耳鳴りについて

耳鳴りとは



 
耳鳴りとは周囲の音と無関係に頭の中で音が聞こえると自覚するものです。それがどんなものであれ、実際には無い音を耳で、あるいは頭の中で音として感じればそれは耳鳴りなのです。
耳鳴りの問題点はこの頭(耳)の中でなっているというところにあるのです。そのためこの音から逃げられないとい感じてしまいます。
耳鳴りは最近の現象ではありません。おそらく人類の誕生とともに耳鳴りを感じてきたようです。
 
耳鳴りの頻度

人口の10パーセントから20パーセントの人が耳鳴りを感じているといわれています。特に65歳以上の人においては30パーセント近くの人において耳鳴りの経験があるとの報告もあります。耳鳴りのある全員が苦しみ、悩んでいるわけではもちろんありません。けれどもおよそ人口の5パーセントの人が持続的な耳鳴りを苦痛に感じているといわれています。
また、おおよそ90パーセント以上の人において検査で難聴が確認されます。しかし一般に耳鼻咽喉科などでする検査よりももっと高い周波数を調べたり、より検査を精密にすれば難聴があるパーセントはさらにもっと増えるものと考えられています。
 
音を判断するのは脳

私たちが話をしているとき実はまわりではいろんな音がしているはずです。たとえば他の人の話し声、自動車の音、音楽、風の音・・。しかし私たちは意識しない限りそれらの音に気づきません。それは、我々の脳には雑音の中から必要な音だけを選びだし、不必要な音は無視する機能があるからなのです。
さらに脳は選び出された音に意味付けをします。音を何度も聞き、さらにそれにともなう意味づけが何度も脳になされることによって脳の中に、ある種の音の辞書(データベース)のようなものが出来上がります。
たとえば地方の言葉(方言)や外国語を聞くときのことを考えてみましょう。はじめて聞くときは何を言っているのか、まったく判りません。知っているはずの言葉や単語ですらもききとれません。けれども慣れてくるにしたがってそれがどんな言葉なのか聞き取れるようになってきます。更に慣れてくれば少し位聞き取れなくてもその部分を補って何を言っているのか判るようになってきます。ですから最終的には脳が音を聞き取り感じているのです。
 
耳鳴りの分類
 
1)自覚的(主観的)耳鳴り
本人にしか聞こえない耳鳴りです。殆どの場合はこちらの耳鳴りです。耳鳴りの音は「セミ(蝉)」が鳴いているようと表現されることが多いのですが、それ以外にもさまざまな耳鳴りがあります。また同時にいくつもの音が聞こえている場合も少なくありません。
原因や障害部位ももさまざまですが、大半の耳鳴りは内耳や聴神経などの脳に入る前の比較的末梢でなっていると考えられています。
 
2)他覚的耳鳴り(実際に体から音が出ている場合)
他の人も(たとえば聴診器を耳のそばに当てることなどで)聞くことのできる耳鳴りです。耳鳴りの音はザーザー・ドクドクといった脈に一致した拍動(はくどう)音のことが多く、原因としては血管をとおる血液の音のことが大半です。外科的な治療が必要なことがあり、またそれにより治ることがあります。
それ以外にも顎の関節からの音が聞こえる場合や、耳の中、特に中耳の筋肉が痙攣することで音が聞こえることがあります。
 
3)無難聴性耳鳴
難聴が無いのに耳鳴りが聞こえるものです。耳鳴りの数パーセントから20パーセントの人では耳鳴りがあるのに聴力検査をしても難聴がないと報告されています。しかし、普通の聴力検査ではなく、もっと高い周波数まで検査をしたり、もっと細かく周波数ごとの検査をすると難聴が見つかる可能性も指摘されています。
 
4)難聴性耳鳴
難聴を伴う耳なりです。
 
 
耳鳴りを起こす代表的な病気
 
  耳鳴りは聞こえの経路のどこに障害があっても出現する可能性があります。耳鳴りのほとんどの人においては(90パーセント以上)難聴が認められます。しかし難聴の人全員に耳鳴りがあるわけではありません。また聴力の正常な人においても耳鳴りが聞こえる事があります。
 ここでは耳鳴りを起こす代表的な病気を列記しました。
@加齢による難聴(老人性難聴)
Aメニエール病
B耳硬化症
C聴神経腫瘍(聴神経鞘腫)
D突発性難聴
E音による難聴
F交通事故
G急性低音障害型感音難聴(低音型突発難聴)
H薬物性耳鳴
I血管性耳鳴
J顎関節症
K筋肉の痙攣による耳鳴り
L遺伝性難聴
M外リンパ瘻
N飛行機に乗ったり、高い山に登った時の耳鳴り
 

