「想人」第一話 序曲

(1)

 チカチカといくつかの輝きのつながりが、ゆっくりと紡錘形の隊列を組みながら、真っ暗な空間を進んでいた。その隊列の前には、獲物を狙っているかのごとく、おびただしい数の艦(ふね)が横に広がって待ち構えていた。何日も、この空間には、様々な形の艦(ふね)が同じ場所に並んでいた。しかし、あらかじめ決まった『時』が来たかのように、両軍は一気に動き出した。

 横長の隊列から網のような光の束が、紡錘形の隊列に向かっていった。
 紡錘形の隊列は、ぱっと広がった。それは、まるで孔雀が威嚇の為に羽根を広げるようにどんどん大きくなっていった。そして、横長に並んだ艦艇をすべて包み込むように、覆いかぶさっていく。
 光の糸が横長の隊列に一斉に伸びる。その動きに驚いた横長に並んでいた艦隊は、たちまち右往左往し始めた。

 大破する艦(ふね)、逃げ始める艦(ふね)......

 紡錘形の隊列の中心には一隻の大きな戦艦があり、すべての艦(ふね)を操っているかのように、堂々たる姿を誇っていた。対立する艦隊から、集中攻撃を受けるものの、巧みな操艦と迎撃と、護衛の艦に守られて、一撃たりと受けることはなかった。
 その艦の艦橋の奥まった席に座る一人の男が、ずっとその様子を静観していた。

「撤退」

 艦橋にいた者は驚き、振り返る。男が久々に発した言葉だった。

「聞こえなかったか、撤退だ」

「はい、ただちに全艦撤退せよ」

 復唱した男の声を皮切りに、皆、それぞれの持ち場に指示を出し始めた。

「総司令、数艦、未だ戦闘空間から離脱しておりません」
 レーダーを見て、味方の艦跡を追っていた女性が再び振り返った。

「撤退するように、私の名でもう一度命令を送れ」

「はい」
 通信担当が再び、撤退の信号を送った。

「総司令、駆逐艦YAMASEから映像が入ってきました」

 全面の巨大スクリーンに、30ぐらいの顎の大きな男が現れた。

「総司令、何故、優勢なのに撤退なのですか」

 総司令と呼ばれた男は、深くかぶった帽子から鋭い視線をスクリーンに向けた。

「追いつめるな、鮎川。追いつめれば追いつめる程、反撃してくるぞ」

「しかし、ここで後ろを見せては......、総司令、私にはできません」

「我々の目的を忘れたのか」

 鮎川を諭すように話していた男は、艦隊の動きを別モニターで確認すると、操艦していた航海士に向かって、叫んだ。
「次郎、2時の方向へ」

 グワーン

 大きな揺れと音が、美しいフォルムの舷側から響いてきた。
 撤退の遅れた艦艇をかばって、旗艦アンドロメダIIが敵弾の犠牲になった。その分厚い装甲は多少の傷跡を残すのみで、航行にはなんらかの支障はない。

 鮎川は眉間にしわを寄せた。今、アンドロメダが身替わりになっていなかったら、艦は大破していただろう。

「YAMASE、予定通りの撤退コースに入りました」

「機関部には異常ありません」

「アンドロメダ、反転します」
 航海長が告げると、艦は、大きく向きを変えた。

「総司令」
 通信担当が立ち上がり、一枚の紙を手にして、一番奥の指揮官の席に近づいた。

「戦闘中、月面に不時着した船についての続報です」

 渡された通信文を読むと、地球連邦宇宙軍連合艦隊総司令古代進は帽子を深く下げた。

 

(2)

 そのすぐ後、アンドロメダに地球への帰還命令が出た。3分の1ほどの艦隊が、先ほどの海戦があった冥王星のラインに残り、アンドロメダは、他の艦隊を引き連れ地球をめざした。

