現代連歌へ戻る



『現代連歌集』
野間亜太子編

砂子屋書房
1993年4月10日初版発行
定価3000円


淺川 肇
天野律子
江畑 實
奥村憲右
香川ヒサ
笠原芳光
梶浦 公
久津 晃
黒木三千代
黒田淑子
小中英之
島津忠夫
多田智満子
谷川健一
田村雅之
津田清子
百々登美子
野間亜太子
馬場あき子
伯田千明
早崎ふき子
濱千代清
原田夏子
深海あきこ
藤田博子
益永典子
松井春満
大和克子
山中智恵子
山埜井喜美枝
渡部兼直


「現代連歌」を楽しむ       野間亜太子       『フーガ』28号 2000年9月20日発行

1、『現代連歌集』からの反省

 跋文をお願いした島津忠夫氏から”「現代連歌」と連歌の話”として次の「賦何人連歌」を例とされた上で、厳しいお言葉を頂いた。これはとても幸いなことである。これを機に一から連歌を学び直し始めたのであるから。

  つぼすみれ東下りのかたみかな
   奈良にて連歌を巻く小半日
  鶯のうそぶくばかり春たけて
   うつらうつらの新発意の昼
  みさか山霧立つ宵の月遠く
   誰を招きてゐる枯尾花
  竜ならず猿沢の池雨昇る
   滄溟よんで水といふべし

 島津忠夫氏はこの表八句について、

 厳密にいうと連歌では漢語や俗語を用いないのが原則であるから、「新発意」「滄溟」などは困るのであるが、これらはいずれも漢語とはいっても連歌の気分をそこなうようなカタカナ語ではないから「現代連歌」ということで許容することにしてもよい。また連歌の表八句では追善連歌の発句・脇以外は釈教の句は避けるのが決まりである。とすれば四句目に「新発意」が出るのは問題だし、名所も発句に当地に因んだ名所が出るのはよいのだが、表八句には出ない方が良い。七句目の「猿沢の池」はしたがって発句ならばふさわしいのであるが、ここでは差し控えたいということになる。五句目に「霧」があって、七句目に「雨」がある。「雨」は降物で同類の語で、六句目を界にして、前後に同類の語が来ることは、「観音開」といって嫌うのである。まずこの座に宗匠がおれば差し戻されていただろう。

と書かれていた。

そこで、島津氏もご出席である大阪平野区の杭全神社へ行き、何と何を「付く」と認めているのか、季節の転移をどのようにならべているのか、を学び、また、山田孝雄・星加宗一編『連歌法式綱要』(1936年 岩波書店)のコピーを得て、連歌の式目を詳しく知ることができた。

2、連歌の式目

▽作品を書く前に賦物という端作りがあり、第一句の中に意味の合う言葉を入れる。※
 例えば、「山何」とあれば「石、林、原、路、主、風、河、垣、橋、椿、雲、草、木、守、嵐、桜、里、雪、百合、女、蝉、木綿、祭、寺、露、錦、越」などのうちから一単語をいれる。もし客分が発句に「路」という文字の入った作品を書けば、「山路」となって一つの言葉が出来る。

▽作品素材は十七あり、「光物(日、月など)、時分(夜、夢など)、山類(山、谷など)、水辺(水、川など)、聳物(霞、煙など)、降物(雨、露など)、動物(獣、鳥、虫、など)、植物(木、菊など)、人倫(我、関守など)、神祇(社、放生など)、釈教(寺、心の月など)




■注
これを期に→これを機に
招きている→招きてゐる
登る→昇る
それには→島津氏はこの表八句について、(改行)
とあった。→と書かれていた。(改行)
宗匠付きの杭全神社→杭全神社
仕事の後を利用して行き→行き
又→また
山田孝雄氏と星加宗一氏による『連歌法式綱要』ののコピーを得、→山田孝雄・星加宗一編『連歌法式綱要』(1936年 岩波書店)のコピーを得て、
式目を知ることができた。→連歌の式目を詳しく知ることができた。
※→これについては注記が必要。(西王燦)



