2010南アフリカワールドカップのまとめ(1)
しばらくコーチの部屋の部屋を更新していないなぁと思っていたが、なんと2編前が前回のWCの総括(4年前)になっている。こんだけ更新していないのに、どうしたものかとも考えたが、やはり今回もワールドカップには触れておきたい。。
<日本、大活躍?>
前回のWCのジーコジャパンは日本サッカー史上最高の「黄金の中盤」を抱え、国民の期待を一心に受けながら、予選で3連敗という結果に終わった。すでに前回のWCの総括に記したように、守備がきちんとできないチームは勝てない。(ジーコジャパンは、守備がきちんとできていなかった)なぜならば、相手ボールを奪わないと攻撃ができないからだ。そういう意味では、当初、岡田ジャパンも守備の体制が不十分だった。高い位置でプレスをかけてボールを奪いに行くのは結構だが、プレスがかからなくなった時、特に試合開始直後や後半の残り20分を切ったあたりから、その弱点が露呈する。つまり、1試合を通して、きちんと守れていなかった。前回のワールドカップ予選の間、ジーコを解任すべきと言い続けたのと同じ理由で、(ジーコよりはまだましだったが)岡田監督を解任すべきと考えていた。「日本人らしいサッカーをして、(ベスト4になって)世界をあっと言わせる」という「志」についてはagreeであるが、「日本らしいサッカーの守備が、ただひたすら前でプレスをかけ続ける」という点にagreeできなかった。そのサッカーではとても体力が持たないし、守備の労が大きすぎて攻撃にパワーを割くことができない。
ドイツWCの総括で明言したが、よほどDF陣が強固でない限り、アンカーマンがいた方が守備は安定する。オシムはアンカー的選手をたびたび起用したが、岡田監督は起用するのを好まないようだ。特に日本の場合、内田のように守れないDFがいたり、トウーリオのようにあがりっぱなしで戻ってこないCBがいるため、気の利いたアンカーマンの配置は必須であると私は考えていた。よって今回のワールドカップも惨敗するであろうと予想していた。
ところが、本番前の韓国戦であまりに悪い結果が出て、岡田監督も一考せざるを得なくなる。守備の悪い内田をはずして、(体調不良が理由のようだが)一見同じようなタイプに見えるが、きちんと守備から入れる長友をレギュラーに固定した。そしてアンカーマンとして阿部を起用したのである。阿部は、プレスがかかった時のこぼれ玉の拾い、リトリートして守ったときのバイタルエリアのスペースの押さえ、カウンターを受けそうになったときのパスコースのカット、パワープレーでロングボール攻撃を受けたときのセカンドボールの対応など、あらゆる場面で守備に効いていた。守備の布陣を変えることで、守備における役割が明確になり、チーム全体として、守備のチューニングもうまく行くようになった。ワールドカップの4試合、守備に関しては本当に良いデキだったと思う。
そしてキープ力のある本田をトップに起用したのが良かった。(もっと早くそうすべきだった)私のイメージでは、本田は中盤の選手ではなく、FWのイメージ。何よりも旬の選手であったことが大きい。短期決戦の場合、FWの選手は実績よりも旬を重視して選手を起用すべき。残念ながら、他のFWの選手は旬ではなかった。攻撃面での効果がクローズアップされた本田の起用だが、彼は攻撃面だけでなく、(むしろ攻撃面よりも)守備の面で効いたと考えている。日本のFW陣(岡崎、玉田、松井、大久保)は前を向いて勝負するのが持ち味なので、ボールを受けると何でもかんでも前を向きたがる。つまりボールを奪われるリスクが大きい。相手ゴール前であれば前を向いて勝負も構わないが、押し込まれたときには、後ろの選手としてはボールを収めて欲しい。そうしないと、押し上げられないし、なによりも、押し込まれっ放しになりやすい。その点、本田はきちんとキープすべきところはキープしようとするし、体幹がしっかりしていて、外国人DFのプレッシャーを受けてもボールを収められる。相手がペースアップすると押し込まれてしまい、なかなか跳ね返せずバタバタしがちな日本が、大会を通じて落ち着いて守備ができたのは、FWの本田のキープ力が守備面で効いていたと考えている。
阿部のアンカー起用、本田のFW起用、長友の起用についてはgood choiceであったと思うが、2列目(のサイド)に大久保と松井を起用したのには同意しかねる。彼らをあのポジションで使うと、サイドアタッカー的FWになり、攻撃の際に中盤の人数が足りなくなる。中盤の底が阿部+3トップの布陣では、明らかに中盤の作りが不十分になる。この布陣のおかげで中村憲剛を起用できなくなった。つまり、岡田監督は大会直前にして、中盤でつないでリズムを作る日本らしい攻撃を捨てたことになる。(俊介をはずしたことはagree。とても日本代表として試合にでるコンディションにないことは明白)ただし、守備という面では、大久保にしても松井にしても、今までに見せたことのない(予想外の)頑張りを見せてくれたので、「1次予選を突破しベスト16に入った」という結果だけを考えると、中村憲剛をはずした布陣は成功だったと言えるのかもしれないが、、、、
