糖尿病のお話

1. 糖尿病とは


 糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの「分泌量が不足」するか、「効きが悪くなる」ために血糖値が高くなる病気です。多少血糖が高くても自覚症状はほとんどありません。糖尿病が相当に悪くなって初めて口渇 多飲 多尿 体重減少など様々な自覚症状がでてきます。更に進むと合併症を起こし、これによる自覚症状もでてきます。

2. 糖尿病の合併症


2.1 3大合併症


 血糖値が高い状態が続くと、全身の血管壁がただれて血行が悪くなってきます。
糖尿病の3大合併症である、糖尿病性網膜症(失明の原因となる)、糖尿病性腎症(透析が必要になる可能性有り)、末梢神経障害(しびれや知覚障害を起こし、足が腐る原因となる)のいずれも末梢血管の血行障害が原因で起こってきます。

2.2 重大合併症


 また、心臓の血管がやられると心筋梗塞、脳の血管がやられると脳卒中といずれも命にかかわる合併症を引き起こします。血管のただれは全身に起こるため、これ以外にも様々な血管の病気を引き起こします。
 糖尿病になると、インスリンがおかしくなっているためにブドウ糖という重要なエネルギー源をうまく利用できなくなります。
このため長年放置して相当に悪化すると、いくら食べてもエネルギー不足の状態が続き、体がだるく体重が減っていき、最悪の場合命が危なくなります。

2.3 糖尿病性昏睡


 血糖値が極端に高くなったり、低くなったりすると意識がおかしくなり、最悪の場合意識が無くなり昏睡状態となります。このような糖尿病性昏睡は極めて危険であり、昏睡からの回復後も脳に後遺症を残すことがあります。

3. 1型糖尿病と2型糖尿病


 糖尿病には、1型糖尿病と2型糖尿病があります。
 1型糖尿病は、インスリンを作る膵臓のランゲルハンス島β細胞の破壊や消失が主な原因となる糖尿病で小児期に発症するものが有名ですが、成人してから発症することも珍しくありません(緩徐進行1型)。
インスリンの分泌が徐々に減っていき最後には全く出なくなってしまいます。このため1型はインスリンの注射が絶対に必要で、注射なしでは生きていくことができません。

 2型糖尿病は、糖尿病を起こしやすい遺伝的素因を持つ人に、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子や加齢が加わって発症するもので、中年以降によく見られるごく一般的な糖尿病です。しかし、2型糖尿病も成人のみの病気ではなく、若年者でもみられることがあります。

4. 2型糖尿病の発症


 一般的な2型糖尿病はある日突然発症するわけではありません。
発症するまでには、10年以上に渡る前駆状態の期間があると言われています。前駆状態にある人では、食事後1-2時間の血糖値が正常の人よりも高くなります。
 これに対し、健康診断などで血糖値として測定する空腹時血糖値(10時間以上絶食した状態の血糖値)は、2型糖尿病発症の1年前になっても正常の範囲内(110mg/dl未満)のことが多いと言われています。
このような食後の一過性の異常な血糖上昇を食後高血糖と呼びます。

糖負荷試験
食後高血糖を調べる検査が糖負荷試験です。空腹状態でサイダーのような味のする甘い炭酸飲料を飲んでもらい、30分から1時間おきに血糖値や尿糖を調べ、必要に応じて血中のインスリン濃度の変化を調べます。健診で糖尿病疑いとされた方に精密検査として行われることが多いものです。 

5. 2型糖尿病の経過


 糖尿病は、膵臓からのインスリン分泌の絶対量が減るか、インスリンの効きが悪くなる、あるいはその両方が重なって発症し悪化していきます。中年で発症する典型的な2型糖尿病は以下のような経過をたどることが多いようです。

5.1 40歳台


 中年太りが目立つようになる。
健診の際に「少し血糖が高めなので食事や運動に配慮してください」と言われる。
糖尿病とは言われなかったので特に気にすることもなく、今まで通りの生活を続ける人が多い。

 太ったことにより内臓脂肪が増加しています。
内臓脂肪増加はインスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性の状態を引き起こします。
インスリンの効きが悪くなると膵臓はインスリンを大量に作ることで帳尻をあわせようとします。このため当初は血糖値がほとんど上がってきません。