▽作品は客、連衆とも一巡したあと、それぞれが作品を書き、宗匠が選び、進行・筆記は執筆が行う。早く宗匠に作品を選ばれた者の作品が勝ちである。これを「出勝」と称する。

▽句数は季節の最大数は春秋五、最小三で、恋も最大数五、最小数三で、その他は最大数三〜二、最小数一である。

▽句去といって、同じ季節や同じ部立の作品を開ける。例えば、春と春、夏と夏、秋と秋は七句を隔てる。光物と光物、降物と降物、聳物と聳物は、三句隔てる。さらに、山類と山類、水辺と水辺、神祇と神祇、釈教と釈教、恋と恋、述懐と述懐、旅と旅、居所と居所、衣裳と衣裳とは五句隔てる。さらに、時分と時分、動物と動物、名所と名所、植物と植物、人倫と人倫(二句〜三句)の例もあるので、これらの最大限七句を隔てておけば問題はない。

▽一座に同じ言葉が何回使用できるか。例えば、光物では、「朝月、夕月、三日月」は一座一句物、「春月、夏月、冬月」は一座三句物、「朝の字、夕の字、空の宇、有明」は、一座四句物である。尚、五句物は水辺の「橋」、植物の「梅」、釈教及び述懐の「世」である。これも逆説的であるが、同じ単語を一回以上使わないようにすればよい。

▽連歌去嫌の歌。『連歌秘抄』より。その最たる物をあげれば、「虎や龍、鬼や女はおそろしや千句が中のI句とぞ聞く。」これに関して、「鬼女虎狼の千句物表にもすれど一座一句ぞ」とある。

▽体用の事。同じく『連歌秘抄』より。「作りなす砌の庭は用なれば外面も同じ用とこそ聞け」「軒や床閨門窓も体なれば庵戸ぼそも体とこそ聞け」「釣たるる魚網氷室あか結ぶ筧も同じ体用の外」。
山田孝雄、星加宗一氏編『連歌法式綱要』によれば、
   居所体。家、里、床、門、桜、屋、戸、垣、扉、壁、蔓、閨、邑。
   同用。外面、庭、簾。
   この他、山類の体と用、水辺の体と用等が書かれている。

▽月、花の定座。

 @百韻の場合−初折表七番目(月)、初折裏九番目(月)、同十三番目(花)、ニノ折表十三番目(月)、ニノ折裏九番目(月)、同十三番目(花)、三ノ折表十三番目(月)、三ノ折裏九番目(月)、同十三番目(花)、名残折表十三 番目(月)、名残折裏七番目(花)。ただし、「月の定座」は前に移動
することができるが、「花の定座」は移動しない。

 A世吉(四十四韻)の場合−初折表七番目(月)、初折裏九番目(月)、同十三番目(花)、名残表十三番目(月)、名残折衷七番目(花)。

 B歌仙(三十六韻)の場合ー初折表七番目(月)、初折裏十番目(月)同十三番目(花)、名残折表十三番目(月)、名残折裏七番目(花)

 C短歌行(二十四韻)の場合ー
◇発句が春。初折裏一番目(月)、同七番目(花)、名残折表七番目(月)、名残折裏三番目(花)。
◇発句が秋。初折裏三番目(月)、初折裏七番目(花)、名残折七番目(月)、名残折裏三番目(花)。

※ただし、ABCは、「月の定座」は前へ移動することが出来るが、「花の定座」は動かない。

▽端作りー賦物の前に連歌の挙行された年月日、場所を書く。又、連歌終了後、「句上げ」といって、誰が何句宗匠に認められたか、作者名と句数を書く。

▽句順ー「発句」は切字で終わり、「脇句」は名詞又は体言止めとし、「第三句」は「て」止めとなる。最終句「挙句=句挙」は、「明るくめでたく」の意味をもった句で体言止めとなる。

