トップページ

27.秋の大会でヒットを量産

チャンスをものにした一打

秋季大会4回戦、相手は大成高校
臨時的に1年生がサードのスタメンで出場していたが、いい結果が出ていなかった。
稲荷、いけるか
中村監督の問い掛けに、僕はこう大声で答えた。
「はいっ!」
試合は緊迫していた。怒濤の追い上げにあい、勝ってはいるものの、終盤を迎えたところで7対5。
どっちに流れが転んでもおかしくない状況だった。
2アウト、ランナー2塁。ヒットが出れば試合を決められる場面で、僕にチャンスが回ってきた
「ここで打たへんかったら、全部水の泡や。絶対打ったる
僕の全てを、この打席にぶつけた。
――カキン!
無我夢中で振り抜いた打球は、誰もいない左中間でポーンと跳ねた。タイムリーツーベースヒット
体中がしびれた。スタンドには両親も来ていたから、なおさらだ。
「やった! やったで!」
表面には出さなかったが、心の中で何回もガッツポーズを繰り返した。
試合は8対5で勝利。ベスト8に進出を決めた。
あのときの感触は、今でも忘れられない。

2年連続で秋の大阪大会を制す

大成高校戦での活躍が認められ、続く準々決勝、準決勝と、スタメンで起用された。
ここぞとばかりに結果を残し、チームも快勝。
決勝の市岡高校戦でもタイムリーヒットを放つなど、勝利に大きく貢献した。
去年に続く大阪大会優勝
大阪1位として、センバツがかかる近畿大会へとコマを進めたのである。
この年の近畿大会は兵庫県で行われた。
16校のうち7校が甲子園に出られる。
一般的に考えると、2回勝てばベスト4で当確。ベスト8で負けた場合は、地区予選の成績や、各府県との兼ね合いなどが選考基準となる。
大阪1位で勝ち上がったPL学園は、1回勝てばほぼ当確という状況にあった。

近畿大会も優勝しセンバツが当確

1回戦の相手、滋賀の八幡商業
引き続き、僕はスタメンに名をつらねた。この試合でも安打を放ち、チームも6対2で勝利。甲子園行きを、ぐっと引き寄せた。
準々決勝の相手は報徳学園
福留のホームランも飛び出し、6対4で勝利。ベスト4進出を果たし、事実上のセンバツ出場が決まった
しかし、このときはまだ、だいぶ先の甲子園になかなか実感が湧かず、負けたら冬の練習がキツくなるから本当によかったという安堵感でいっぱいだった。
勝つ喜びよりも、負けることによる恐怖心の方が大きかったのだ。
準決勝で育英高校を4対0、決勝で神港学園を9対1で退け、2年連続で近畿大会を制した
そして僕は大阪大会と近畿大会を通じて20打数9安打打率4割5分の成績を残すことができた。
しかし、それでもレギュラーの座をつかんだとは思えなかった。
背中につけている番号が「5」になるまでは、不安と向き合っていかなければならなかった。
何はともあれ、念願の甲子園に出られることになった。
そう、母親との約束の地でもあり、小さい頃から憧れてもいた、あの甲子園を手中にしたのである。

28章につづく

トップページ

このWebサイトについてのご意見、ご感想は、 でお送りください。