5.2 50歳台


 健診やたまたま行った血液検査で糖尿病疑いのため要受診あるは要治療と言われる。数回要受診と言われてようやく内科を受診。
かなり進行した糖尿病といわれ治療が始まる。
この段階でも大した自覚症状がないことも多いが、喉が渇く、トイレが近い、水分を多量に取る、体重減少などが現れる。

 血糖値の上昇に伴い膵臓は頑張ってインスリンを作ろうとしますが、そのうち疲れ切ってしまい インスリンを作る力が落ちてきます
(膵疲弊)。
インスリンの効きが悪い状態は変わないのにインスリンの量が減ってしまうため血糖は急激に高くなってきます。
高血糖と膵疲弊の悪循環に陥り、どんどん悪くなっていきます。まるで糖が毒を持っているように見えるため「糖毒性が強い状態」と表現します。

 インスリンの出が悪いのであればインスリン自己注射によって外から補充する必要があります。
ある程度インスリンの分泌があっても糖毒性が強ければこれを早期に解除するため、数カ月間一時的にインスリン自己注射を行うことも有ります。

5.3 60歳台


 血糖が上がり始めてから約20年が経過し、様々な合併症が出始める。

 このように2型糖尿病は個人差はありますが、おおよそ10年単位で進行する病気です。
精密検査でしか分からないような極軽い状態から健診などではっきりと糖尿病疑いと指摘されるようになるまでに10年かかります。

 初期の糖尿病と診断される状態になってから「眼底に少し血のにじみが出る」「尿に少しタンパクが出る」「足裏がしびれる」などの合併症の初期症状が出始めるまでにも10年かかります。
「眼底出血を繰り返し視力が大幅に低下」「腎不全が進行し透析が必要になる」「足が壊死して切断」といった重度の合併症になるまでにさらに10年かかります。

 もちろんこの各10年といった期間はその間の薬物治療や食事運動療法を真面目に行うか、あるいは全く放置して多飲過食を続けるかなどによって大きく変わってきます。

5.4 糖尿病は一生付き合う病気 


 糖尿病治療の目的は合併症を予防、あるいは進行をできる限り遅らせて普通の生活を送れるようにすることです。
糖尿病は一度発症したら、薬が要らない状態にまで改善することはあっても完全に治癒することが無い病気です。一旦良くなっても食事運動などの乱れがあるとすぐに悪化してしまいます。

 一生付き合わなければならない病気として根気よく治療を続けることが大切です。

6. 3大合併症の特徴


6.1 糖尿病性網膜症


 糖尿病が悪化すると目の奥の眼底という場所にある網膜の血管が詰まってきます。これに対して体は新しい血管を作ってなんとか血流を保とうとします。しかし、この血管は脆く破けやすいのです。
 小さな滲み程度の出血では自覚症状は全くありません。大きく出血し硝子体(目の中に詰まっている透明なゼリー状のもの)に出血が広がる硝子体出血を起こすと、目の前が赤くなり前が見えなくなるためはっきりと自覚します。この出血は黒目の中なので鏡で目を覗いてみても見えません。眼科医に顕微鏡で見て貰う必要があります。硝子体出血は緊急手術の適応となることが多いです。

 これを防ぐには、定期的に眼科を受診し、出血しそうな部位があればレーザー照射で焼いてもらう必要があります。

6.2 糖尿病性腎症


 糖尿病のために腎臓の尿を作る細胞が徐々に死んでしまうと、尿がうまく作れなくなっていきます。尿検査で蛋白が出たり出なかったりすることから始まります。
尿蛋白陽性となってから数年遅れて血液検査で血清クレアチニンが上がり始めることが多いようです。

 クレアチニンは体の古くなった筋肉が新陳代謝によって分解されて出来る物質で、老廃物の代表的な物です。血清クレアチニン値が上がってくるということは、老廃物を尿として体外に捨てる機能が落ちてきていることを表しています。

 腎臓の機能が落ちて老廃物が溜まってきても、なんとなくダルい、疲れが取れにくいといった微妙な症状しか出ないため、腎症の悪化を自覚するのは透析が必要な程悪くなってからのことが多いようです。

 腎症の悪化に伴って血清カリウム値が上がってくることがあります、一定以上高くなると致死的な不整脈の原因となるため、カリウムの吸着剤を内服して強制的に下げる必要があります。

