サッカークリニック2006年10月号を読んで

サッカークリニック2006年10月号には、共感する記事、参考になる記事が多かったので、記事の内容をベースに感じたことを書きます。
(青字部が記事に書いている内容です)

◆ガンバユース島田監督の話
常に意図のあるプレーを目指しているという島田監督の考え方はまったく同感です。
J下部のユースチームでの「意図のあるプレー」と大蔵のような普通の小学生の「意図のあるプレー」では、比べようもないほどレベル(質)の差があるとは思います。しかし指導する側の意識、志には変わりはないと思っています。大蔵FCの選手のレベルでは、今はうまくプレーはできないかもしれないけれど、意図を持ってプレーする意識はきちんと持って欲しいと考えます。「まだ意図をもったプレーがなかなかうまくできないから、まだそういうプレーを指導するのは時期尚早」というのは違うと思います。大人の一流選手のように、(情報収集⇔判断)⇒プレーということをきちんとやることはまだ出来ないかもしれませんが、その年代、あるいはその選手のレベルに合わせて、「意図を持ったプレー」を意識することはできると思います。

「意図をもったプレー」というと攻撃に目がいきがちですが、守備においてもアクティブに自分の方から意図を持って仕掛ける姿勢が大切だと思います。攻撃においては、「こちらがこう仕掛ければ相手をこう振り回せて崩すことが出来る・・・・」というイメージを持たせやすいですが、守備になるとどうしてもリアクティブになってしまいがちです。当然、相手に先手を取られてリアクティブにプレーせざるを得ないシチュエーションもあるでしょうが、守備においてもこちらから先手を取って、意図を持ってボールを奪いに行くことを意識したいですね。(こちらがイニシアチブを取るための、駆け引きや工夫など)1対1において「自分が相手をコントロールするんだ!」という意識を持ってプレーして欲しいと思います。そのような、個々の1対1の守備スキルをベースに、チーム全体としてどのようにイニシアチブを取って守るのか?という守備戦略を共有することが、組織的な守備で勝負せざるを得ない日本のサッカーにおいては重要だと思います。

◆高校総体決勝を戦った2チームについて
10月号の記事では、広島観音の球際の強さについて指摘をしています。広島観音では、日常のトレーニングにおいて、1対1や2対2を脈拍をあげた状態でやり、ハードな状態の中でいかに丁寧にプレーを出来るかということに、特に守備の面にポイントをおいているとのことです。先の「コーチの部屋」で、今回のワールドカップを見て、ボールを奪うことの大切さについて指摘しましたが、まさに広島観音はその部分を大切にしていて、それが高校総体優勝という大きな成果につながったようです。やはり、ボールをきちんと奪い切って完全にマイボールにすることを大切にした指導を心がけたいと再認識した次第です。特に中盤の選手にはボール奪取能力を要求していきたいと思います。
一方、初芝橋本は、DFからでもボールを回す攻撃型のチームで、後ろの選手が前の選手を積極的に追い越して攻撃します。当然、前の選手を追い越すプレーの中でボールを奪われれば守備に穴が出来る訳で、チーム全体でこの点をよく認識していて、非常に高いカバーリングの意識を持っているのだと思います。このカバーリングなしでは、リスクを背負った攻撃はできません。(前に出て行った時に穴を埋めてくれる保証がないと、後ろの選手が前に出て行くことはできない)穴の埋め方としては、追い越された選手と追い越した選手がポジションチェンジしたと単純に考えることも出来るし、穴はボランチが埋めて、そのボランチのポジションに追い越された選手が戻るというやり方もあるでしょう。いずれにしても、ポジションは流動的であるべきで、「おれはDFだから***はしない」とか「FWだから△△はしなくていい」みたいな意識では、アクティブなサッカーはできません。インターセプトをして、相手に圧力をかけた状態でDFがボールを奪ったのに、自分でボールを持ち上がらずに止まっているサイドの選手やボランチに簡単にボールを預けてしまうシーンをよく見かけます。チームとしてバランスを崩したくないという意識があるのでしょう。周りの選手も「出て行くな」という声をかけたりしていますが、それではアクティブなサッカーはできないですよね。インターセプトをして、最も相手に圧力がかかった状態を放棄して、止まっている選手にボールを預けることは私には考えられません。リスクを冒したほうが期待値が高い場合は、果敢にバランスを崩す勇気が絶対必要だと思います。DFの選手が上がったことを周りの選手が認識しそのリスクをカバーすればいいだけの話だと思うのですが、実際プレーをしている選手からすると、なかなか勇気を持てないみたいですね。チャレンジすべき場面でチャレンジできるような選手を育成することも、指導者として重要な役割だと思います。
チームとして、チャレンジを後押しできるように選手全員に意識付けするために、私はこの言葉を使います。
「One for all,all for one」
元々ラグビーでよく使われる言葉ですが、あらゆるスポーツ、もっと言うと人生に通用する言葉だと思います。

