SEIBI工房プロデュースCD
2010年6月21日発売
女流義太夫 竹本駒之助
近頃河原の達引 堀川猿廻しの段
日本アコースティックレコーズ
NARP-8004 2,940円(本体価格2,800円)
「近頃河原の達引 堀川猿廻しの段」
ちかごろかわらのたてひき ほりかわさるまわしのだん

〈演奏〉
 浄瑠璃 竹本駒之助
 三味線 鶴澤津賀寿
 ツレ弾 鶴澤寛也

2009年7月22日国立演芸場にて収録
解説:竹内道敬
企画制作:黒河内茂(日本伝統音楽振興会
     鳥居誠(SEIBI工房)
     大森美樹(SEIBI工房)
録音:今泉徳人(日本アコースティック・レコーズ)
デザイン:國高秀基
写真:福田知弘
協力:濱口久仁子
   社団法人 義太夫協会
デスク:高橋理恵、伊藤裕市(日本アコースティック・レコーズ)

〈ディレクターズ・ノート〉
 SEIBI工房として初めてのプロデュース作品となるこのCDは、毎月国立演芸場で開催されている女流義太夫演奏会のライブ録音。「堀川猿廻しの段」の心中物語については多くのページで紹介されているのでここでは省くが、70分を越す長い演目にもかかわらず音楽的な変化と構成で飽きることのない名作の一つ。語り・台詞・歌・節を一人の太夫によって演じる義太夫は、その時代その時代の様々な音楽や芸能を吸収しながら作品が作られてきている。この「堀川猿廻しの段」では地歌の「鳥辺山」の稽古風景や、巷間芸能である猿回しの部分など音楽的にバラエティーに富んでいて、ストーリーだけでなく音楽としても聞かせどころが多い。
 この演奏を録音するきっかけは駒之助さんからの「もう一人でこれを全曲語れる機会は体力的にもうないかもしれないから録音しておいてもらえないだろうか」というメール(三味線の鶴澤津賀寿さん経由で)が演奏会当日の1週間前に飛び込んできたことだった。(財)日本伝統文化振興財団からリリースした「竹本駒之助の世界」(平成21年度芸術祭優秀賞受賞作品)を担当したこともあっての事もあってのことだとは思うが、1週間前でのCDクオリティーのレコーディングの段取りは異例中の異例。とにかく急いで信頼できるレコーディングスタッフに連絡したところ、偶然にもこの日は空いているとの朗報。制作費など何も準備できていない状態で快く引き受けてくれたのが、このCDを発売した日本アコースティックレコーズ社長で「竹本駒之助の世界」の録音も担当した今泉氏だった。
 幕が上がり、この曲独特の軽快な三味線の前弾きが始まり駒之助さんが語り出すと、これまで以上に何か張り詰めた緊張感が漂ってきた、よほどこの演奏に集中していることが伝わってくる。前半に登場する地歌「鳥辺山」の稽古部分は、曲中曲としてはかなり長く演奏される場面で、師匠役の母と弟子役の「おつるさん」の歌い方なども見事に唄い分ける駒之助さんの芸の細かさにまず驚かされる。稽古がひとしきり終わるといよいよこの段の本題へと進んでいくわけだが、登場人物の描写の的確さは駒之助さんならではである。さらに圧巻は最後、猿廻しに身を隠し二人逃げ落ちてゆくこの「猿廻しの段」ならではのクライマックス。11分以上に及ぶ長い場面(CDでは16トラック)なのだが、時間の長さも忘れるほどの快演であった。録音が終わってスタッフ一同「これはいずれCD化したいね!」と強く感じた瞬間であった。それから約8ヶ月、今泉氏から「CDで出そう!」との提案。もちろん即答で「やろう!」ということで、いよいよ本格的なCD化に向けて作業を開始したのだった。
 私は決して義太夫の専門家でも研究家でもない。ただ、伝統芸能に関しては幼少の頃からレコード会社在籍時代に到るまで、おかげさまで様々なものを聞くチャンスには恵まれていた。8ヶ月ぶりにこの録音を聞き返してみると、駒之助さんの表現力に改めて驚かされることとなる。義太夫としての語りもさることながら、この曲で登場する鳥辺山の歌の見事さにはただただ感服する。義太夫よりも地歌箏曲の仕事が多かった私にとっても、これほど魅力的な「鳥辺山」は聞いたことがない。もちろん地歌そのものの芸ではないことは十分承知の上のことなのだが、この部分を聞けば聞くほど駒之助さんで「鳥辺山」を通しで聞いてみたいと思わせるほど魅力的なものなのだ。義太夫ならではの音程のずらし方も、全て自然に理にかなった節となってこの歌をさらに魅力的にしている。制作作業完成後もこの部分を何度となく繰り返して聞き惚れてしまっている。