6.3 糖尿病性末梢神経障害


 糖尿病のために末梢神経を栄養する血管が障害されて血行不良となり、神経が徐々に弱っていき終には神経が死んでしまいます。

 足や手の指先からしびれが始まり、徐々に足裏や手のひら全体にしびれが広がっていきます。糖尿病性末梢神経障害の特徴は両手または両足というように左右同時に症状が出ることです。
 また、その範囲は手袋や靴下で隠れる部分と言われ、手首や足首より先の部分に症状がでるのも大きな特徴です。

 手足のしびれはよく見られる症状ですが、左右どちらか一方の場合には背骨の変形などによる神経障害あるいは糖尿病以外の血行障害が原因の事が多いです。

 神経障害が進行すると痛みが加わり、ちょうど正座した後のしびれて痛い時のような感じとなります。
これが一日中続き夜も辛く眠れなくなってしまいます。

 さらに血行障害が進行して末梢神経が死んでしまうと、しびれも痛みも感じなくなります。
足裏の感覚が無くなるため小さな傷がついたり、水虫で皮膚が割れたりしても気づかないことが多くなります。
糖尿病になると傷の回復が悪くなり感染を起こしやすくなります。感染して化膿しても痛みが無いため絆創膏でも貼って後は放置してしまう人がいます。

 さらに進行すると皮膚が黒くなり筋肉が壊死して溶けて穴が空き、奥に骨が見えてきます。
この状態になると強い悪臭を放つようになるため、さすがに放置できず病院を受診します。しかし、すでに壊死が広がっていれば足を切断せざるをえなくなります。

 これは最悪のケースですが、足切断は決して珍しいことではありません。特に喫煙者は閉塞性動脈硬化症(ASO)という腹部大動脈や大腿動脈といった太い血管が詰まってくる病気を併発することがあり、足全体に強い血行障害をきたして足切断の確率が高くなります。

7. 糖尿病あれこれ


7.1 太ると糖尿病が悪くなる?


 内臓脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなるため、体重が増えると血糖値が悪くなることが多いです。
逆に太っていた人が体重を減らすと血糖値の改善がよく見られます。
およそ2kgの体重変動で血糖値やHbA1cに変化が出ることが多いようです。

7.2 夜遅くに食事すると糖尿病が悪くなる?


 21時以降に夕食を摂っているとHbA1cの値が悪化する患者さんがたくさんいらっしゃいます。
夜は体内時計の働きにより様々なホルモンや自律神経の変化が体の中で起きます。これは筋肉を始め体の疲労を回復させるためで、糖の代謝に関しても複雑な反応が起きています。

 糖尿病になると代謝が乱れてくるため、21時以降の夜遅い食事は血糖値が高止まりしやすいのです。
夕食はなるべく19時から20時頃までに済ませるようにしてください。

 仕事の都合などで帰宅が遅くなり夕食が遅くなってしまう方は、
19時ごろに軽い休憩を取っておにぎりやサンドイッチなどの炭水化物主体の軽食を食べ、帰宅後は炭水化物の少ないおかずのみを軽く食べるようにするとある程度は悪化を防ぐことができるようです。夕食を2回に分けて食べるため分食といいます。

7.3 朝食を抜くと昼食前の血糖値が朝食を食べたときよりも高くなる?


 自律神経の働きや各種ホルモンの分泌は一日の中で時間によって大きく変化します。これをコントロールするのが体内時計です。
体内時計は夜明けを感知して毎日リセットされます。これにより朝5時頃になるとその日の活動に備えて様々な変化が起こります。
その一つは血圧を上げて血の巡りを良くすることで、正常な人でも夜に比べて早朝では血圧が10から15mmHg高くなります。

 また、夜明け頃に肝臓からは糖が血中に放出され、同時に膵臓からインスリンが出ることによって血中の糖は直ちに筋肉に取り込まれて一日の活動に備えたエネルギー源となります。このため朝食抜きでも普通に仕事ができるわけです。

 しかし糖尿病になると肝臓からは糖が出るものの膵臓からのインスリンの出が悪いため血糖値がどんどん上がってしまい、昼食前には朝食を抜いているにも関わらずびっくりする程高い血糖値となることがよくあります。

 食事を摂ると小腸からインクレチンというホルモンが分泌され膵臓にインスリンを分泌するように促します。
2型糖尿病になると、肝臓から糖が出たことに対するインスリン分泌作用は弱っています。しかし、食事を摂ることによるインクレチンを介したインスリン分泌作用はそれなりに残っており、食事がインスリン分泌の刺激となるのです。