耳鳴りの治療
 
耳鳴りにはいろんな治療方があります。逆にいえばそれだけ決定的な治療法がないということも言えるわけです。
 
1) 薬
  a:内服薬(含む漢方薬)
  b:注射
  c:鼓室内注入
2) 心理療法
  自律神経訓練法
  a:バイオフィードバック法
  b:リラックス法
3) 音を利用した治療
  a:マスカー療法
  b:TRT療法
  c:補聴器
4) 人工内耳
5) 電気刺激法
6) 理学療法など
  a:鍼、灸、マッサージ
  b:レーザー、電磁波、低周波など
  c;通気療法
7) 民間療法
  a:催眠療法
  b:健康(?)食品
 
 これらのうち、2)心理療法と 3)音を利用した治療について述べます。
 
心理療法について
 
1)自律神経訓練法
自律神経が耳鳴りとかかわっていることは明らかです。例えばイライラしたり、ストレスが多いときには耳鳴りを強く感じます。楽しいことをしている時やほかの事に集中しているときには耳鳴りは殆ど気になりません。
自律神経とは体温、血圧、汗、脈拍、呼吸などのように自分では意識しないでも体のさまざまな調節をしている神経のことです。交感神経と副交感神経に分けられ、両者のバランスで体のさまざまな調節をしているのですが、前者が活動時、後者が休憩時に優位になります。
自律神経を訓練する方法としては坐禅やヨガなどもその方法ですが、時間と修練が必要なことからより、確実でより短時間(といってもそんなに簡単ではありませんが)に訓練ができる以下のような方法が取り入れられています。
 
a:バイオフィードバック法
これはさまざまな機械を使って自律神経を訓練していく方法です。例えば脳波や筋電図、脈拍、発汗量、呼吸などの体の状態を機械を使ってみることで自分の自律神経の状態を認識し、さらにモニターを見ながら自分で自律神経を調節していくことができるようにするものです。
 
b:リラックス法
機械を使わないでも以下のような方法で自律神経を調整することができます。
ただし、過度に自律神経を調節することは時に危険なこともあります。医師、心理療法士のもとでトレーニングを行ったほうが安全かも知れません。
第1段階・両手両足が重たい
第2段階・両手両足が温かい
第3段階・心臓が静かに規則正しくうっている
第4段階・ゆっくり規則正しく呼吸をしている
第5段階・おなかが温かい
第6段階・額が涼しい
以上を10分から15分ぐらいかけて練習します。
心臓に疾患のある人は第3段階は省きます。
 
その他、音楽、香(こう)を利用するときもあります。
最近いろいろな種類のリラキセーション・グッズが売られています。例えば音楽や波の音、あるいはハーブや香、などです。これらを利用するのもよいかと思います。
 
2)心理カウンセリング
医師、あるいは心理カウンセラーによって行われます。耳鳴りの背景となる精神的なストレスを減らすことと耳鳴りに対する不安をなくすことで耳鳴りの苦痛を減らしていくものです。
 
音を利用した治療法

1)マスキング(マスカー)療法
これはマスカーという雑音の出る器械を使って耳鳴りを抑えるというものです。
原理
全てのひとで起こるわけではありませんが、大半のひとにおいては耳鳴りは大きな音を聞くと消えてしまうという現象があります(マスキング現象)。さらに再び静かになってもしばらく耳鳴りがおさまっていることがあります(耳鳴の後抑制)。これらの現象を利用して、耳鳴りの治療を行うものです。一般的にはマスキング現象を利用します。耳鳴りの音より器械からの雑音のほうが快適な音であることが多いことより耳鳴りが気になりだしたら器械からの雑音を聞くことで耳鳴りをコントロールするものです。
一部には後抑制を利用して耳鳴りをコントロールできる人もいます。マスカーで音を聞いたあとしばらく耳鳴りがやんでいるのです。ただし、その期間は人さまざまで、一般的には数分間以内のことが多いのですが中には数時間から数日耳鳴りが起きない人もいます。
 