「古代総司令、木星ラインの守備艦隊が離れていきました」

「......」
 声を発することなくうなずくと、古代進はさっきの紙をもう一度見直した。

 艦橋を見渡した進は、乗組員達が、疲れているのに気づいた。

「次郎」

「はい」
 進は、若い航海士に声をかけた。

「最速で帰還した場合の地球帰還時刻は?」
 進の言葉に、航海士は、パネルを操作して、おおよその航路と時間を測定し始めた。

「地球標準時2203です」

 進はその返事に満足したのか、振り返って答えを待つ航海士・島次郎にむかってうなずいた。

「ここからは、通常の航行スケジュールに従って、各自休息を取るように。本艦は、地球に帰還予定である。地球帰還後はすみやかに退艦できるように。また、休暇の申請受付の済んでいないものは、申請の手続きを......」
 艦内に地球帰還予告の放送が鳴り響く。進は最後まで聞かず、艦橋の上の司令室にあがった。

 

「デスラーからのメッセージ......」

 その予想をしてなかったメッセージの内容は、どんなものであったのだろうか。通信文は、ただ、ガルマン・ガミラス総統であるデスラーから進宛てのメッセージがあったことが書かれているだけだった。
 先ほどのデスラーからの使者の地球訪問が、冥王星ラインでの睨みあいの緊張の均衡を崩し、ボラー連邦が先に動き出すきっかけとなった。長く守りに入っていた地球防衛軍の艦隊は、いつ始まるかわからぬ状態だけで、相当疲れ切っていた。まさに天からの贈り物であった。

「デスラー、君のおかげだ。感謝せねば」

 進は紙を握り締め、星が煌めく窓の外を見た。何時間後には地球が見えるだろう。進は椅子に座りながら、目を閉じた。ここ数日、まともに眠っていなかった。進は体の欲求通り、眠りに入った。

「総司令、地球への進入航路が決まりました」

 突然の通信で、進は目を開ける。眼前には、青い宝石のように輝く地球があった。その地球の手前で、光が瞬いた。

「アクエリアスか」

 そこはあの水惑星アクエリアスが残した水を元に、記念碑として造られた人工の宇宙灯台であった。

 進はその瞬きを見つめていた。灯台守が送ってくる光の言葉は、大抵がありふれた言葉であった。

『お・か・え・り・......』

「!」

 進の体に、閃光が走った。
 進はあの通信文が書かれた紙を再び見た。

『偶然なのか?』

 進が顔をあげると、いつの間にかアクエリアス灯台は彼方に消えていた。そして、眼前には、青い地球が立ちはだかっていた。

 

(3)

 222X年、地球は、23世紀初頭からの急激な繁栄も落ち着き、銀河系の一国家として存在を築いていた。しかし、銀河系は、他の銀河との衝突からの後遺症から抜け出てはいなかった。銀河中心部の、人が住める星々は荒廃し、銀河周辺部の比較的被害が少なかった地域で、人の住める星の奪い合いが続いていた。

 地球は、直接的な被害こそなかったが、その領土問題に絡んだ戦闘に幾たびか巻き込まれていた。ガルマン・ガミラスは暗黙の了解の上の不可侵の姿勢をとっていたため、それは、ガルマン・ガミラスに敵対する勢力であるボラー連邦からであった。たびたびの戦いで放たれたボラーのブラックホール砲は、傷付いた銀河系を刺激したのか、消滅することなく残る物もあった。太陽系付近にもブラックホール砲のために不安定な空域があり、地球に数年以内に影響を及ぼすだろうと推計されていた。地球の学者達は、その理由も解決策も消化できぬまま、手をこまねいていた。銀河系の疲弊が地球にも及んでいた。

 

「すまないな、忙しいところなのに」
 進は、やってきた二人に声をかけた。

「いいえ、総司令」

 二人はそれ以上話さず、進の言葉を待っていた。

 進の方も、何も言わない彼等の気持ちを察していた。自分が何を言いたいのか、たぶんこの二人にはもう分かっていることだろうが、進は彼等の自分への気持ちを大切にしたかった。

