2010南アフリカワールドカップのまとめ(3)

<スペインについて>
元々、スペインサッカーの理想に近い形を体現していたのはバルサである。今回のスペイン代表のスタメンには、バルサのスタメンが6名いる。CBと中盤の6名をバルサの選手が占めているのであるから、本大会のスペイン代表の心臓部はバルサそのものである。バルサでは彼らの周りを、ブラジル人の2人のサイドバックと、イブラ、メッシの2トップが固める。(うーん、なんと豪華な布陣なのだろうか)今大会のスペイン代表はビジャの1トップである。確かにバルサの2トップと比べると打開力、破壊力では劣ると言わざるを得ないが、パスをつないで攻撃するスペイン(バルサ)のサッカースタイルとのマッチングという点では、むしろビジャの方が上で、それはユーロで優勝したことでも実証済み。ビジャに足りない部分を、フェルナンドトーレスとの組み合わせで補うということも考えられるが、トーレスのプレーはバルサのサッカーとはマッチングが良いとは言えない。今大会のスペインはビジャの1トップがはまっていたと思う。

さて、スペインサッカーは攻撃的と言われるが、何を持って攻撃的と言われるのか?昔のアフリカや中東のチーム、あるいはイングランドは、どんどん縦にロングボールを入れて来て、直線的にゴールを狙った。そのようなサッカーも攻撃的と言われるが、スペインの攻撃的サッカーは、それとは全く異なる。そもそも、今大会、スペインは多くの得点を挙げていない。(歴代優勝チームの中で最小得点)一方、守備に関しては、センターバックの2枚(プジョル、ピケ)の守備力がとても高いとは言えないのに失点が少なかった。スペインは本当に攻撃的だったのだろうか?
ショートパスを中心に、ポゼッションを重視するサッカーは、攻撃的かどうか?と言うよりも、彼らに合ったサッカースタイルなのである。2枚のセンターバックは特別フィジカルに優れているようには思えず、スピードに関してはむしろ弱点を抱えていると思う。スペインにとって最も恐ろしいのは、裏のスペースにボールを入れられて、相手の高速FWとセンターバック(特にプジョル)がかけっこになることだ。かといって、裏のスペースを消すために、むたみにDFラインを下げるとバイタルエリアを使われ放題になる。ボールを取られた後、相手FWが動き出すタイミングに合わせて、いいボールをDFラインの裏に入れさせないためには、


@なるべくポゼッション率を上げて相手にボールを渡さない
A悪い形でボールを失わない
Bボールを失ったら相手に素早くプレスをかける


ポゼッションが高いチームでよくある失点パターンは、
「横パスをカットされ、そのままフリーで運ばれ、いい動き出しのFWに一気にロングボールを入れられ、DFが競り負けてGKと1対1を作られる」というもの。ショートパスを中心に、むやみに大きな展開を使わずに攻撃を構築すれば、ボールを失われた時にボールの近くには味方が多くいる。何よりも奪われた選手自身がボールのそばにいるはずだ。取られた瞬間に攻守をすばやく切り替えてプレスをかければBを実現できる。ショートパスでポゼッションを高めて攻撃を組み立てるスタイルは、攻撃している間は相手に攻撃されない(攻撃は最大の防御なり)という意味合いだけではなく、攻守の切り替えを早くして素早くプレスをかけることで、いいボールをいいタイミングでDFの裏に入れられて、DFと相手FWがかけっこにっなることを防いでいる効果がある。
さて、パスをつなぐサッカーで最も怖いのは、Aにあるように横パスをカットされることである。特に、真横に出したパスをカットされると、パスの出し手と受け手の2枚が一気に置き去りにされる。斜め前のパスであればカットされてもパスの出し手が自陣側にいるので守備に入れる(可能性がある)し、斜め後ろのパスであればパスの受け手が自陣側にいるので守備に入れる(可能性がある)。このあたりについて、スペインやバルサのパスのつなぎ方を(時間があれば)細かくチェックしてみたいところ。真横のパスが少ないのではないか?
また、スペインの攻撃を見て気づくのは、スペースに出すパスが極端に少ない。足下に速いパスをつないでいる。これは明らかに、相手と駆けっこしたり、体の当て合いになるのを回避しているのだと思う。日本ではスペースに出すパスが良いパスと言われているが、日本がフィジカルで勝る海外の選手と戦うときに、必ずしもそれが正解ではないということを示している。

<日本の目指す方向性はスペインのサッカーか?>
「日本人はスペイン人と同じような体格で技術もあるのだから、スペインのサッカーがお手本になる」と言われる。しかし、はたして本当に日本人は技術があるのだろうか?奪われないボールの持ち方、トラップのボールの置き方とその精度、パスの精度、動き出しのタイミングの合わせ方、、、、、、、、 狭いエリアでも、ボールを奪われずに、かつ的確な判断をして相手の守備のほころびを作り出しながら、そのほころびを狙って攻める技術が今の日本人選手にあるのだろうか?ワイドに攻めること、スペースにボールを流し込むことは攻めのバリエーションとして必要だが、そこばかりをフォーカスしてサッカーを指導すると、スペインのようなサッカーには行き着けないと思う。
本当に、スペインのサッカーと「日本人らしいサッカー」は方向性が同じなのか?もしそうなのだとするなら、サッカー文化や指導方法を変えなければいけないのではないか?
現在の日本のサッカー界からは、そのあたりの「意思」「方向性」が見えないのが残念だ。「スペイン代表、ワールドカップ優勝」をきっかけに、真面目に考えるべきだと思う。自分たちで目指すサッカーの方向性を具体的に決めて、そちらに向かって進むことを考えないと、いつまでたっても日本人らしいサッカーには行き着けない。プロリーグを作って長いこと続けていたら、自然と日本人らしいサッカーが身につくと思ったら大間違いだと思う。目指すサッカーを明確にし、そのサッカーを目指すためのマイルストーンをきちんと決め、それに基づいて指導方法・方針、代表監督などを決めていくべきだと思う。
個人的には、ポゼッションを重視して、パスとドリブルで中央突破を目指すサッカーを指向することを決め、次回のワールドカップ予選開始までの2年間、まずはきちんと日本らしい攻撃を構築できる監督を任せたい。(結果は気にしない)

さて、4年後のワールドカップに日本は出場できているのだろうか?出場したとするならば、本場ブラジルで、どのようなサッカーを見せてくれるのであろうか?この4年間での日本サッカーの進化に期待したい。

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