成績は施設によって違いますが、外国の報告では約4割から6割の人において耳鳴りの苦痛がが軽減されるとの報告がなされています。ただしこの成績は医療機関できちんと検査をして、マスカーを使用した場合の成績です。
 
2)TRT(療法)
 
1980年代後半に米国のJastreboffPJという人が唱えた耳鳴りのモデルにもとづいた治療法です。
1990年代より治療が始められ、ここ数年欧米で急速に普及しています。
 
特徴は耳鳴りを消失させてしまうというものではなく、耳鳴りを意識しないようにさせる(順応)という点です。
 
私たちの周りにはいろいろな音があります。では、その全ての音を聞いているのでしょうか?注意してみてください。あなたの周りではどんな音がしているでしょうか?もちろんパソコンからも音がでいるはずです。冷蔵庫やエアコンの音も聞こえるかもしれません。さらに何か音楽がかかっているかもしれませんね?時計の音はどうですか?。家の外からは車の音が聞こえるかもしれません。隣の家でピアノは弾いていませんか?雨や風の音はどうですか?
いろいろな音があっても意識している音の数は多くはありません。注意をすれば音があることに気づきますがそうでなければほとんどの音は私たちの意識には上ってきません。
ではどんな音が私たちの意識まで到達するのでしょうか?
 
答えは、次の通りです。
 
どんな音が聞こえているのかというと、音楽などの楽しいこと、会話などの必要なこと、そして危険や異常を知らせる音なのです。 つまり、耳鳴りの音を必要でない、危険や異常を知らせる音ではないと脳に分からせる事が出来れば意識には上らないということになるのです。
 
TRT(療法)の実際
TRTはカウンセリングと音治療とからなっています。
 
1)カウンセリング療法
TRT(療法)では一般的なカウンセリングではなく、むしろ教育的な方法がとられます。ここでは耳鳴りのメカニズムを知ることで不要な不安を取り除き耳鳴りに対処できることを学びます。つまり敵(耳鳴り)を知りおのれ(対処方法)を知ることで戦に勝とうとするものです。
 
2)音治療
TRTでは患者を難聴や聴覚過敏の有無により5つのタイプにわけそれぞれに適した治療法を行います。音治療はTRTの主要素ですがその手段として、@単に静寂を避けるAノイズジェネレータージェネレーターという雑音の出る特殊な器械を使用する。B補聴器を使用するの3つの方法のどれかをタイプによって選択します。
 
TRTを始めてもすぐにはよくなりません。けれども効果は1ヶ月から3ヶ月ぐらいから出始め、1年から2年ほどで十分な順応が得られるとされています。その間耳鳴りはよくなったり、悪くなったりしながら改善していきます。
 
3)聴覚過敏について
聴覚過敏というのは他の人にとっては気にならない大きさの音がとても不快に感じられるるという現象です。
 
アパートの隣の部屋からギーギーとなにか物騒な物音が聞こえてきます。殺人事件かもしれません。そう思うととても怖くてその音が気になって仕方ありません。夜も寝れないくらいです。今夜もあの音がするかと思うとたまりません。
 
でもその音が隣に子供がいてその娘がバイオリンの練習をしている音だとわかりました。するとあんなに気になっていた音もほとんど気にならなくなりました。これは最初脳が危険と感じていたものが心配ないとわかった結果音が意識に上ってこなくなったからです。
 
聴覚過敏で気になる音も様々でテレビの音や子供の声、掃除機や電話の音、職場での隣の人の声まで様々で特定の音に特に強く過敏になる場合とどんな音にでも過敏になってしまう場合とあります。
 
そして、この聴覚過敏という現症は耳鳴りと同じメカニズムであるという説を唱える学者もいます。つまり聴覚過敏は外の音に対して過敏になっているのに対して耳鳴りは自分の中から発生した音に対して過敏になってしまっているというのです。
 
聴覚過敏に対してもこのTRT(療法)がおこなわれます。ただし、耳鳴りに比べてより時間をかけ少しずつノイズジェネレーター(雑音発生器)の使用時間、音の大きさを調節していく必要があります。

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