2010南アフリカワールドカップのまとめ(2)

<ブラジルについて>
ドイツWCのまとめで予想したとおり、ドウンガに率いられたブラジルは、きちんとした守備を行うチームだった。しかし残念ながら、私が期待した、「組織的守備とファンタジー溢れる攻撃を兼ね備えたチーム」ではなかった。ブラジルサッカーはここ20年の間に、少しずつフィジカル重視のサッカーに変貌しているように感じる。我々(私?)がイメージしている「南米スタイル」のサッカーは、今のブラジルのサッカーではなく、むしろ、(調子がいい時の)アルゼンチンのサッカーに近いのではないだろうか?
ただし一つ言えることは、ファンタジーに溢れたサッカーを見せてくれたかは??だが、ブラジルは攻守のバランスが取れた良いチームだったことは間違いなく、オランダに破れ8強で敗退してしまったことは残念だった。

<組織的な守備を崩せなかった>
近年、「自陣に早く引いてリトリートする」守備と「前線/中盤のなるべく高い位置でボールを奪いに行く」という守備を、バランスよく使いこなすのが当たり前になっている。どちらの意識が強いかでそのチームの守備の色は変わるが、昔は組織的に守備ができないと言われていたアフリカのチームですら、組織的に守ることが当たり前になっている。(ただし、アフリカの国々は、90分間集中力を切らさずにやり切ることはできていない)守備の組織化がどのチームでも当然となった傾向はドイツ大会から顕著であり(ドイツ大会のまとめ参照)、攻撃の進化が守備の進化に追いついていないと感じる。オランダ人やブラジル人などは、相手チームがきちんと守備をして点数が取れないと、「あの国のサッカーは守備的でつまらない。何より美しくない」などとけなすが、それはお門違いだと思う。ノーガードで打ち合うのは派手で楽しいが、それがサッカーの本質ではないし、守らずに攻めるのが美しいサッカーとは言えない。

守備の組織化が当たり前となった昨今、きちんと守られても、その守備を崩して得点を上げられるのは、バルセロナをはじめとする一部のビッククラブチームだけになってしまった。クラブチームは、年中同じメンバーで練習ができ、コンビネーションを高められる。また、お金を使ってメンバーをかき集めることができるので、ビッククラブの方が、選手の素材という面でも、スペイン代表、アルゼンチン代表などより上であろう。つまり、攻撃的で楽しいサッカーを見たいのであれば、クラブチームのサッカーの方がふさわしく、実際にヨーロッパではWCよりチャンピオンズリーグの方が、人気がある。才能と連携が必要となる攻撃は非常に難しく、世界のトップクラスのナショナルチームですら、守備のレベルアップに追いついていない現状がある。このままでは、ワールドカップは守備が強調される大会になってしまう可能性が高い。そうなるとやはり、ワールドカップの場では、連携を要しない、個の力で局面を打開するドリブルに期待したくなってしまう。(当然、チャンピオンズリーグでは、ドリブルを使った個人による打開とパスを使ったコンビネーションの打開の両方が見られるので、やっぱりチャンピオンズリーグの方が楽しいことになってしまうが・・・・)

<ドリブラーは活躍できたか?>
前回のWCのまとめで、私は組織的守備を崩す切り札はドリブルであり、相手を翻弄するドリブラーの出現を期待していると述べた。本大会、メッシ、クリスチャーノロナウド、ロッペンなどのドリブラーの活躍が期待されたが、一般的には期待はずれだったという評価のようだ。しかし私はそうは考えていない。ロッペンとメッシは一人で局面を打開するシーンをたくさん見せてくれた。特にメッシはまさに天才的だ。私の見解では、ドリブルに関してはすでにマラドーナを完全に抜いている。標高やボールの問題がなければ、4、5点は得点を挙げていたと考えている。
メッシ、ロッペンに共通するところは、「またぎ」などの派手な(無駄な)動作がなく、小さいボディフェイントと、緩急の変化、ちょっとした方向の変化とタイミングのずらしに、瞬間的なスピードを加味しているところ。一見すると、なんであんなに簡単に抜けるんだろうと思えるが、彼らのドリブルには、至る所に工夫、技術がちりばめられている。特にメッシは私の好みのドリブラーで、見ていて本当に楽しい。しかし、アルゼンチンはメッシがドリブルを始めると周りが止まってしまい、チームとして彼を生かすことができていなかったのが残念。ドリブラーとしてはメッシには少し劣るかもしれないが、ロッペンのドリブルをチームとして生かしていたオランダは見事に準優勝に輝いていることからも、やはり個人のドリブルだけでチームの成績を上げるのは難しいということなのだろうか。

ペナルティエリアの周辺のドリブルに関しては1つの新しいトレンドを感じる。昔はドリブルで仕掛けて突破というと、縦に抜けるプレーが良いプレーと考えられていたが、メッシにしてもロッペンにしても、ペナルティエリアのラインに沿って中にドリブルしてミドルシュートを狙うことが多い。一世代前の選手になるが、イタリアのデルピエロは左サイドから中に切れ込んでシュートを打つのが得意だった。ペナルティエリアの左角から、右足のインフロントで弧を描くシュートは美しく、デルピエルゾーンと呼ばれていた。個人的には、縦に抜くよりも中に持ち込んだ方が合理的だと思うので、(シュートも打てるし、横パスのラストパスも出せる)大蔵のみんなにもトライして欲しいと思う。

さて、ドリブルについてもう1つ。ドリブルというとどうしても、「仕掛けて、抜いて、自分でシュート」ということを考えてしまいがちだが、、ドリブルは相手を抜くためだけのものではない。きちんとボールをキープしたり、良い位置にボールを運ぶことで、相手の守備をずらしてパスコースを作ることができる。シャビやイニエスタなどはその典型であろう。(当然、彼らも仕掛けるチャンスがあれば仕掛けている)ボールをきちんとキープできる中盤の選手がいることで、狭い中央でも落ち着いてパスをつなげるし(サイドに逃げなくていい)、彼らが持つことで、味方が動き出す時間とパスコースを作ることができる。なるべく高い位置で奪って、なるべく早く攻めることができればそれがベストだが、(何度も言うが)守備の組織化が進んだ現在のサッカーでは、昔ほど簡単にカウンターは決められない。相手にきちんとリトリートされる状況が多いことを忘れてはいけない。そうなるとつなぎながら相手の守備の綻びを作り出す攻撃が必要になる。カウンターしかできないチームがbest4をねらうことは難しい。

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