「私は、今日限りで下りることにした、この艦(ふね)を」

 二人は驚かず、静かに答える。
「わかりました」

 髪のほとんどが白くなった男が頭を下げた。そして、顔を上げた時、白い歯をのぞかせるほど、清清しく笑った。
 もう一人の男も頷いていた。

「すまないな、今、地球の防衛戦力を下げるわけにはいかない。この艦を頼む」

 進は、男達が素直に見送ってくれることを感謝していた。
 進は椅子から立ち上がった。

「総司令、お体をお大事に」
 年下の進を前にして、胸に手をあて、男は敬礼をした。まだ少し残った黒髪の前髪が数本落ちても、微動だにしなかった。

「ありがとう、山崎機関長」

 もう一人の男は、その様子をずっと見守っていた。
 進は短い間自分の居場所だったこの場所を見渡した。

「坂東、次郎だけは連れていくぞ」

 進の声がかかると、坂東と呼ばれた男は、帽子の横に手を添えた。

「わかりました。彼も喜びます」

 進はその言葉にうなずき、一度も振り返ることなく、部屋を出ていった。

 

「会えるといいですな」

 山崎は、先ほどの進の話を思い出していた。

「そうですね」 

 坂東は、進が消えたドアをながめながら、山崎に言葉を返した。

 

 進は、アンドロメダIIを下りると、地球防衛軍司令本部を目ざした。 
 チューブカーからの見える高層ビル郡が連立している景色は、地球の安定した発展を証明していた。

 

「総司令、今、確認します......」 

 声がかかる度、約束なしで防衛軍司令長官に会いに来たことを説明していたが、進は、とにかく、自分の足で目的地に辿り着きたかった。

「古代司令」

 聞き覚えのある声に、進は振り返った。

「長官の所にいくのでしょう。私が案内します」

 返事をせぬ進を目の前にして、周りの者に目配せをした。
「総司令を長官の部屋に案内する」

 進は何も言わず、ついていった。

「先程、お前がアンドロメダから下りたという話を聞いたよ」

 男は、一人、喋り続けた。

「お前が、他の乗組員より先に下りたんだ。察しがついたよ」

 男は、進が何も言わないことを何とも思っていないようだった。

「行ってこい。長官も待っている......」

 ドアの前に立ち止まると、先に行くよう進に部屋の入室を勧めた。その時、初めて進は、案内してくれた男と目を合わせた。

「ありがとう、相原」

 進の口元が、柔らかにカーブを描いた。

 

(4)

 波の音が遠くから聞こえる。その心地よいリズムが子守歌のようだった。

 

「ねえ、起きて」

 ベッドで寝ている人に飛びついた。大きな背中......。
 「ううん」と寝ていた男は、ゆっくり体を動かし始めた。

「だめよ、もう少し寝かせてあげて」

 やさしい声に振り向くと、一人の女性がにっこりと微笑んでいる。この時点で、これは夢だと気づく。

『でも、このままもう少し......』

 懐かしい思い出。父がいて、母がいて......。ただ、それだけで、楽しかった日々。

ざざざ、ざざざ......

 何もの音が繰り返している音が、遠くに聞こえる。

 

「おい、何してんだ」
 怒鳴り声が、 頭にずきずき突き刺さる。

「起きろよ。時間だぞ。初日から、遅刻するつもりか!」

 映像がぼやける。

『まだ、夢の中に......』

 肩を大きく振られ、頭ががくがく揺れた。

 

「何しやがる」 
 怒鳴って相手の首元を掴む。

「離せ。ぼけてんじゃねえよ」

 いつの間にか、掴み合いの喧嘩になった。

「ちょっちょっと、待てよ」

 そこで、相手が昨日一緒に酒を飲んだ悪友だと気づいた。

「す、すまん」

 手を離すと、目の前には、いつも側にいる悪友が立っていた。悪友はにらみながら、シャツの首元を整えていた。

 

「女と間違われて、抱きつかれた方がまだましだ」

「じゃ、ヤストちゃ〜ん、これで許して」
 最高に努力して、甘えた声で抱きつく仕種をすると、ヤストと呼ばれた男は、パッと一歩後退した。

「やっぱ、ユウ、お前、マジ女装似合いそ」

 

 

(5)

