いたどり村から届いた手紙
love letter from birdland 9
ヤマネがいた頃
写真は私が撮影したものではありません。
南アルプスで「 薬師岳小屋・南御室小屋」を営業しているかたから
小さめに借用したものです。
ヤマネは人馴れしてとても可愛い、と、樵の仲間は言った。山泊(山小屋に泊まって仕事をすること)
のときなど、すこしづつ馴れてくると、俺の肩に登って林檎を催促したぜ、と。
我が家に来たヤマネは気難しい気質だったのか、いっこうに馴れることはなかった。そもそもの事情
から書かないと、いたずらに天然記念物を家で飼っていた悪人のように思われるかもしれないな。
春まだき、県境で木を伐っていると、(御伽噺みたいな書き方だなあ、、)足元にヤマネが落ちてきた。
冬の眠りから覚めぬのか気絶をしたのか、動こうとしない。仕方が無いので、ヤッケの胸に仕舞った。
家の近くまで来てクルマが温まると、もぞもぞ動き始めた。手を差し入れると指を咬んだり、手を離すと
薔薇の植え込みに逃げ込んだり、大騒ぎのはてに、三月ばかり家にいた。
小さな哺乳類を飼うためのケージを買い、幼稚園児だった娘はハムスター用の餌をせっせと与えた。
しかし、ついに雌雄もさだかならざるまま「ヤマネくん」は昼のあいだは寝てばかり、夜になると風車をか
らからと回して私の眠りを阻害した。あまりの芸のなさに娘が飽きたころ、お役所のそういう分野に電話を
して、すこし叱られた。「それ」を家で飼っては困ります、という趣旨だろう。そういう分野に勤務している方
のところへケージごと運んで、ヤマネくんがいた場所の地図も添えて渡した。
その数日後、ヤマネくんが死んだことを伝え聞いた。
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