▽「序破急」については、初折が「序」名残ノ折が「急」で、その間が流れとしては「破」に近くなる。


三、様々な近現代の連歌

1、法楽連歌

享祿三年(一五三〇)に始まり、断続しながら現在九州の須佐神社に奉納されている。福井久蔵氏の校閲を経て定められたという「連歌新則」には、次の様に書いてある。

「在来ノ式目厳密ヲ極メ初学者作句困難ナルヲ以テ便宜其ノ掟ヲ緩和シ左ノ通り之ヲ定ム ー、賦物ハ発句ニツイテ之ヲ採ル 主題ニアラズト雖モ可ナリ ニ、景物ハ大凡月八句花五句 雲三句トシ多少ノ増減ヲ認ム 三、類似語同質語等打越ハコレヲ嫌フ 四、景物季共五句去り三句続クルコトゝシ多少ノ増減ヲ認ム 五、作句ハナルベク大和言葉ニヨルベキモ新熟語等慣用ノモノハ之ヲ認ム 六、発句 かな留 第二句文字留 第三句て留等在来ノ式目習慣ヲ参考トスベキコト」とあり、現在の準則には「今井百韻 次第」とし、「一、発句は一座の主情を或し、終始最要の意舞を存す。而してその風体は古来の技法理念を勘案する。発句を定めた後に賦物を凡そは『賦物篇』によってとるものとす。二、用語は歌語をもって本則とす。但し、初折裏三より名残折衷の聞においては俳言を認める。俳言に外来語を含む。なほ、俳言は面を嫌ひ、三句までとする。三、面十句には神祇・釈教・恋・無常を嫌ふ。四、同類語、等質語は五句を隔てる。同季、恋は七句去りとする。五、四花七月四雪とし、他の景物は適宜これを採る。世吉においては二花三月二雪とす。ことにきはだつ物、逆になくてもいいやうな物は一句物とする。春季、秋季は三句より五句まで、夏季、冬季は一句より三句まで。六、挙句は「めでたくて春季を帯びて漢字止め」の句柄とする。七、付句は明瞭な音声をもってなす。長句はまづ上五を出し、これを執筆が口頭で受けた後に、再び全句を出す。短句はまず上七を、次に再び全句を披露する。八、季のとりやうは季の詞と現代季語をともに用いる。
両者が齟齬する場合は現代季語によるものとする。ただし、あまりにも広範
な現代季語はこれをとらない。」とある。尚、この須佐神社奉納連歌(昭和六三年七月二I日)の作品は、

    賦何田
        一、青かびを払へば神の御座かな
        二、しるや科戸のしるき涼風
        三、並び立つ檜原の奥は滝ならん
        四、石走る水薫りたつなり
        五、鶉なく大野つづけり果もなく
        六、片山際に里暮れやすし
        七、草枕今宵の月はかそけくて
        八、道草花は露にしづもる

である。敢えて作者名は伏せておく。
(『平成の連歌』須佐神社社務所、平成九年一〇月一日刊より)

2.杭全神社連歌

宝永五年(一七〇八)に再建された連歌所があり、近世より断続された連歌も昭和六二年五月五日に「賦何人連歌」として再興された。ここには、浜千代清宗匠による「平野連歌八則」がある。「一、法楽の連歌を宗とすること。一、歌仙、世吉のほか百韻もありたきこと。一、雅訓なる表現を基本とし、漢語外来語等もこれによって取捨あるべきこと。一、脇体言留、第三て留のこと。一、花は折に一、但し名残折の前を定座は揚句とす 月は面に一、名残折裏はなくともよし。一、同語五句去り同季七句去りのこと。一、のの字、体言止の連続に配慮あるぺきこと。一、春、秋、恋は三句を基準とすること 但し恋は二句にてもよし。」とある。杭全神社での再興最初の作品は、

    賦何人歌仙連歌
           一、楠若葉待ちし宮居の手向哉
           二、平野の郷に薫立つ風
           三、空晴るる行末よしと門出して
           四、澄み渡る江に遠き峰々
           五、月にいま汀の浪は音もなし
           六、一むらすすきかけかすか

である。これも又、敢えて作者名は伏せておく
(『平野法楽連歌』平成五年一〇月二五日和泉書院刊より)

