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以下は,北海道教育大学勤務時における取り組みです。

附属小学校と大学の連携によるアシスタント・ティーチャー・プロジェクト
(平成17年度 北海道教育大学 学長裁量経費・共同研究推進経費受諾研究)

1.概要
 本プロジェクトでは,造形教育専攻(造形教育ゼミ)の学生および大学教員が,附属小学校の図画工作科の授業にアシスタント・ティーチャーとしてその設計,および授業実践に参画する。特に,附属小学校の図画工作科カリキュラムにおいて,児童の発想の広がりが予想され,自律的な問題解決過程が要求されるであろう単元をその対象とする。授業実践の事前・事後においては,授業改善に寄与するため,そして参加する者の実践力を高めるために事例交流研究会を実施する。
 なお本プロジェクトは,附属旭川小学校の学校教育研究と連動しており,同校の本年度の教育研究大会において授業を公開し,その成果と課題を検討する。
 以下にその概要を図1図2によって補足解説する。

  図1 個に応じた学習指導の限界と本プロジェクトによる改善・発展

  

 単独の指導者では,「個に応じた学習指導」の実現には限界がある。そこで附属学校という特色を生かし,ATを導入することによって改善を図り,さらに学習指導における個別具体的な事例研究を行い,指導者および参加する学生の実践力の向上を図る。

  図2 本プロジェクトの背後にある原理
  

 「個に応じた学習指導」は,個々の子どもの発想や技能の高まりを期待するものである。それが実現されるとき,学習における条件設定は少なくてよいこととなる。すなわち,自由度の高い学習活動が用意されることとなる。(左図)しかしながらそれは同時に,求められる教師の対処能力が高くなければならないことも意味している。(右図)本プロジェクトでは,以上の原理をふまえてATを導入するものである。

2.意義・特色
@ 個に応じた学習指導の必要性と図画工作科の授業の実態から
 これからの学校教育においては,個に応じた学習指導の展開を通して,子どもたち一人ひとりの個性を生かし,学び方や問題解決能力を育成することが大切であるとされて久しい。そしてその実現の方策として,「習熟度別学習指導」や「T.T.(ティーム・ティーチング)」などが実践されている。
 図画工作科の授業では,子ども一人ひとりが自分なりの発想をもとに,自己表現を創出していくことが尊重される。そこでは「個に応じた学習指導」は特別なことではなく,むしろ授業が成立するための根本原理である。しかしながら実際には,「教師が構想した通りの表現指導」「子どもがやりたいようにさせておく放任指導」といった状況が少なからず見受けられる。その要因は,単独の授業者では多様に拡散していく個々の子どもの発想を把握し,それを指導に還元していくことの困難にある。
本プロジェクトではアシスタント・ティーチャーの導入によってそのことを改善し,さらに,学習指導における個別具体的な事例研究によって,図画工作科の授業における指導のあり方を探究する。
A附属学校の特色を生かすという視点から
 本プロジェクトは,附属学校としての特色を生かす取り組みである。「特色ある教育活動の推進」は,昨今学校教育現場に要請されてきていることである。周知の通り,地域の人材活用もそのうちの一つである。附属学校の場合,大学教員や学生が必然的にその対象となり得るのである。本プロジェクトでは,教科学習において,そのような特色を生かすことの有意性を提言する。
B附属学校と大学の連携の視点から
 附属学校と大学の連携は,いわば宿命的な課題である。本プロジェクトは,その課題に具体的・実践的に提言するものである。ここで注目すべきことは,この連携が,どちらか一方のニーズから生じたものではなく,双方の意見交流の中から生まれてきた必然的なものである点である。
C教員養成プログラム開発の視点から
 本実践では,アシスタント・ティーチャーとなる学生は,“本物の”授業づくりに参画することになる。そこには一つの授業をめぐって指導者(メイン・ティーチャーである泉)とのディスカッションが位置付くことになる。そこでは学生に協働の指導者としての立場が要求される。昨今では,JT(on the Job Training)が重視されていることからもわかるように,教職における実践知,実践的問題解決能力が注目されている。これらの力量は,上記のような指導者としての主体的なディスカッションをとおして育まれるのではないかと考える。
D問題解決過程としての造形活動に対する事例研究の視点から
 初等中等教育における造形活動は,「授業研究」として集団の枠組みから,その学習過程が分析されることがほとんどである。そこでは,個々の子どもが,どのような問題解決過程を経て自己表現を実現していくのかについては問題にされにくい。そのために「アイデアが浮かばない子にはどう対処すべきか?」といった,造形学習指導の基本ともいえる個別具体的な指導法に関して,明瞭な提言がされてこなかった現状が存在している。
 本プロジェクトでは,「アシスタント・ティーチャー」という個別具体的な事例研究による分析・検証を通して,造形活動における発想や技能に対する学習指導法の普遍的実践原理の発見を目指すことができる。


3.学生に配布した『造形ファシリテーター研究会手引き』より冒頭部分の抜粋
(1) 造形ファシリテーター研究会の目的
 「『ゾウケイファシリテーターケンキュウカイ』って言ったって,そんなつもりで来てないんだけど…。」と思ったのではないでしょうか?まあ,このような命名をしたのには深い訳があるのですが,別に難しく考える必要はありません。要は,教育実践活動に参加し,子どもと接することを通じて,子どもから学び,そしてメンバーどうしで学びあおうとする人たちの研究会なのです。
だけどここで大切なのは,「子どもから学ぶ」,「メンバー(教員を含めて)どうしで学びあう」ということです。だから,あえて,『ファシリテーター』という聞き慣れないコトバを使っているのです。・・・(以下略)・・・

本プロジェクトについては,他にも各種の資料があります。実践者と研究者の連携に関して興味のある方は,大泉までご連絡ください。

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