らぁーく!らく!らく!!!

  これは山で落石を起こした、又は気がついて他に警告する時の叫びだ。
 涸沢BCから、五六のコルを越えて北尾根四峰正面壁を登りに行く時だった。五六を越え、右にトラバースをし、細い急な岩尾根を降りていく。岩尾根が終わりに近づき、右下の急な雪渓に移りキックステップで降り始めた。しばらく降りた時、いきなりすぐ脇の雪面でビシッという音がした。そして拳大の石が大きく跳ねて落下していった。なんの音もせず全く気付かなかった。
 落石は斜面を落ちる時は当然ガラガラと音を立てる。また空中を落下する時でも平たい石や、細長い石は回転することで空気を震わせブーンという唸り音を出す。微かな音でも自然の中ではすぐに気がつき、反射的に上を見て対応できる。石から目を離さずにいれば結構対応できるものだ。引きつけて避ける。
 谷川岳の一ノ倉沢烏帽子沢奥壁中央カンテを登りに行った時だった。ここは落石が多いので平日に行ったのだが、取り付きに着くと既に先行するパーティーがいた。そのパーティーの動きを見るとあまり上手ではなさそうだったので(自分達も岩登りは下手だったのだが。)止めて戻ろうしたのだが、思い直して登ることにした。登り始めると心配したとおり時々石を落とす。それでも直撃するようなものはなくしばらく登り続けた。何ピッチ目かでフェースの途中で下を確保している時、上から「らぁーく!」。又かと思いながら上を見ると無数の石が迫ってくる。「ワァー!」と心で叫びながら少し出っぱている岩の下に身を屈めてへばりついた。頭のすぐ上のその出っ張りに凄い音を立てて石がぶつかり続ける。そうしながらフェースの真ん中にいる下のTを見た。そこには必死の形相で降り注ぐ石を睨みながら体を左右に振っている彼がいた。高校の時サッカーのゴールキーパーをやっていたとのことで動体視力が良かったのだろうか、全部避けて無事だった。いやー凄いな・・・大したもんだ。
 しかし真球に近い石だと、このブーンを発しない。100m以上空中を来れば鉄砲の弾と同じようなものだと思う。落石の危険がある場所だと判っていても真上を見ながら下ることはできないので、あとは運不運の問題としか言えない。まあこの時は運が良かったということだね。落石の大規模なものが岩雪崩。穂高の滝谷では時々発生している。ここは上に縦走路が有るため起こりやすい。幸いこれに出会ったことはないのだが沢筋でこれに見舞われたら、技術も経験も何の役にも立たないだろう。落石の殆どが人為的なもの。自分は「オット危なかった。」で済んでも、下の人に大変な被害を与える可能性がある。くれぐれも不注意な歩き方はしないよう山登りをしていきたいし、いって欲しいと思う。