短歌1984



手紙


蝉茸は蝉殺しつつ生活と歌の癒着を思ふべし……蘂

這ふ時代終へし子供は卓に漢垂れ神々のー&で女※ふ#穴ぐ……

冠山にけふ冠雪す かへりみてわが青春の胸清……からず

うしなはれゆく時間こそ冬の繭、その内部より……にほぐれ

月夜、人妻、みづからを消さむとしてか消しゴムを食う

ああそして男、それらの消しゴムのうさぎの毛もて「……」を消す

この冬の鼠百態、山の木の実のとぼしきに家ぬちに死す



梅の歌一首あはせて短歌


雪のうへを まぼろしの馬 過ぎ去ると 南風吹く 父親の革命の書も 母親の 遊芸の書も そよそよと 火に燻べらるる 世の終り 瞠りつつ見て をさな子は 思ひみるべし天地の 時の余白に 咲きそめし つらくあかるき 梅の花 透けつつ見ゆる 現世を 折りかざしては 遊びくらさな

反歌

梅が枝の花芽ほぐるるしゅるしゅると少女は声に言ひつつぞ脱ぐ



夏の歌一首あはせて短歌



*の樹に 揺すらるるまで やすみしし 目弱き王の おほいぬのふぐり ヴェロニ力・サンソンの 蝉にさらさら 降りかかる 奇妙な針や 昼つかた しろたへの虻 その虻を 蜥蜴はや食ひ うつろなす 喫茶『夏屋』の 未亡人 言葉は霞む 六月の 撃ちてしやまむそらまめの 薬莢の夢 天秤に みづ滴つるさや *****十七歳の

反歌

蝉くらふをんなわらはの素裸の寒くしあらむ今朝のサハロフ



最後の桃の歌あはせて短歌

しろがねの 石蹴り遊び くろがねの 水滴遊び はしけやし欅の樹下に 妻と子が 遠のきて見ゆ 雨もよふ 草のつるぎや檀の実 葡萄の踊り 日本の 枯れ枯れの葛 冷ゆるまで 我は浴びつつ 滝つ瀬の 水蜜桃の きらきらと 水辺逃れし 群衆が森にさすらふ まぼろしを 人には告げじ 思ふこと 皆尽きねとて 滅びゆく 少年の日の 水に背を 浮きつつ睦り ねむりつつ透き


反歌

死は我に蘇りつつ帰らざれアレッサンドロ・モモのごとしも



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