おこじょとの出会い

雷鳥と出会ったのは、北岳バットレスの第四尾根を登っている時だった。
マッチ箱の少し下にいるときガスに包まれたC沢の方から「グェーグェー」
と鳴き声がした。ガスを透かして見ると2羽の雷鳥が急なガリーで羽ばた
いていた。「すごい声だなー」と苦笑いしながら見つめていた。雷鳥を見
たのはこの時だけだったと思うが、ブログなどを見ていると今やあちらこ
ちらで目撃した話がのっている。増えているわけでもないのだろうから人
間との距離が縮まってしまったのではないかと、ちょっと心配な気もする。

ニホンカモシカと出会ったのは2回かな。1回目は足尾の庚申山の林だっ
た。気がつくと少し上の斜面でこちらをじーっと見つめていた。しばらく
そのままおたがいに見つめていたが、やがて身を翻して藪の中に消えて行
った。こんな低いところにもいるのだなと思った。
2回目は横尾にテントを張って後から来る仲間を待っている時。暇なので
屏風岩の取り付きまで遊びに行った。緩いスラブを登っていると少し離れ
たところに親子のカモシカがやはりじーっとこちらを見つめていた。かな
り長い間そののままでいてから後ろの藪に消えて行った。
しばらくしてから気づくと先ほどよりずっと近いところに又カモシカが現
れた。よく見ると今度は傍に子供がいない。思うにもっと近くで我々を観
察したくて子供をどこかに置いて、改めて見に来たようだ。もちろん他の
個体だった可能性も有るとは思うが、この時は「母さんはもう少し近くに
行ってみるからお前はここでおとなしく待っているんだよ。」なんて会話
があったんじゃないかと想像して、とても楽しかった。

鹿は丹沢でさんざん出会った。熊には会ったことがない。(幸いに)

そして本題のおこじょに出会ったのは前穂の北尾根を登っている時だった。
4峰の登りだったと思うのだが、結構急な所を登っている時に突然本当に
近く(2mぐらい)に小さな動物が現れた。おこじょだった。
人間を怖がる風も無く、こちらの眼の高さと同じ所から大きな黒い目でじ
っとこちらを見つめている。少し顔を傾けるような仕草もしていた。
おこじょのことはもちろん知っていたが、初めての遭遇がこんな近くで。
びっくりして、しばらく眼を離せなくなってしまった。
しばらくそうしていたが、フッと這松の中に消えて行った。突然の出会い
にうれしい気分になりながら再び岩尾根を登り始めた。
ところが数十メートル登ったところで、なんとおこじょが再びすぐそばに
姿を現わした。こちらから見えないルートを登って先回りをしていたらし
い。「あれ、又来たの。」と驚きながら心でつぶやいた。そしてその後、
いなくなっては上のほうで又現れるのを4度ほど繰り返してくれた。自分
の登っているところよりずっと難しいところを軽々と登っている姿が想像
されて、とても愉快な気分だった。4峰の少し前で姿を見せなくなった。
この後他の山でもおこじょに出会うことはなかったが、ハンドルネームに
使うほど忘れられない存在になった。
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