歌仙    『 二都の光の巻 』
--------------------------------------------------------


  
初折の表
発句 新年 新年や二都の光を身にあびて 博士
新年 春著姿の匂ひたちくる 栄子
第三 新年 初懐紙液晶の色さまざまで
決意のありて背を伸ばす朝 とも子
馬の仔の月のしづくにぬれて生れ 和子
折端 春濤の音遠く聞こゆる 真白
初折の裏
折立 行く春を追ひて北へのひとり旅 龍人
宛名ばかりの絵葉書を出す 初枝
ほほゑみはあなたのためにとつておく 栄子
苦しく夏を生きのびて来し 博士
お手上げと観念しつつところてん 美保
行きつもどりつ瓢鮎図のまえ 和子
尖りたるこころ包みて冬の月 とも子
木の葉一枚残す橡の樹 龍人
びゆんと吹くアメリカからの風ありて 真白
阿倍清明の末裔と言ふ 栄子
十一 八重の花けふの匂ひを身に纏ひ 初枝
折端 からくり時計鳥雲に入る 美保
                   
名残の表
折立 人形のはこぶ茶碗の花菜漬 和子
五十五歳の鬚の真白き 博士
泣いたつて許さないよと抱きすくめ とも子
しとどに濡れる真夜のくちびる 真白
重ねたる裸身も暖炉の火も揺れて 龍人
このまま雪に閉ざされて寝む 初枝
思ひ出を仕舞ふ抽斗ひとつ持ち 栄子
鐶にひそかなそらいろの錆 和子
どこまでもついてくる月島渡る 美保
小男鹿の啼く声はかすかで とも子
十一 よきひとのうゑし糸瓜のみづのこと 博士
折端 かんかんかんと下りる遮断機 龍人
名残の裏
折立 失ひし鈴をひつこく探せども 真白
こんなところにはこねうつぎが 栄子
さそはれて誘蛾灯まで来てみれば 初枝
ポートベローに地図も売られる 美保
狂ふてもふたたび行けぬ花の谷 和子
挙句 執心もなく春の暁 とも子



--------------------------------------------------------
連衆 : 西王燦 山本栄子 谷口龍人 青木和子 荒木美保 山野とも子 藤田初枝 矢嶋博士 山科真白


捌 : 山科 真白   総監修 : 西王 燦



return to toppage