風蘆山白禅寺第十九世法性院釋祐萌ハ 明治十八年五月十八日祐玄菊壽ノ一子トシテ誕生シ 五歳得度ス　第四高等学校ヲ経テ 明治四十一年七月東京帝國大學文學部哲學科ノ業ヲ畢ヘ 更に京都帝大大學院ニ於イテ研鑚ス

　大正二年父祐玄師逝去シ白禅寺ヲ嗣グ　翌三年墓山頂上ニ學問所ヲ建テ 日夜研學ス　大正六年白禅寺住職トナリ 立命館大學講師ヲ兼ネテ 哲学英語ヲ講ズ

大正十一年四月二十三日本堂庫裏類焼ス　學問所ヲ焼跡ニ移シ　災状未ダ治マラザルニ ドイツ留學ノ途ニ上ル 同年十一月ヨリ ベルリン大學及ビ マールブルグ大學ニ學ビ マイヤー教授 ナートルプ教授 フッサール教授ニ師事シテ 哲學ノ蘊奥ヲ究ム　

一九二三年四月ケーニヒスベルグ大學ノ カント誕生二百年祭祝賀式ニ カント學會員トシテ招待サレ 榮典ニ列シ　大正十三年十一月歸朝ス　

大正十四年四月松本高等學校教授ニ奏任サル　大正十五年白禅寺本堂再建ヲ起工　普ク同行信徒ノ献身的奉仕ヲ得テ 昭和二年客殿モ併セ完成シ輪奐旧ニ復ス　

昭和九年九月廣島高等學校教授トナリ　昭和十六年四月廣島高等學校長ニ勅任　同十八年静岡高等學校長ニ轉ズ　静岡市空襲ニ身ヲ挺シテ校館ヲ防守シテ全キヲ得　終戦ニ際シ 時勢急變ノ教育ノ重大性ト白禅寺法務布教ノ責ヲ深思シテ 高等學校長ノ免官ヲ願フ

日本國天皇ハ高等官一等從三位ニ陞敍シ 勳三等瑞寶章ヲ以テ其ノ鴻勳ヲ顯彰ス　自坊ニ止錫スルヤ本堂ヲ荘厳シ 勤行精進ノ裡ニ哲學佛教學講究ノ精華ヲ輯メテ 昭和四十二年「カント純粋理性批判の根本問題」ノ一書ヲ公刊ス　

其ノ風骨魁偉ナルモ資性温厚 己ニ嚴ニ他ニ寛ニ慈情豊麗ニシテ學識博淵ナリ　學徒ニ敬慕サレ 檀徒ハ尊信シ 壽八十一歳　僧正ニ補セラレ令名遍シ　

齢二十四常子女ト婚シテ七女一男ヲ擧グ　男夭卒シ養嗣子慶来戰病死セシモ 長孫祐韶法燈ヲ守リテ子女ミナ餘慶アリ　昭和四十五年二月常子ノ葬ヲ嚴修　

歳餘ニシテ　持病ニ白内障併発シ 昭和四十六年六月二十七日寂然トシテ薨去シ往生ノ素懐ヲ遂グ　壽八十七　子女ト有志其ノ教學ヲ頌シ勒シテ思慕ノ情ヲ暢ブトイフ

昭和四十八年九月
　　　　　東北大學名誉教授　文學博士　　　　吉田賢抗　撰