◆U−16の城福監督の話
 城福監督の話には共感を受けることが多いですね。話の中で共感を受けた部分について、感想を述べるます。
★決定力をあげるよりチャンスを沢山作ることが重要
  チームとして得点能力を高めるには、チャンスを沢山作り出すアプローチと、作ったチャンスを確実に決める、つまり決定力をあげるアプローチがあります。すでにある程度のレベルに達した選手が、練習によって決定力が上がることを期待するのは難しいと私は思います。(ユース以上の年代で、所定以上のレベルの選手の決定力が急に上がることはごく稀。ただ、中山ゴン選手みたいな例もあるので、あきらめずに努力することは重要ですが)また、決定力が高いと言われる選手というのは本当に少ないチャンスをものにしている選手なのでしょうか?私は、決定力が高い選手というと元ヴェルディの武田選手を思い出しますが、少ないチャンスをモノにしているというよりも、チャンスをかぎ分けてその場に顔を頻繁に出しているというイメージがあります。シュートがゴールインする確率が高くなくても、得点を上げていれば決定力が高いと感じてしまうと思います。なにより、決定力を上げることが重要なのではなく、得点を沢山取ることが重要なのですから。
日本は、FWの破壊力を売り物にする攻撃スタイルではないことは、誰もが理解していると思います。日本が世界に互して行くには、中盤の構成力で勝負するべきだと思います。つまり、中盤が頑張って、FWとのコンビネーションでチャンスを沢山作る努力をすることが、得点力をアップするための日本らしいアプローチだと思います。(当然、平行してFWのレベルアップもすべきですが)
ちなみに、技術が固まっていない育成年代では、キックの質の向上、落ち着いてシュートするメンタル面の向上により決定力をアップさせることは可能だと思われるので、育成年代では「決定力を上げる」ためのきちんとした取り組みが必要だと思います。

★ボールを奪うところの判断やスキルが重要
 先のコラムでも書いたとおり、ボールを奪うところの技術、戦術は非常に重要だと思います。ルーズボールに対する反応が、日本の選手は総じて遅いように感じます。抜かれてはいけない、入れ替わられてはいけないという意識が強すぎるためか、五分五分の勝負を挑まない。また、五分五分の勝負=接触プレーということになり、それを嫌うということなのかもしれません。行ってしまうとかわされる確率が明らかに高いシチュエーションでは行くべきではありませんが、五分五分であるなら勝負に行くよう、育成段階で意識をさせる必要があるように思います。また、五分五分の勝負であれば引き分けになる確率が高い、つまり、ルーズボールが発生する確率が高くなります。味方が五分五分の勝負を挑んだときには、周りの選手はalertな状態で、ルーズボールへの寄りで後手を踏んではいけません。中盤のこぼれだまに対して勝負を挑まずに、ミスミス相手のボールにしてしまっては、ポゼッションで勝ることはできません。(相当力の差がある場合は別ですが)いくら中盤の攻撃の構成力が高くても、マイボールにしなければその利点は生かせません。ルーズボールの奪い合いに負けないためには alertであること(予知能力)以外に、球際での体の使い方についてもきちんと身に付ける必要があります。球際のスキルは、日本の中盤の構成力を生かすためには重要なことで、育成年代できちんと身に付けたいところだと思います。

