Eメール歌仙 「孟春やの巻」  1998,2,16〜


初表

 孟春やタイムマシンを質草に        燦
  牧場の空へ投げるオレンジ       蜆汁
 ゆっくりと若紫で爪を染め        風子
  年の差夫婦ダイエットする      究太郎
 剥落の鰍の鱗に返る月         カツノ
  大根おろすゆうべやや寒         睦

初裏

 秋競馬じょんじょろりんと銭鳴らし   まもん
  生命保険満期近づく          月彦
 きゆつきゆつと独り男を訪ふ日傘    黒旋風
  虹いろになる君を感じて        純子
 トロイメライともに弾きつつ肩ふるる    零
  霜に曇れる窓に立つ姉         大辻
 空中鬼渤海を過ぎ東進す         勇魚
  ざんと斬られて遅月の出る        槐
 銀杏の実やつと見分ける明るさに     白雨
  たどる古地図のかなめ虫食い     ちえこ
 生母への想ひはるかに花の森       蜆汁
  春の一日を過ごす画廊に        風子

名表

 キャッツ・アイたんぽぽの野に沈みゆく 究太郎
  カミはいつでも東より来る      カツノ
 髪に降る雪の結晶ながめつつ        睦
  越の地酒に添ふる煮凝り       黒旋風
 老いらくの孤悲とも手練手管とも     月彦
  さきに湯船を出でし女よ       まもん
 過去消せぬ後夫の居場所を探すポチ    純子
  引越しの荷に空の犬小屋         燦
 舗装路につづく植え込み汚れいて      零
  チョークに描く人の形あり      ちえこ
 ひと筋のしろ水中に射す月夜       りう
  菓子を供えて点す灯籠         蜆汁

名裏

 菊なます父の塗り箸はげており       槐
  明治生まれの端正な顔         白雨
 深海に眠りしものの多くなり       風子
  長き雪解にロシアぬかるむ      ちえこ
 花一片栞のままに『資本論』       勇魚
  栄螺の壺に砂は満ちつつ       カツノ



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