歌仙『春の日や』の巻 首00/01/20〜尾00/02/28


    春の日やはるかなる波寄せ返す        勇魚
     潮の香ほのかともす雛の灯         紗慧
    あれこれと苗市に買ふ思案して        媚庵
     軽トラックが黒煙を吐く          白雨
   兜虫もそりもそりと過ぎる月          燦
     端居してゐる姉妹兄弟            零

    今昔を問うこともなし蚊喰鳥         紗慧
     夜深くなほコミックを読む         勇魚
    白む頃ブラックジャックになつてをり     白雨
     臓器移植に議論百出            媚庵
    つぎは何を売つてくれるの美少年        零
     桃の実一個恋はまるごと           燦
    颱風に屋根も心も裂かれつつ         勇魚
    アポロが赴(ゆ)きてその後の月      媚庵
    影踏みの遊び疲れに肩を組み         紗慧
     語ればそこに雪女郎立つ          白雨
   姿見にうつりて白き帰り花           零
     大観覧車天の橋立              燦

    老人力ここぞとばかり楽しめと        紗慧
     腰かばひがち若菜摘むにも         勇魚
    末黒野に大海人皇子馬責むる         白雨
     啄木の忌の午後の校庭           媚庵
    初恋はジャングルジムを抜ける風        燦
     氷いちごをふたり分けあひ          零
    潮焼の笑顔幾つもアルバムに         勇魚
     雨夜の語り尽くるともなし         紗慧
    詩人ともならず故郷の刈田道         媚庵
    満月まさに虹彩の青            白雨
    菊枕父は浄土へ引つ越して           燦
     アラレガコふと夢にうましも         零

    魚市場鮪の競りもたけなはで         勇魚
     朝風呂けふは「有馬の湯」入り        零
    小声から次第しだいに大声に         白雨
     翁媼が雛値踏みする            媚庵
   花衣いそいそいそと野に遊び         紗慧
     めでたいことよのう揚雲雀          燦