専門職のお立場から、児童精神科医の先生に一文を寄せていただきました。(2005年)

児童期の強迫性障害について

強迫性障害は、強迫神経症ともよばれ、これまで神経症のひとつとされてきましたが、最近の診断基準では不安障害の一つに分 類され、生物学的な要因が強調されるようになりました。
薬物療法も進み、うつ病と同じく、脳の神経伝達物質であるセロトニンを脳の中で増やす(近年、日本で市販された)選択的セロトニン再吸収阻害剤 (SSRI)が有効であることがよく知られるようになりました。
また精神療法も、かつて主流であった精神分析的なものよりも、行動療法に基づくアプローチの方が有効であることがはっきりしてきました。
脳の中でも、前頭葉―辺縁系―基底核の(脳の中の神経ネットワークの)ループの障害が推定され画像研究も出てきています。
強迫性障害の有病率は低く見積もられていましたが、大規模な調査が進むと有病率は2~3%と推定され、児童・青年期においても1%以上あるようです。 発症年齢は、15歳以前の発症は強迫性障害全体の20~35%にものぼり、10歳以前の発症も外国の文献では少なくありません。「発症」を定義してお り、発達障害とは一線を画していますが、上記のように早期発症で継続する場合には、発達障害に準じて考え支援や治療にあたった方がよいのではないかと も思われます。
強迫性障害は、強迫観念と強迫行為からなります。
強迫観念は意に反して侵入的に浮かんでくる思考やイメージ、衝動であり、例えば、身体からの排泄物や汚れなどへの嫌悪、何か怖いことが起こるのではな いかとの恐れ、対称性や秩序や正確さへの心配や欲求、過度な几帳面、幸運や不運な数字のげんを担ぐなどがあります。
また、強迫行為としては、過剰な手洗いや入浴、反復される儀式、鍵などの確認、接触、数かぞえ、買いだめ、などがあります。
症状は、児童期と成人期では、基本的に内容にはに大差はないようです。しかし、児童は養育者に依存して生活しているので、より「他者巻き込み的」とな りやすく、親を強迫儀式に巻き込むことが顕著なようです。
これまで強迫性障害は、精神分析の病理仮説に基づく解釈が多かったので、どうしても家族が責められがちでしたが、これは正しくないことが最近では明ら かです。
強迫性障害において家族は加害者ではなく、患者さん本人と同時に強迫性障害によって苦しめられてきた被害者です。
患者さんのご家族から教えられることですが、巻き込みの症状はとても過酷で、家族なかでも母親をとても追い詰めます。
医療のみならず、児童福祉や、保健、家族会、NPOやボランティアなど様々な立場の人が連携して支援にあたることも必要でしょう。
今でも、勇気を持って相談に行っても、正しい診断や治療が得られず、孤立してしまう患者さんや家族が残念ながら多いようです。精神保健福祉センターや 保健所、児童相談所、教育相談センターなどによる適切なリードがもっと期待されています。