 二人は走って車に乗り込んだ。

「初勤務が遅刻だなんて、俺は嫌だぜ」

 ユウと呼ばれた青年は、両手で髪を髪を撫でた。ヤストは片手で運転しながら、もう片手で相方の髪の毛をかき混ぜた。

「何すんだ」

「ばか。お前が時間通り来ないから、来てみれば......。だから、うちに泊まれって言っただろう」

「うるさい」

 ああ言えば、こう言う......二人は、会話の先が読めてきて、急に無口になった。

 会話が途切れ、車の前方には、光る建物が見えてきた。

「お前のお母さまには、悪いことしたな」

 ユウは、制服の首元をきちんと整え始めた。

「そうだな。楽しみにしていたからな。何年ぶりかでお前が泊まるとか言って、かなり盛り上がっていたから」

「そうか......」

 車は、ゲートの中に滑り込み、チェックを受ける。

「ついでに、おやじも楽しみにしてた。お前のおやじの話をしたかったらしい......」

 ヤストは、何気なく、相方の顔色をうかがった。その動作に気づいて、相方がそっぽをむき出したのを気にしつつ、車を駐車場に入れた。

『ヤバい話題だったか......』

 ヤストがフッと溜め息をつく直前に、思いっきり相方に背中を叩かれた。

「行くぞ。初陣だぜ」

 相方の不敵な笑い......

『まあ、そんなとこがいいんだけど』

「いざ、出陣」

 二人は入り口に向かって駆け出した。

 

(6)

 ユウとヤストは、赴任先の月まで、短い旅を楽しんだ。

「あっ、あれ、アクエリアス灯台だ」

 ヤストの言葉に、周りから嘲笑の笑い声が聞こえた。

「恥ずかしい奴......」

 ユウは、窓から見えるアクエリアスの光をちらりと見ると、窓から目をそらした。

「あそこで、ヤマトが自沈したんだよな」

「ああ」

 ユウは目を閉じた。その様子を見ていたヤストは、話すのをやめた。幼い頃から一緒に遊んだ二人にとって、何が好ましいのか好ましくないというのは、わかりきったことだった。

 

「月面基地の戦闘機隊に配属15名、ただいま到着しました」

 月面基地司令の加藤四郎は、目の前に並んでいる精悍な、そして、まだどこか、子どもの面影を残している宇宙戦士訓練学校を卒業したばかりのメンバーを見渡した。

「今日は赴任初日だが、今、冥王星空域に、地球の艦隊のほとんどが集結して、内惑星の守備が手薄になっている。君たちも、ただちにそれぞれの戦闘機隊長の指示を受けるように」

「では、それぞれの配属を発表する......」

 加藤の横の年輩の男がひとりづつ配属と部屋割を説明しだした。加藤四郎は、その間、居並ぶ少年たちを一人ずつながめた。見なれた顔を見ると目を細めた。

『歳を取ったんだな、俺も』

 

「よかった、お前とペアを組めて」
 荷物を運びながら、ヤストはすっかりに無口になったユウを振り返った。

「ここの基地司令が加藤のおじさんだしな」

「学校だって見知った人が教官だったり、今までだってそうだっただろ」

 ユウの不機嫌は、ますます拍車がかった。

「そんなことわかっている。軍に入るって決めたときから」
 ユウは、大きな声で叫んだ。

「何をしている、森、南部」

 二人が振り向くと、そこには、二人の上司が立っていた。
「何を愚痴愚痴言っているんだ、今、我々には時間がないんだぞ」

 二人は重い荷物を肩に担いで、宿舎に向かって走った。

 

 

(7)

「ボラーの攻撃は、冥王星空域だけでなく、太陽系のところどころできるワープアウト可能地点に今までも何度もあった。我々の仕事は、予測された地球近くのポイントにワープアウトしてきたボラーの機体、ミサイルを徹底的にせん滅することだ。君たち二人も、今からその任務を遂行して欲しい」

「了解」

 二人は、すぐさま、調整された機体コスモタイガーIIIを渡され、いくつかのポイントが表示しているレーダーの点滅を確認した。

「行くぞ、もうすぐ、この月近くにそのポイントができる」

 ヘルメットのベルトの装着を確認しているヤストに声をかけた。その声は、ヤストのヘルメットに響いた。

「OK。機体の調子もよさそうだ」

「ああ」

 

うぃーん、うぃーん......

 その時、格納庫にけたたましいサイレンが鳴り始めた。

「行くぞ」

 ユウは、機体のスイッチを入れていく。二人を乗せた機体は一気に加速し、角度を深くして上昇していった。
 ヤストは後部座席で、送られてくるデータを整理し始めた。

[ワープアウトポイントは、◯◯◯W××。数機の艦艇が戦闘中。月の裏側に向かって移動中。移動先の予想ポイントは......]