 適切な時間に適度な量の朝食を摂ることによって、午前中全体の血糖値を安定させ昼食前の血糖値を低めに保つことができるようになります。すなわち、朝食を食べたほうが食べなかった時よりも昼食前の血糖値が低いということが起こるのです。

 朝6時から7時頃に朝食を摂ることが極めて重要なのです。
遅くまで寝ていて朝昼兼用の食事を摂るような生活をしていると糖尿病が悪化するのもこれでおわかりになると思います。
大雑把なイメージとして、糖尿病の膵臓は朝寝坊で朝食が来てようやくインスリンを出し始めるとでも思ってください。

 以上のことは多くの糖尿病患者さんに見られることですが、膵臓の状態や自律神経の状態は各個人によりそれぞれ異なるため違った結果になることもあります。

7.4 HbA1cとは?


 HbA1cはヘモグロビン エー ワン シー と読みます。
よくヘモグロビンと略しておっしゃる方がいらっしゃいますが、貧血などの指標となるヘモグロビン濃度と紛らわしいので、略すときは
エー ワン シーと呼んでください。

 では、HbA1cとは何を表すのでしょうか。これは1から2ヶ月前の平均的な血糖の様子を表す指標です。
赤血球の寿命はおよそ3ヶ月で、今血液中を流れている赤血球の多くは1-2ヶ月前に骨髄で作られたものです。赤血球が生まれて来る際にその時の血糖を記憶しており、赤血球内のヘモグロビンを分析することでその当時の血糖の様子を推定することができるのです。

 今月は旅行に行っていっぱい食べたら体重が2kgも増えてしまったとか、雨続きで散歩もできず家でゴロゴロしていたなど、
今月の悪さは翌月のHbA1cに反映されます。大雑把にエー ワン シーは1ヶ月遅れの平均と覚えておいてください。

7.5 HbA1cの値はどう評価すればよいのでしょうか


 HbA1cの値を評価するには、体温に置き換えてみると分かりやすいと思います。
すなわち、HbA1cが6.5だったら体温36.5度と考えれば、ああほぼ平熱ね、とりあえずOKかしらと思えばよろしいですし、7.5なら37.5度で、結構熱が高くてまずいなとなり、8,5となればインスリン注射等しっかりとした治療が必要で、10を超えれば入院が必要となる可能性があると想像できます。

 HbA1cが7を超えた状態が何年も続くと、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症、糖尿病性末梢神経障害などの合併症を引き起こし、これを悪化させていきます。合併症発症と悪化を予防するためHbA1cは7未満を維持する必要があります。

  糖尿病患者さんの合言葉は6台キープ!です。


7.6 高齢者もHbA1c値の目標は同じですか?


 70歳を過ぎたご高齢の患者さんについては、加齢により肝臓や腎臓の薬物代謝能力が落ちていることから無理に6台を目指すと低血糖などの様々な悪影響が出ることがあり、個々の患者さんの状態に応じて目標値を7台あるいは8台に設定することもあります。

これは、合併症の進展が10年単位ということを考えると、現時点で合併症を発症していない、あるいはごく軽度という高齢患者さんは、ある程度血糖管理を緩やかにしても健康寿命が変わらないと思われるからです。

また、どんなにご高齢であってもHbA1cが10を超えるような際は、極端な高血糖や血液が酸性になるケトアシドーシスという状態になることがあり、意識障害や命が危なくなることを防ぐためインスリン注射による治療を行うことがあります。

7.7 インスリンは一回始めたら一生うたなければならないの?


 1型糖尿病では膵臓がインスリンを作ることができないので、生きていくためには一生インスリン注射が必要になります。

 2型糖尿病でも膵臓を酷使した結果インスリンを作る細胞が過労死して細胞数が激減してしまえば、インスリン産生量も激減してしまい、インスリン注射が必須となります。膵臓を酷使する最大の要因は高血糖の持続であり、一部の糖尿病内服薬も大きな要因となります。

 過労死になる前の、疲れてインスリンを作る力が落ちてはいるが回復可能な状態であれば、インスリン注射で膵臓を休ませることでインスリンを作る力を復活させることが可能です。