□マスコミ連歌
平成七年一二月二三日、朝日新聞大阪本社は、「賦玉何連歌」の後、「枝交わし咲くやことぱの花の春」という杭全神社の宗匠の句をかかげ、新春から一般の公募(葉書又はファックス)を始めた。「次の七・七は体言(名詞)止めが望ましい。春の句を考えて下さい。」とある。選者鶴橋裕雄氏は「朝日紙上連歌会八訓」をかかげた。「一 堅苦しく考えず、気楽に付けましょう。二 用語は和歌に使われている優しい言葉を基本としますが、漢語、外来語も適宜につかいます。三 「の」宇がいくつも重なったり、名詞で終わる体言止めが続かないように気をつけましょう。四 原則として、同じ言葉は五句以上隔て、同じ季節の句は七句以上隔てます。五 春、秋、恋の句は三句続けますが、恋は二句で終わることもあります。六 紙上連歌を反映して、初折衷、名残表には、時事の句も詠みたいものです。七 花の句は各折に一句、ただし一番最後の挙句(あげく)の前に詠むことと致します。月は各面に一句、ただし名残裏は詠まないことがあります。八 挙句は春の雰囲気のあるめでたい内容の名詞で終わる句といたしましょう。」とある。この作品(世吉)は多くの週を経て、次の如くなった。

    賦玉何世吉連歌
           一、枝交わし咲くやことばの花の春
           二、初霞立つ東雲の空
           三、雪残る野を放れ駒駆けぬけて
           四、少年の吹くオカリナ流る
           五、磯の香を運ぶ浜風そよぐらん
           六、障子に映ゆるもみぢ葉の影
           七、十三夜生ひたちの記の筆を擱く
           八、新そぱ届く故郷の友


これも又、作者名は伏せておく。

                            

□学者連歌

 戦前、旧東北帝大に勤めておられた山田孝雄氏は、同僚や職員、学生を集めて連歌をしておられたと云う。あれほどの多くの御著書がある中で、昭和七年から始まり、昭和一五年に終わった連歌は『連歌青葉集』(昭和一六年、うねぴ書房刊)と名付けられた。尚、之には、附録として、戦場での星加宗一氏の千句も加えられている。原本は国会図書館にある。そのコピーより世吉の一番古いものをここに記す。

    賦白何連歌
          一、宮城野の雪にきらめく初日かな
          二、梅か香かをる賤か伏いほ
          三、遠近の山辺も今や霞むらむ
          四、小田うちかへす時は来にけり
          五、春雨の今日もひねもすふりくらし
          六、たきつ川辺を下す筏師
          七、うち仰ぐ月の光のさやけくて
          八、鹿の鳴く音に夜そ更けにける
これも又、作者名は伏せておく。

 仙台市民連歌

 先の学者連歌に何らかの関係があった人等によって、『北杜歌人』七号(平成九年八月一五日刊)で研究会として連歌百韻が挙行された。
 これには、賦物がなく末尾に句上げがある。又、季節や雑、月といった表記も各句の上にある。

    〈連歌〉鎌先百韻

          夏 鎌先や鄙びし宿の柿若葉
          夏 軒に手早く張る蜘蛛の糸
          雑 つば広き帽子まぷかに歩みきて
          雑 ビジテリアンは風を食うぶる
          月 白うさぎ月をアポロに盗られたり
          秋 空いっぱいただよふ雲はひつじ雲
          雑 隔てしひとに語ることあり
          春 鳥たちは渡り終へしや海かすむ
          春 となりの女雛うらやむしきり
これも又、作者名は伏せておく。