★ビルドアップからスピードアップするときの判断やスキルが重要
「ボールを取ったらダイレクトプレーで直線的にゴールへ」ということを強調する指導者が多い中、U−16日本代表監督が、ビルドアップのことにきちんと言及している点に好感が持てます。確かにダイレクトプレーが有効な得点手段であり、最も優先される選択肢だということは否定しませんが、前報でお話したとおり、最近はカウンター対策をきちんとやれているチームが多いので、ダイレクトプレーを選択すべき場面がどんどん減ってきていると思います。(今後ますますその傾向が強くなると予想します)サッカー評論家の相馬氏(元ヴェルディ)も、今回のワールドカップで上位のチームはカウンターに対する配慮をしたチームだったと分析しています。相手が、ボールを奪われてからの速攻に十分対処しているのに、それでも敢えて前に蹴ってしまうと、一昔前の中東のサッカーのようになってしまいます。私は、これからの時代、相手の守備陣系が整った状態から、いかに点を奪うのか?というところが大切になってくると考えています。ましてや、アジアの中で日本は完全に一目おかれる存在になっており、日本がアジアの国相手にカウンターサッカーをやれる状況ではありません。ポゼッションサッカーをきちんとやることは、アジアを勝ち抜く上でも重要なことです。堅守のセルビアモンテネグロからアルゼンチンが奪った2得点目は、本当にお手本となる得点だったと思います。ポゼッションサッカーの中から、きちんと得点を上げることを求めると、「ビルドアップからスピードアップするところのチームとしての連動、選手の判断というものが非常に重要になってくる」という城福氏の意見には全く同感です。

★アタッキングエリアでは縦に勝負するメンタリティが重要
中盤においては、ある程度のレベルのコンビネーションでも局面を打開することが出来ると思います。しかし、相手ペナの周辺になると守備もタイトになってくるので、相当高度なコンビネーションを駆使しないとシュートにはなかなか持ち込めないと言えます。そのときに大きな武器になってくるのがドリブルであることは、すでにお話したとおりです。相手ゴール正面のペナ直前で相手と1対1になりました。そこでサイドの味方の選手につなぎました。その味方の選手がキーパーと1対1になれる状況であればパスの選択肢もあるでしょうが、サイドでフリーになる程度であれば、パスを出さずに勝負をすべきだと思います。特に、育成段階の選手であれば、絶対に自分で打開すること指導すべきだと思います。今の選手たちはそこで簡単にパスを出しすぎると感じます。自分でかわして打つことを、もっとトライして欲しいですね。ドリブルで仕掛けるという選択肢があるからこそ、相手は警戒して対応を考えなければいけないのですが、パスしかないとわかっていれば、パスコースを切ることが容易になり、インターセプトをされる確率も高くなってしまいます。パス中心の攻撃をするチームであっても、ここぞという場面のドリブルでの仕掛けは必要なのです。試合中に1対1を積極的に仕掛けるためには、練習の中でもっと1対1を仕掛けるようにすべきだと思います。相手との間合いや、駆け引きなど、数をこなさないと身につかないものです。また、練習の中で攻撃の選手が1対1を仕掛けないと、守備の選手も1対1の守備の経験をする機会が不足することになります。育成段階においては、もっともっとドリブルを大切にしたいと思います。

