師弟歌仙 「カーテンに」の巻
西王 燦 VS 山科真白
初折(表) 1 発句(長句) 秋 カーテンに真白き風や秋の指 燦 2 脇句(短句) 秋・月 燦く月が照らせるオブジェ 真白 3 三句(長句) 秋 洋梨の一個つやつや雫して 燦 4 四句(短句) 秋 金の牡鹿はいずこに啼くか 真白 5 五句(長句) 雑 若者は脇に抱える管楽器 燦 6 六句(短句) 雑 電話番号あやふやなまま 真白 |
初折(裏) 7 初句(長句) 雑 小紋着て書家の屋敷を訪れる 真白 8 二句(短句) 冬 もつれ降りしく欅の枯葉 燦 9 三句(長句) 冬・恋 迷い子の兎を追えば恋のこと 真白 10 四句(短句) 冬・恋 手袋脱いで片えくぼ見せ 燦 11 五句(長句) 雑・恋 うなじまで白粉はたき人を待つ 真白 12 六句(短句) 雑・恋 絹裂く音もつつむ後朝 燦 13 七句(長句) 雑・恋 絡ませた指が離せぬ別れ際 真白 14 八句(短句) 新・恋 ハート印に破魔矢を刺して 燦 15 九句(長句) 新 気に入りの羽子板買うて帰宅する 真白 16 十句(短句) 春 どこかで氷解ける音する 燦 17 十一句(長句) 春・花 黙したる花は静かに咲き初めし 真白 18 十二句(短句) 春 あれに見えるは茶摘じゃないか 燦 |
名残の折(表) 19 初句(長句) 春 幼日の落書き残す雛の箱 真白 20 二句(短句) 雑 誰に宛てたか手紙一束 燦 21 三句(長句) 雑 言い訳を百万遍も繰り返し 真白 22 四句(短句) 夏 汗が流れる顎から胸へ 燦 23 五句(長句) 夏 打ち下ろす間合いをはかる蝿叩 真白 24 六句(短句) 夏・恋 ビールの泡は恋の引き潮? 燦 25 七句(長句) 雑・恋 追わぬなら思い捨つ舟漕ぎ出でし 真白 26 八句(短句) 雑・恋 心中行はキャンセル待ちで 燦 27 九句(長句) 秋 真っ直ぐに同じところに立つ案山子 真白 28 十句(短句) 秋 通草は開き郁子は開かず 燦 29 十一句(長句) 秋・月 感嘆詞吊り下げながら月は満ち 真白 30 十二句(短句) 雑 伊丹の空に飛行船浮く 燦 |
名残の折(裏) 31 初句(長句) 雑 別れとう言葉似合わぬ三宮 燦 32 二句(短句) 冬 《裸のマハ》にかける外套 真白 33 三句(長句) 冬 着膨れて《梟の城》を観て戻る 燦 34 四句(短句) 雑 密命受けた忍者が動く 真白 35 五句(長句) 春・花 音もせずただひとところ花明かり 燦 36 挙句(短句) 春 蝶々が舞う思い出の庭 真白 |
1999.SEP〜OCT