1995年7月31日、場所は日生球場。
遂に、この日がやってきた。
真っ青に広がったこの空のすき間からこっそり眺めているであろう、野球の神様のみぞ知る勝負の行方――。
「3時間後には、はたして僕らは笑っているのか、泣いているのか……」
かなたに雲が湧き立つ蒼穹を見上げて、僕は首を横に振った。
「弱気になったらアカン。悲願に向けてやるべきことは全てやったんや!」
人事を尽くして天命を待つ――。まさに、その心境だった。
大勢の観客が見守る中、そして両親が見守る中、緊張の瞬間が刻一刻と近づいていった。
先攻は1塁側、市岡高校。
注目は、ここまでで4本のホームランを記録している3番バッターの井上。彼の前にランナーをためると危険だ。
投手としての実力も折り紙つき。いわば市岡の大黒柱といえよう。
後攻は3塁側、PL学園。
注目は、なんといっても4番バッターの福留だ。今大会ですでに6本のホームランを放ち、大先輩の清原さんが持っていた大会5本の記録を塗り替えていた。
審判の方々がグラウンドに姿を現し、両校が整列して礼を交わしあった。
それを皮切りに、遂に決勝の戦いの火蓋は切って落とされた。
――プレーボール!
主審の試合開始を告げるコールが、日生球場にこだました。
「さあ、いっちょやったるで!」
僕はそう独りごちて、自分自身に気合いを入れた。
PLの先発はエースの前田。
簡単にツーアウトを取るも、3番の井上にセンター前へ運ばれ、初ヒットを許す。やはり彼のバットはいい状態をキープしているみたいだ。
後続を打ち取ったものの、市岡の勢いを感じた初回の守りだった。
「気負わず、いつも通りに!」
中村監督が、ベンチに戻った僕らに発した指示はこうだった。
気負えば、ガチガチになって力が発揮できない。嫌というほどやってきた反復練習の成果を、ここで出せばいいだけだ。
作戦は監督が考えるから、心配しなくていい。
実にシンプルな指示だが、僕らはこのアドバイスが一番欲しかったのかもしれない。
1回表の守備は、表情も体も確かに固かった。プレーもどこか余所行きだった。
色々考えすぎて、僕らは頭でっかちになっていたのだ。
「そうや、ガチャガチャ考えとってもええことあらへん。普通にやったら勝てるんや」
こうして、僕らは平常心を取り戻した。
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