四、宗匠制の否定と雅語の問題

 島津氏は「連歌には漢語・俗語を用いずに、もとより和歌とは表現に微細な違いは出てくるが、基本的には和歌と同じく雅語を用いる。その純粋の連歌に対して、漢語・俗語をも用いたものが、俳諧の連歌であった。俳諧とは俳諧連歌の略称に端を発している。したがって連歌と俳諧とは形態として変わらない。
 俳諧ではだんだん発句が重要視され、明治になって俳句として独立するのであるが、その俳諧の連歌を連歌と区別して連句と称して来たのである。」とおっしゃるが、私は決して連句を作っているわけではない。もし、氏が、故塚本邦雄氏の独吟連句『花鳥星月』百韻(一九七七年・書肆季節社刊)をご覧になっていれば、すぺての連句のカテゴリー等無視した超現代連句百韻をいかに思われるか、お伺いしたいものである。塚本氏は短詩型文学を現代詩化した希有なるご仁である。私は、ここまではやっていない。個人誌「フーガ」にも書いたことだが、「さて、学問的に〈連歌〉を定義すれば、連歌言葉(雅語)があり、宗匠や執筆がいて、式目その他があり、そうでなければ〈連句〉ということになる。」これらを、〈伝統的連歌〉及び〈伝統的連句〉と私は呼びたいと思う。
 これに対して、わたしは現代文学としての「連歌」を考えている。「現代俳句」、「現代川柳」、「現代連句」、「現代短歌」、「現代連歌」、「現代詩」「現代連詩」、「現代小説」がある。現代文学の一環として、存在価値のあるものを考えている。単なる叙景歌の連続(しかもレトロなもの)は伝統連歌である。現代文学であるから、宗匠制は否定する。簡略化された式目と、雅語と対等な位置を持つ言葉(美学的な芸術用語、あるいはロマンに満ちた優雅な言葉)とで、序破急の流れにあうように纏めている。参加者二名で「現代短歌」が出来、それらの連鎖がそれらの折々で連作のようになったものが、「現代連歌」だと考えている。参加者全員でそれぞれが「ああいい」「こういい」して出来上がる共同幻想の賜物である。

五、「現代連歌」を楽しむ方法

 ご忠言頂いた島津氏に答えて、主に「世吉」と「短歌行」を故山中智恵子様と作っていたので、「これだけ知っていれば、誰でもできる現代連歌」のために、先ず「世吉」用紙三種類をつくった。上から順に花月、季節、素材、作品、氏名の各欄があり、右端に賦物欄もある「世吉一覧表」二枚を作られたさる方からコピーで頂き、それに自分で注記を加えた。表の最初に「同じ言葉は二度と使用しない。同じ素材も七句離れる。」と書いた。さらに、表八句の下欄に「片仮名ダメ・釈教もダメ」と記入。発句以外に名所禁止。勿論、表八句は「神祇・恋」も禁止。又、最上段に、「発句、切れ字」「脇句、名詞、体言止め」「第三、〈て〉止め」と記入しておく。さらに、初折衷の左端に「片仮名五句去るが、三句続けても良い。」と書いておく。最後の最上段には「挙句、明るく、めてたく、春めいて体言止」と記入。素材の欄(一七)に○印を付けておけば、観音開きの心配はない。季節の欄は全部前もって「雑」や「恋」も入れておく。名残折表の下欄に「片仮名、漢字可」と記入。又、名残折裏の下欄に「片仮名、漢字ダメ。静かにあっさりと」と書いておく。次に、「賦物一覧表(『連歌法式綱要』賦物篇の一部)」に加えて、「作品素材一覧表」を自分なりに作った。一七素材のうち、これも又、「観音開き」にならないように、「光物」と「時分」の幾つかの具体例、同様にして、「聳物」と「降物」、「山類」と「水辺」、「動物」と「植物」、「人倫」、「神祇」と「釈教」、「恋」と「述懐」、「旅」と「名所」、「居所」と「衣裳」を挙げ、分類した。これに、「一座一句物」等も書き、一枚とした。念のため、これ以外に巻紙も用意し、筆で各自が作品と氏名を記入した。座席の順に廻るのだが、五七五ばかりの音の人と、七七ばかりの音の人とはならない様に、途中で順番を変える事にした。季語が必要なので、『歳時記』を開く時もある。従って、「世吉一覧表」、「賦物一覧表+素材一覧表+注記」、巻紙、『歳時記』等によって、宗匠も執筆もなしの「現代連歌」の「世吉」が出来上がるのである。