しかしいずれにしても、南アフリカ大会のベスト16は、日本らしい中盤を重視した日本の攻撃を放棄して得たモノであることを忘れてはならないし、それが故に手放しでは喜べない。
もう1つ攻撃に関して気になることがある。岡田ジャパンがサイド攻撃に拘ったことである。個人的にはサイド攻撃にこだわる岡田サッカーにはagreeできない。残念ながら、日本のサイドの選手のクロスの精度は、ワールドクラスという視点ではあまりに精度が低い。また中央で得点を取るべきFWも、同様にワールドクラスという視点では、高さも、強さも、クロスに合わせる技術も心許ない。結果的にサイドを崩すのは構わないが、そこからクロスを上げる攻撃を、メインの攻撃にすることが日本らしいサッカーと言えるのだろうか?トゥリオをFWに起用すれば点は取れるかもしれないが、それが日本らしいサッカーと言えるのか?私は、本田がカメルーン戦で取った得点より、スエーデン戦の3点目の方が、明らかに日本らしいと思う。今後日本は、あのような攻撃をするサッカーを指向して欲しいと思う。それにしても、Best8進出のチャンスがあったウルグアイ戦、どうせ攻撃の面では日本らしいサッカーを捨て、結果を求めたのだから、後半のラスト10分は、トゥリオをFWにすれところまでやるべきだった。(当然、私はagreeしないが)
本大会の日本について、ざっくりとまとめると、
「寸前のテストマッチでぼろぼろにやられたことが幸いし、それまでのサッカーを捨て、守備をきちんと考えた布陣を取ることで守備は安定した。しかい、あまりにサイドに拘る攻撃布陣により、日本らしい攻撃を存分に見せることができなかった。(時々垣間見えたが)ただ、選手たちは本当によく頑張った。(拍手)」
私の評価としては、「日本らしいサッカーをやって、ベスト4に入って世界を驚かすという「志」をあきらめて、今できる最高の結果を取りに行った結果のベスト16は立派。しかし、その志を期待した4年間だったが、やはり岡田監督では無理だった。」ということになる。
<日本人らしいサッカーとは?>
代表監督は今ある選手を組み合わせることしかできない。選手を育成することもできないし、自分が考えるサッカースタイルをJリーグの各チームに押しつけることも普通はできない。しかし、オシムのように代表監督側から、日本サッカー全体にメッセージを打ち出し、サッカーに対する国民(サッカー協会)の考え方を変えるような人が必要だと思う。(個人的には彼のサッカーにすべてagreeするわけではないが)オシムが提唱した、「(特例を認めずに)全員でしっかり走る」部分については岡田監督も継承し、そして今大会の結果に結びつけた。90分間プレスをかけ続けることはできないが、「プレスをかける守備とリトリートする守備のバランスを取る」という世界標準の守備を、ほぼ一試合、バランスを崩さずにやり切れるところが日本人らしい守備だと思う。(CBが所定レベル以上であれば、世界的に見ても、守備がそこそこ通用するのは今回のWCで実証済み)
オフト、トルシエ、オシムらは、日本人のサッカー文化に大きな影響を与え、ここ20年の間に、守備については1つのスタイルが確立されたと思う。しかし、残念ながら彼らも、攻撃については大した功績を残せていない。
野洲高校のセクシーフットボールが全国を制した○年、日本サッカー界が色めき立った。スペインが欧州選手権に勝ったのと同様なインパクトがあった。元々、育成世代の指導者には、ドリブルとショートパスで攻撃を構成することを指向する人も多く、野洲高校の優勝は、そのような指導者に勇気を与えたはず。しかし、それでも、野洲高校のサッカーこそが日本らしいサッカーと言うことにはならなかった。その証拠に、岡田サッカーは攻撃でリスクを負わずにサイドアタックを指向し、そのサッカーに対して大きな声で否定する声はあがらなかった。(風間さんや中西さんなどは、もっと中央を突くべきということを時々言っていたが・・・)
野洲高校のようなサッカーが日本のスタンダードになる日が来ることを私は望んでいる。確立されつつある日本らしい守備と、ショートパスとドリブルで突破する日本らしい攻撃が確立された後、CB、FWに逸材が現れたとき、日本はbest4を狙えるのではないだろうか?
コーチの部屋へ...
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