最近の子供たちがサイドでドリブルしている時に気になることが1つあります。それは、ドリブルする中で簡単に切り返しを使いすぎることです。切り返しは、相手の逆を取る手段として有効な手段で、特に中盤ではその威力を発揮します。しかし、サイドをドリブルでしかけているときに切り返しを使ってしまうと、中でクロスのタイミングを図っている、味方の逆を突いてしまったり、攻撃に時間がかかり相手の守備陣形が整い、みすみすチャンスを失ってしまうことがあります。サイドを自分が縦に仕掛け、スピードに乗って自分のマークを半分かわしました。中の味方の選手はなるべくいい状態、なるべくいいタイミングでクロスを入れて欲しいと思っています。
@ かわした相手に追いつかれない、余裕があるうちに、(アーリー)クロスを上げるか
A 完全に抜き切って完全にフリーの状態で正確なクロスを上げることを期待しています。
中の選手は、まず@のタイミングを図るように動きます。(アーリー)クロスに対して、自分のマークをはずすように、ランニングコースやランニングスピードを変えるわけです。ところが、あなたがアーリークロスを選択せずに、抜ききる選択をしました。中の選手は、ダッシュをやめてもう一度タイミングを取り直すように動きます。よく言う動き直しです。
しかし縦に抜きにかかっているあなたが、切り替えしたとしたら・・・・・
中の味方は、再度動きなおしすることになります。すでにゴールまでの距離はなく、完全に詰まった状態での動きなおしです。戻るように動くことになり、相手ゴールに向かう圧力が大幅に低下してしまいます。元々あなたがスピードに乗っていなかったのであれば、切り返すことも理解できますが、スピードに乗ったドリブルで相手ゴールに向かって圧力がかかっているのに、簡単にやり直してしまうのは勿体ないです。切り替えしてすぐにラストパス、あるいは切り替えしてすぐにシュートというイメージが出来ているのであれば別ですが。攻撃の目的はゴールを奪うことです。ボールを奪われないようにすることを大切にしすぎるあまり、ゴールを奪うチャンスを失うのは勿体ないと思います。 突破にかかっているときの切り返しの功罪についてきちんと理解した上で、プレーを選択して欲しいと思っています。

★サポートをきちんとすることにより、攻撃の選択肢を増やす
このように書くと、後ろや横でパスコースを確保することのみを指していると思われがちですが、サイドや後方でのサポートと同時に、前方方向でパスコースを確保するべきなのはいうまでもありません。ボール保持者に対して、横や後ろにパスコースを作るのは簡単です。それが故、動きの質が伴わないチームがパスをつなぐサッカーをやると、ボールが前に進みません。場合によっては繋げば繋ぐほど追い込まれることもしばしばです。ボール保持者の(斜め)前方にきちんとパスコースを確保することが大事です。

ちなみに、個人的には、同じ方向のパスが2本続くことを好みません。例えば、右サイドバック⇒センターバック⇒左サイドバックというように左方向に2本のパスがつながった後、さらに左サイドハーフ⇒縦に流れたFWというように縦パスが2本繋ぐシーンなどは目を覆いたくなります。(動きの質が低いチームのパスにはこのパターンが多い)同じ方向にパスが続くと、相手は追い込みやすくなります。もし同じ方向にパスを連続で繋ぎたいのであれば、軽くフェイクを入れて相手いなすなど、ちょっとした工夫を入れたいものです。いずれにしても、斜めのパスを含め、パスの方向が変わることにより、相手守備の対応が難しくなることしっかり認識して欲しいものです。
ドリブルの項で「簡単に切り替えしてやり直しをしすぎる」ということを書きましたが、パスについても同様です。完全に相手に読まれていたり、詰まってしまったところを、無理やりパスを狙うようなことを繰り返すのはどうかと思います。しかし、「ここは勝負どころ!」というところでは、ある程度のリスクは覚悟で前にボールを入れたいものです。特に、相手に対してこちらの攻撃の圧力がかかっているときは、相手に対して有効な攻撃につながることが多いので、ミスを恐れずに果敢に攻め込んで欲しいと思います。

ドリブルにしてもパスにしても、最近の子供たち(若者)はなんで簡単にやり直すのかな?と考えてみるに、やはり日常の環境が影響を与えているのだと思います。
@ ゲームをやっているとき、少し状況が悪くなると、簡単にリセットしてしまう
A 失敗することは悪で、自分は絶対に失敗したくないと思っている
B 自分が責任を負うのを嫌がる(Aとの関連する)
ということが原因かなぁと考えます。このあたりを意識して、必要なときにはきちんと(責任を持って)チャレンジできる選手(人間)を育成していきたいですね。


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