次に、「短歌行」は主に謡曲をテーマとしてきた。初句が春の場合(A)と、秋の場合(B)の二種類の「付順進行表」を作った。Aの上段に「初折(表)@」とし、二段目に句順(数字)、三段目に季節(香、香、春、雑)、四段目に「発句(切れ字)」、「脇句(体言止)」、「第三句(て止)」とし、その下は音数と作品と氏名の欄とした。「初折(裏)」の三段目は(秋月、秋、秋恋、雑・雑恋、冬、雑、春花、香)で、他は同様である。「名残(表)」の三段目は(香、雑、夏、雑恋、秋恋、秋、秋月、雑)で、これも他は同様である。「名残(裏)A」の三段目は(冬、雑、春花、挙句・香)でこれも以下は同様である。その後には、「古語が基本、雑や、恋や、花についての説明。」、「観音開きについて」、「@の表ぶり」「Aの裏ぶり」、「切れ字の説明」を記入。Bも三段目が異なるだけで、他はAと同様である。Bの「初折(表)」は(秋、秋、月、雑)であり、「初折(裏)」は(夏、夏、雑恋、冬恋、冬、雑、春花、春)となり、「名残(表)」は(香、雑、夏、雑恋、秋恋、秋、秋月、雑)であり、「名残(裏)」は(冬、雑、香花、挙句・春)となる。わたしどもが、一同に会した「短歌行」は数少なく、多くはFAXや手紙で、故山中智恵子様を中心として楽しんできた。謡曲をテーマに再構築やイメージを新しく、深く変化させてきた。

連歌だけでも、十四年間、山中智恵子様は、わたしを若い文学の友として、わたしは、敬すべき文学の先輩としてお付き合いさせて頂いた。〔静かなる時の先見つ青羊〕これは、頂戴した短冊である。前衛の徒として、認めてくださった。今は、最後となった「世吉」と「短歌行」の例を列挙しておく。尚、この最後の「短歌行」は、.現代連句」の最たる詩人鈴木漠氏に校閲をお願いしたものでもある。

駿河台世吉
平成一四年五月三日
      於 東京山の上ホテル


    賦山何連歌

初折(表)

  遠霊のおぽろに見えてゆく水や       盈子(春)
  今日新しき園の万緑            弘子(春)
  あたたかや昼から月のかかりゐて      あきこ(春月)
  電車の子等に初むるうたたね        亜太子(雑)
  椅子深くかけてことぱの湧くを待つ     幸子(雑)
  いかに秋とはさやけさ連れむ        代志朗(秋)
  祭り笛ついと消え入る猫の影        斎子(秋)
  僥垂る滋賀に野分の立てり         雅之(秋)

初折(裏)

  きらきらとステンドグラス夜となりぬ    智恵子(雑)
  トバルカインの打つ槌の音         康(雑)
  手摺れせし塩瀬の帯の締め具色       盈子(雑)
  絵の具の黄色筆あたらしく         弘子(雑)
  濃淡のあはひゆらして雨の降る       あきこ(雑)
  扇をさして舞ふ京踊り           亜太子(雑)
  きはやかな素足に踏める月の廊       幸子(夏月)
  薄暑の頃に華やぎ還る           代志朗(夏)
  旅仕度うはの空にて運びけり        斎子(雑)
  ひとに逢はなむ夕ぐれの海         智恵子(雑)
  業平はさねさし相模を思ひ見ず       雅之(雑)
  ゆりかもめ飛ぶ下町の辺に         康(雑)
  花冷えの手をすり合わせ寝むとす      盈子(花)
  春のひととき丹青措きて          弘子(春)

名残の折(表)

  フレディは里のなかなる楓の芽       亜太子(春)
  G線上下はみだす音符           あきこ(雑)
  矢を放て急げ上洛つややかに        代志朗(雑)
  しばしよ憩へ馬の背の汗          幸子(夏)
  アルニカを干して商ふ薬師あり       雅之(雑)
  砂漠の嵐にゆくてはぱまる         斎子(雑)
  朝焼けを踏みて鼎は目を射られ       康(雑)
  かたきはいづこよくひきて肩        智恵子(雑)
  重くるしき代に育ちたる時の技       弘子(雑)
  然はさりながらわがこころざし       盈子(雑)
  ベジャールよ「少年王」よ群れて飛ぺ    亜太子(雑)
  雁がねの列見えて揺曳           あきこ(秋)
  十六夜の月にうそぶく歌なれば       代志朗(秋月)
  かはたれどきを髯のつゆじも
       幸子(秋)

※かわたれどき→かはたれどき(西王燦)

  名残の折(裏)

