「立命短歌」11号
   1970年12月30日発行

   編集人 藤沢正美

   表紙画 西王 燦









あとがき(西王燦)

★信乃炎上

 椿説弓張月の挿し絵を描いた北斎。彼の謀反に対して、馬琴は報復する。
 八犬伝の挿し絵を柳川春信に描かせることで。
 表紙画は、これの模写である。
 怨みふる紙の曲馬場の上に、探照灯で透けている私の耳たぶの影を見た。
 ちなみに描きあげたのは時代祭の日であり、人混みの重なる向こうには
 ベン・シャーン風の楽隊が通っていた。
 言葉の水際を走る、食い違いの蟹。私の書くものは、私にしか解けない
 文字謎であり、流刑地の壁は、それぞれの心の擦り傷のなかにある、と
 思う。これから先の私は、いっさいの他者を信じないことで、打ち勝つ
 べき敵も、仇討つ敵にも会わないであろうと思う。そうありたい、と。
 ジャズのリズムの屈折は、ジャズが生誕した盥の底にある。
 そして、もうしばらくの辛抱だ、と思う。
 さよなら、地球号。