 インスリン注射開始後3ヶ月から6ヶ月でインスリンを卒業し、内服薬のみで維持し、その後内服薬も卒業して食事、運動療法のみで良好な血糖値を維持できる方もいます。これは膵臓に十分な回復力がある時点で治療を開始したことで早期離脱が可能になったのです。

 まだ薬は飲みたくない、ましてやインスリンなんて絶対うちたくないなどといって治療開始が遅れてしまうと、膵臓の回復力がどんどん落ちていき治療が困難になります。
あと1年早く来てくれれば何とかなったのにと思う患者さんがたくさんいらっしゃいます。

 インスリン注射が必要な場合は早期に導入し、早期に離脱できるようにすることがとても大切なことなのです。

7.8 インクレチン関連薬とは?


 食事を摂った際に小腸から分泌され、膵臓にインスリン分泌を促すインクレチンというホルモンの作用を増強させたり、ホルモンそのものを補充する薬です。
 DPP4阻害薬がその代表で、インクレチンを分解するDPP4という酵素を阻害することでインクレチンの作用を増強します。
この薬の面白い所は、人種による効果に差があることで、白人等欧米人には効果が弱く、日本人などアジア人には良く効くのです。日本では、副作用が少なく良く効く薬として非常に良く使われています。商品名ではジャヌビア、エクア、テネリア、オングリザ、トラゼンタなどがあり、多数のメーカーから多くの薬が販売されています。

 また、インクレチンにはGLP-1とGIPの2種類があります。このGLP-1と同じ働きをするように作られたのがGLP-1製剤です。
GLP-1製剤の多くは注射薬で、以前は毎日注射する必要がありましたが、現在は週に1回注射するタイプのものが主流となってきています。
週一回注射のGLP-1製剤にはトルリシティとオゼンピックがあります。

 トルリシティは注入器に大きな特徴があり、注射器と針が一体となっており、キャップを外して、注入器を皮膚に押し付けるだけで自動的に針が中から出てきて、一瞬にして薬液が注入されるようになっています。注入器は1回ごとの使い捨てですが、操作が簡便で注入量の調節の必要もないため患者さんの評判も良いようです。

 オゼンピックも以前はトルリシティと同様の針と注射器が一体となった使いやすい注入器があったのですが、工場の生産上のトラブルがあり現在はインスリンの注射器と同様の物が使われています。このため、一回ごとに針のみを交換し、注入量も毎回設定する必要があります。
 オゼンピックには設定量が3種類あり病状に応じて使い分けることができるのが大きな利点です。
特に最大量ではかなり強い効果が期待でき、今までインスリンを含め様々な薬を使ってもなかなか血糖コントロールがうまくいかなかった2型糖尿病の患者さんに対しても良い結果が得られることが多いです。

 しかし、誰にでも適しているというわけではなく、体質的に合わないと吐き気、胃もたれ、食欲不振、下痢、便秘など強い副作用がでて続けることができない場合がまれにあります。
この副作用は程度の差はありますが、GLP-1製剤全体に共通して見られるものです。通常は、バランスのよい食事を適度な量食べることでほとんど問題は起こりません。

 あの薬を使っていると、ちょっと食べ過ぎると食後に胃もたれがして、「あー食べ過ぎなければよかった」と後悔するとおっしゃる患者さんがたくさんいらっしゃいます。このような時、食べ過ぎると薬に怒られると思ってくださいと説明しています。
薬に怒られない程度の食事量が適正量であることが多いようです。

7.9 人種による糖尿病の違い


 白人は「鉄の膵臓」を持つと言われ、インスリン分泌は極めて旺盛であり、どんなに大量のインスリンを分泌しても疲れて量が減ることはありません。彼らが2型糖尿病になるのはあまりにも肥満してしまったために強烈なインスリン抵抗性を示し、大量のインスリンを作っても流石に足らなくなってしまうからです。決してインスリンを作れなくなったためではありません。ここが日本人と大きく違う点です。彼らは単純に痩せれば糖尿病が改善します。しかし、それが極めて困難であることは日本人も同じでしょう。

 日本で最もよく使われている糖尿病薬はDPP4阻害薬と呼ばれる薬です。インクレチンというホルモンを介してインスリン分泌を促すもので日本人には極めて効果的です。しかし、白人の間では効果が弱い薬として人気がありません。白人の治療ではインスリン抵抗性を改善させるメトホルミンがいかなる場合でも第一選択とされています。




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