  草奔の精神などは打ち捨てて        雅之(雑)
  北の大地に流水とどく           斎子(冬)
  身を削ぐや軒を渡れる風迅き        康(雑)
  いつしかきみに別れ来にけり        智恵子(雑)
  夜をこめておのれに帰る詩の仕事      弘子(雑)
  背に負ふ夢の広やかなりし         亜太子(雑)
  南北の果てまでのびて花の村        あきこ(花)
  うららにほめく心ばえはや         智恵子(春)


連衆

久々湊盈子
鎌田 弘子
深海あきこ
野間亜太子
高橋 幸子
太田代志朗
前川 斎子
田村 雅之
黒岩  康
山中智恵子


短歌行〈半蔀〉

初折(表)

  〈夕顔〉やその笑みの眉青柳か       山中智恵子(春)
  桜貝ほかなぎさに拾ふ           野間亜太子(春)
  いつしかも待たれしものは風ならむ     智恵子(雑)
  枝折戸まで覆ひ尽くして          亜太子(雑)

初折(裏)

  空目せし月ありながら亡き跡ぞ       智恵子(月)
  五条のあたり星一つ行く          亜太子(秋)
  捨扇こがれしままの面影は         智恵子(秋恋)
  げにも昔の若女恋ふ            亜太子(恋)
  半蔀のほとり霞と朽ち果つる        智恵子(冬)
  笛の音今し窓穿ち去る           亜太子(雑)
  しののめに花の変成男子見ゆ        智恵子(花)
  文箱湿す春の長雨             亜太子(春)

名残(表)

  いざさらばふたたびゆれむかすみ垣     智恵子(春)
  あはれをかけよ水底の魚          亜太子(雑)
  雪降れる河原の院の世の語り        智恵子(冬)
  落葉枯れ果て底冷え深し          亜太子(冬)
  昏れはてむ道のまよひに顕れ出る      智恵子(雑)
  涙あれこれこぼれ萩とも          亜太子(秋)
  息消えて月に昇りし生霊か         智恵子(月)
  新絹軽く香の袂の             亜太子(秋)

名残(裏)

  夢人よ当来導師なかなかに         智恵子(雑)
  あるじを誰とよるべの末を         亜太子(雑)
  花なれや終の宿りは草の庭         智恵子(花)
  木綿付鳥の声のどかなる         亜太子(春)

※のどかなる声、とあるべきか(西王燦)

         《平成十四年五月 鈴鹿〜神戸〜水無瀬》



              「現代連歌」式目

@      賦物―作品を書く前にある。発句の中に意味のあう言葉をいれる。例えば「山何」とあれば、「石、林、

原、鳥、路、主、出、入、蕨、風、隠、河、隠、垣、田、橘、椿、梨、卯木、井、雲、草、下、沢、

木、松、守、眉、藍、嵐、桜、里、霧、雉、岸、衣、北、雪、百合、廻り、水、柴、人、姫、女、口、

蝉、関、菅、手、鳩、畑、鬘、つと、榊、木綿、祭、烟、寺、彦、梅、露、霞、心、鷹、こゑ、越、

錦、使」等のうちから一語とつながるような発句を考える。もし、客分が発句に「路」という文字の

入った作品を書けば、「山路」となって意味がとおる。

 

A作品素材(部立)―17ある。「光物(ひかりもの)→(日、月、星等)」と「時分(じぶん)

→(夜、闇、蛍、夢、枕、床、筵、水鶏(くいな)、蚊、(つか)()、朝、曙、東雲、夕、暮、黄昏)」。「聳物(そびきもの)→(霞、霧、雲、虹、煙、陽炎等)」と「降物(ふりもの)→(雨、雪、露、霜、霙、霰、雹)」。

「山類(さんるい)→(山、峰、坂、谷、洞、麓、尾上、岨、島、岡、炭窯、畑、滝、桟等)」と「

水辺(すいへん)→(海、波、水、泉、湊、川、浦、浜、舟、江、渚、磯、津、沢、沼、汐、堤、沖、池、岸、氷等)」。「動物(うごきもの)→(獣、鹿、牛、馬、犬、鳥、鶯、時鳥、雁、蚕、蝙蝠、蝸牛)」

