授業で実施する場合には,必ず事前に実験を一通りしてみてください。事故に関しては一切責任は持てません。授業者の責任で実施してください。
ガスライターのつめかえ用ガス容器を用意します。容器をふると中に液体が入っている音がします。容器をさかさまにして試験管の中へ液体をふきだすようにすると水のような液体が底にたまります。
この試験管にガラス管を通したゴムせんでふたをして,ガラス管に火を近づけると,ライターのようにガラス管の先に火がついて燃えつづけます。先生にやって見せてもらいましょう。
それでは,火を消してからたまっている液体の部分を試験管の外から指でさわってみます。熱く感じると思いますか,それとも冷たいと思いますか。
[予想]
ア,熱い。
イ,冷たい。
ウ,ふつう。
予想をたててから,一人ひとり試験管をさわらせてもらいましょう。
[実験の結果]
ガラス管の先に火をつけておいて試験管の底を手でにぎったら炎はどうなると思いますか。
[予想]
ア,小さくなって消える。
イ,変わらない。
ウ,大きくなる。
みんなで予想を出し合ってから,順番に火のついた試験管の底を手でにぎってみましょう。
[実験の結果]
水の入ったコップを用意します。火のついた試験管の底の部分をその水の中につけると,炎(ほのお)はどうなると思いますか。
[予想]
ア,小さくなって消える。
イ,変わらない。
ウ,大きくなる。
あなたはなぜ,その予想をたてましたか。実験の前にみんなで理由を出し合ってみましょう。
[実験の結果]
こんどは,水の入ったコップに氷を入れます。火のついた試験管の底の部分をその水の中につけると,炎(ほのお)はどうなると思いますか。
[予想]
ア,小さくなって消える。
イ,変わらない。
ウ,大きくなる。
あなたはなぜ,その予想をたてましたか。実験の前にみんなで理由を出し合ってみましょう。
[実験の結果]
試験管の底にたまったライターガスの液体の温度は何度ぐらいだと思いますか。
[予想]
ア,0℃より高い。
イ,-5℃から0℃ぐらいまで。
ウ,-5℃より低い。
予想を立ててから実際に温度を測定してみましょう。
[実験の結果]
ライターガスの容器をさかさまにして試験管の中にふきだすようにすると底に液体がたまります。この液体を注意して見ると,その内部からあわが出ているのがわかります。これは,たまった液体が沸(ふっ)とうして,気体になっているのです。しばらくほおっておくと液体の量はみるみるへっていきます。
また,この液体の温度を測ってみると-5℃以下になり,さわってみるとたいへん冷たく感じます。
ライターガスの主な成分はたいてい液化石油ガス(LPガス)です。メタンやブタン,プロパンといった液化石油ガスの一種が使われています。液化石油ガスは,その性質におうじて各種スプレー用や家庭用燃料,携帯(けいたい)コンロの燃料などとして広く使われています。
ライターガスとしてよく使われる(イソ)ブタンは,1気圧のもとで室温だと気体ですが,容器にとじこめて圧力をかけたり,-11.7℃以下に冷やすと液体になります(沸点-11.7℃)。
実際のライターガスは(イソ)ブタン以外の成分を混合している場合があり,そういうものであれば液体の沸点(ふってん)は-11.7℃になりません。
ガスの容器からふきだした(イソ)ブタンの液体は,試験管の底に水のように透明な液体としてたまります。そして,この液体はまわりの空気にあたためられて,こんどは液体から気体に変わって沸とうを始めるのです。ところが液体が気体になるときには,まわりのものの熱をうばって温度を下げます。このようにして試験管の中で液体になっている(イソ)ブタンはとても冷たくなり沸点(-11.7℃)以下にもなります。
水やアルコールを手のこうなどにつけてぬらすと,かわいて気体になるときに冷たく感じます。このように液体が気体になる際にはまわりの温度を下げます。このように液体が気体になるときにはまわりから熱をうばうと考え,その熱のことを気化熱とよびます。
たいていの冷蔵庫は,このことを利用して内側を冷やしています。電気でモーターをまわして気体に圧力をかけて庫外で液体にして,それを庫内でふたたび気体にすることで温度を下げるのです。
実験では,液体を手でにぎってあたためると炎(ほのお)が大きくなります。これは,液体が手の体温であたためられて強く沸とうし,さかんに気体になるためです。
それでは,水につけたときになぜ炎が大きくなるのでしょうか。冷やしているのになぜ炎が大きくなるのだろう,と不思議に思った人はいませんか。あなたは,なぜだと思いますか。
ふつうの水に指を入れると体温(37℃ぐらい)よりも水の温度は低いですから冷たく感じます。しかし,-10℃ぐらいにもなる(イソ)ブタンの液体にとっては,水はあたたかいのです。だから,水に入れても氷水に入れても(イソ)ブタンはさかんに沸とうして炎が大きくなるのです。
しかし,そんな冷たい(イソ)ブタンも-78.5℃で固体から気体になるドライアイスで冷やされると沸とうするのをやめてしまいます。そうして炎も消えてしまうのです。
「熱い,冷たい」といっても何を基準(きじゅん)にするかで,その意味することが変わってくるのです。
ライターガスを使ってやってみたい実験はありませんか。ガスを使った問題を考えてみましょう。教室でやれそうな実験を思いついたら先生に手伝ってもらってやってみましょう。
ここまで勉強をして,あなたは何かおかしなことに気づかないでしょうか。氷水に入れても強く沸とうするのなら,室温のほうが高いのに,空気中で静かに燃やすだけではなぜか大きな炎を上げません。もう一度,実験をして確かめてみてください。あなたは,なぜだと思いますか。
この授業プランは,音田輝元さんの実践(「ブタンガスで楽しもう」『たのしい授業』1997年3月号・仮説社)を参考に作成しました。【問題1】【問題2】以外は尾崎が新たに追加した問題と話です。