 月基地から発進したばかりのユウ達の機体は、ヤストが計算した移動先へ向かった。

「もしかしたら、一番に接触だな」

 ヤストの言葉は、ユウが思っていた言葉だった。

 ユウは、何も言わず操縦レバーを操った。目の前は、月の地面が続く。そのうち小さい光がいくつも見え、目の前に数機が戦闘をしていた。少し大き目の一機が追われているのは、明らかであった。追い掛けている機体はボラー連邦のものである。
「射程距離内に入るぞ」
 ヤストの言葉に、ユウは操縦レバーについたトリガーにかかる手に力を入れた。

 パルスレーザーが心地よい連続音を発する。

「ユウ、8時の方向」

 ナビゲーターのヤストが叫んだ。

「あいよ」
 ユウは、慣れた手付きで操縦レバーの向きをかえた。

「訓練学校主席は伊達じゃねえんだよ」

 ユウは、小さな声で呟いた。それを聞いたヤストは、ニコリとした。

「援軍が来たようだ」

 ヤストは、とことん追い掛けようとするユウに声をかけた。逃げていく機体を援軍のコスモタイガーが追い掛けていく。

 ヤストの目の前のレーダーの赤いポイントの動きが急に速くなった。

「おい、追われてた方が、落下するぞ」

「えっ」

 機体は、月の方向に向かって急速に落ちていく。

「追うぞ」

 機体のスピードは早く、ユウたちは追いつけなかった。

 

(8)

 機体の落下速度はかなり速く、ユウ達はただ見守るしかなかった。必死に不時着を試みている機体の動きは、着地寸前で地面と平行になるように角度が変わってきた。

「大丈夫なのか」

 ずずずと半分機体を引きずるように着地した機体を確認すると、ユウはすぐ近くに着陸した。

 二人は装備を確認すると、キャノピーを開けた。

「衝突は免れたが、かなり、着陸時に衝撃があったはずだ」

 ヤストは、機体の一部が地面に減り込んでいるのを指差した。
「エネルギー反応が低いから、エンジンが爆発することもないだろう。お、おい」
 ヤストの言葉を待たずに、ユウは不時着した機体に向かって歩き出した。

がしっがが......

 金属が擦れる音がし、機体の一部が動いた。機体の側面にポッカリ穴が開いた。

「おいっ」

 ユウは、ヤストの腕を引っ張った。

 中から宇宙服と頭部にもヘルメットらしき物をかぶっていた人物が下りてきた。中から這い出てきたという感じで、足許は不安定だった。ユウは駆け寄り、倒れそうな体を支える。

「大丈夫ですか」

 言葉は通じるとは思わないが、思いが入っていれば通じると信じ、ユウは続けて喋った。

「私達は、地球人です」

 どこかからの飛来者は、抱きかかえるユウのヘルメットに向かって手を差し伸べた。

「こ、古代......」

 ユウは、その意外な言葉に驚いた。

 その人物は、そこで糸が切れたように、伸ばしていた腕を下に落とした。
 ユウは、腕の中の体を揺さぶった。

「どうしたんです。なんで、その名を。教えてください......」

 ヤストは、腰につけていた探知機のようなものを動かなくなった体にかざした。

「ユウ、どうやら、絶命してしまったようだ。せっかく、着陸できたのに」

 それでもユウは、ずっと体を揺さぶり続けた。そのはずみで伸ばした手と反対の手に握りしめられた一つの物が転げ落ちた。ユウは、抱きかかえたまま、ひざをついた。そして、腕の中の体を月の地面にそっと置いた。

 ヤストは、落ちた物を拾い上げ、ユウの前にもっていった。

「大事そうに抱えていた。よっぽど、大切なものだったんだな」

 しかし、ユウの耳には、さっきの最期の言葉が耳から離れなかった。
『どうして、どうして、その名を......』

 

目の前に広がる月の地平線から、青く輝く地球が昇り始めた。

 

第一話「序曲」終わり

第二話「誕生」へ

         


なぜ、この話を書いたのか、知りたい方はこちらを読んでね。

SORAMIMI 


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