と「植物(うえもの)→(木、松、桜、花、梅、草、萩、菊、芍薬、篠、(すず)等)」。「人倫(じんりん)→(友、親、汝、我、身、人、誰、君、父、母、主、彼、某、関守)」。「神祇(じんぎ)→(社、宮、玉垣、神子(みこ)放生(ほうせい)小忌(おみ)(ころも)、)」と「釈教(しゃっきょう)→(寺、法、法師、僧、尼、出家、心の月

)」。「恋→(思、恨、乱髪、縁、契、獨寝、添寝、又寝、後朝、妹背、玉章、獨居、仇人、私語、睦語、兼語、生憎、辛き)」と「述懐→(昔、老、世の中、無常、命、憂身、死、親子、苔衣、墨染、隠家、捨身)」。「旅→(旅衣、草枕、旅路、海路、旅宿、渡舟)」と「名所(などころ)→(山類、水辺、居所にある山、岡、海、浜、湊、関、橋、等にある)」。「居所(きょしょ)→(門、窓、家、楼、里、宿屋、戸垣、扉、壁、閨、甍、外面、簾、庭)」と「衣類→(袖、帯、錦、衣、糸、袂、衿)」。

 

光物

時分

 

山類

水辺

 

神祇

釈教

 

名所

                                   

   

人倫

             

聳物

降物

 

動物

植物

 

述懐

 

居所

衣装

 

B      一座一句物と決められている素材→[朝月、夕月、三日月][夕暮、雨夜、遅日]、「夕立、村雨、春雨、小雨、雨」、[木枯、嵐][熊、猪、馬][鶯、喚子鳥、貌好鳥、郭公][蛍、蝉、松虫、鈴虫、虫、蜩][躑躅、橘、檜原、櫨][若菜、杜若、女郎花][昔、古、隠家、昨日][外面、閨、床][春寒、秋寒、鳴子、砌]

C      「千句が中の一句」→[虎、龍、鬼、女](世吉では使用しない)。

                                     


             「現代連歌」式目(続き)

◎句去り→素材によって、何句間開けて、又使用する事ができるか。

1,2句―人倫と人倫、空と空(ただし、一座=百韻で四句物)。

3句―降物と降物、聳物と聳物、光物と光物、名所と名所。関係の深い物は3句以上離す。

5句―山類と山類、水辺と水辺、夜分と夜分、衣装と衣装、居所と居所、旅と旅、恋と恋、述懐と述懐。

2,2句から5句をあけるもの。

◇植物              ▽

                 時分

                   夜と夜→5句。朝夕→2句。夕と夕→5句。                            

 

×

                   ▽

◇動物              名所

                    山と山、水と水→5句。居所と山及び水→3句                           

 

×

×

 

 

 

      従って同素材同種類を7句以上あければよい。ただし、▽の句間制限については厳しい。1句だけにが無難。

      去嫌の歌→衣季や竹田の舟路夢泪月松枕七句去るべし

      名所、国、神祇、釈教、恋、無常、述懐、懐旧、表にぞせぬ。

 

                                    





■以上、野間亜太子「『現代連歌』を楽しむ」を、著者の依頼によって掲載しました。最初の部分のごく一部を書き改めました。誤字脱字などに関する文責は、西王燦にあります。さらに、著者の依頼によって、世吉・短歌行の「付順進行表」をPDF版で付け加えてあります。このように、あらかじめすべての進行方向を決めてしまうことは、連歌の基本概念に反すると西王燦は考えますが、できるだけオリジナルに近い形で添付します。(2007年8月)
また、後日(2007年9月23日)「現代連歌」式目を、野間さんからword添付ファイルで、お送りいただいたので、その書式のまま掲載してあります。
この「現代連歌」式目の、ことに、「賦物」の解釈についても私ははなはだ不満があります。できるだけ早く、私の別意見を述べておきたいと思います。

■この野間亜太子さんの文章や資料や作品を詳しく読み直してみますと、いくつもの瑕疵があります。これらを含めて私(西王燦)の文責として掲載しますので、クレームは私あてにお願いします。