力の合成・分解・つりあいの指導
                                       1980 年
 中学校で学習する「カの合成・分解」、「カのつりあい」は、子供たちとって分かりにくい内容となっている。子供にとって、方向をもった量、つまりベクトル量の概念がなかなかむずかしいのである。したがって、これらを、ただ、言葉や解説だけで分からせようとしても、到底無理である。この学習では、できるだけ具体例を出して実験をしながら、操作的に理解させていくのがよいと考える。
 ところで、従来から、一般的には合力の指導は、3力のつりあいの実験のあとに指導されてきた。つまり、3カのうちの1つを同一作用線上の反対の向きにうつし、それが他の2力の合力になると説明されてきに。しかし、それは、規則性に気づかせるための指導側の作為に過ぎず、子供の「なぜ、反対の向きのカが合力になるのか」という疑問を生む。合力そのものを測定しないと、本当は解決しないのであるが、よい方法がない。
 以前から、合力から3カのつりあいへという指導を考えた教材教具や方法が、いくつか提案されているが、それらをよくよく見れば、実はやはり3力のつりあいの提示であり、ただ指導側の作為で合力のイメージを少しでも確実にしようとするしているにすぎない。  
   
 そもそも、合力は、2つ以上の力のはたらきを合成した結果の力であり、何かが何かに力を受けているわけではないので、子供たちが、いかにそれをイメージしていくかの学習である。
 そこで、ここでは、一応、右のような展開を前堤とてて、いろいろと検討を加えてみた。
1 合力をイメージづけたり、測定したりする方法例 
  (1) 2力で物体を飛ばして、合力の方向を調べる。
 図1のように、鉄球に2つの力をはたらかせて、鉄球が飛ぶ方向を調べる。

@L型金具を引いてゴムを伸ばし、指をはなして鉄球を飛ばす。

A画鋲の位置を変えて、それぞれのゴムの伸びを変えて調べる。
 
  ◆同じような考えによる方法 
    
  (2) 押しバネを使って、合力の方向・大きさを調べる。
   押しバネを使って、少しでも合力のイメージ化を強めて測定しようというものである。
 しかし、この押しバネの方法は、合力の方向を決定するには、こつがいる。
 したがって、あくまで、おおよその方向をイメージできるに過ぎない。
 
  (3) 3力のつりあい と 2力のつりあいの比較から、合力をイメージする方法例 
    このような考えで、合力のイメージ化を図る方法がほとんどである。  
  @バネを2つのバネはかりで、点Oまで引く。
  Aバネはかりで引いた方向とその強さを記録する。
    (力Aと力B)
   B(a)の右図のように、バネを1つのバネはかりで点Oまで引き、力Cを求める。
 
 
   バネを同じ長さだけ伸ばすのに、力Aと力Bは、力Cと同じはたらきをしていることから、合力のイメージ化をはかっていく。
  ◆同じような考えで、「針金バネ」や「輪ゴム」を使う方法 
    
   <参考> 合力判定器  
   合力判定器として、図7のような器具が紹介されているが、これでは、何のための合力の学習なのかわからない。 
 このような教具は、子供の教材にはなりえない。
 
 
   
2 3力のつりあいの実験例 
 
○力の方向と大きさの測定が正確にできる。
 
×子供のグループ実験や個人実験には、器具が不足
  ×滑車のとりつけが大変
    演示実験としては、滑車に磁石がついたものを使えば、黒板(鉄製)上でできる
  ×垂直面での記録がむずかしい。
   
  ○ある程度は正確にできる。
 
 ただし、バネはかりの水平使用時の補正が必要
  ×バネはかりを3つ使うので、器具が不足する。
  ×1人では実験できない。
  ×3つのバネはかりが、グラグラ動いてやりにくい。
       →1つを固定する必要がある。
   3本の輪ゴムを図10のように使い、輪ゴムの伸びの長さで力の大きさを表す。
  ○子供が実験しやすい。 
  ×輪ゴムの伸びと、力の大きさの関係は、輪ゴム1本1本で違う。
  ×木枠の準備が大変である。
 
 3 一直線上にある2力つりあいの実験例(図11)(図12) 
    図11(滑車による方法)

   ◆図11方法・・・正確だが、装置が不便
  
    図12(バネはかりによる方法)  ◆図12の方法
     @ 金属の輪に2つのバネはかりをかけて両側に引く。
   このとき、中央の輪が動かないようにし、2つのバネはかりの目盛りを読む。
 引く力を変えて、同じように調べる。
  A 厚紙で、右の図ようなものをつくり、対角線上の2つの穴にバネはかりをかけて引く。どうなってつりあうか。
  (2力が同一作用線の理解)
4 力の分解(分力)をイメージ化する実験例 
   図13  
     分力の方向を固定しているが、子供には、なかなか理解がむずかしい。
   
   力の分解のイメージ化は、合力のイメージ化以上にむずかしい。
   日常に見られることからいろいろさがして、分力のイメージ化する。
   
   
   
   
5 輪ゴムの伸びの特性(参考データ)
      
  ◇測定法 
   @ 右の図15のような装置で測定した。
   A 輪ゴムの長さは、直径でなく、輪を引いた状態で、ゴムを2本使うことと同じになる。
   B 加える力が0g重のときの輪ゴムの正確な長さが測定できないので、10g重の力のときを、0とした。
  伸び=伸びた輪ゴムの全長−荷重10g重のときの全長
   
  表−1 (実験結果)力の大きさと輪ゴムの伸びの関係   伸びた長さ:mm
 
輪ゴム No.16
  長さ 約6cm
輪ゴム No.18
   長さ 約7cm
模型用ゴム
1mm角を輪にした
  約8cm
  0              
 10
 20    2    3    3    3    3    4
 30    4    6    6    7    6    7
 40    6    8    9   10   10   11
 50    8   10   11   14   14   16 10
 60   10   13   13   19   19   21 12
 70   13   16   16   24   25   27 15
 80   17   19   20   30   31   35 18
 90   20   23   23   35   39   43 21
100   23   26   27   42   47   52 24
110   27   30   31   49   56   62 27
120   31   35   36   58   66   72 31
130   36   40   41   67   76   84 35
140   40   46   48   77   88   96 39
150   45   51   54   88  100  108 44
160             49
170              54
     
  グラフ1
 No.16は、加える力のせまい範囲では比例が見られるが、全体的には比例関係になっていない。
 加える力が大きくなると、伸びる長さは大きくなってしまう
     
  グラフ2
  No.18は、上のグラフのNo.16の輪ゴムより全体的に比例関係になっていない。
   
     
  グラフ3 
   
     
(考察)輪ゴムの伸びの特性(表1、グラフ1・2・3参照 
 測定結果からあきらかなように、輪ゴムの伸びは、加える力には比例しないが、ごく狭い範囲では比例するとしてよい。
 したがって、その範囲を超えないように使用するためにも、使用する輪ゴムの特性をあらかじめ調べておく必要がある。
× 同じ規格でも、メーカーが違ったり、違う箱詰めだったりすると特性は違う。
× 輪ゴムの伸びが比例的でので、図10のような使用方法は、不適当である。
模型用ゴムは、輪ゴムよりいくぶん「まし」という程度であり、あえて輪ゴムを模型用ゴムに代える必要はない。
◆輪ゴムを利用する3力のつりあい・力の合成の実験のポイント
   さて、以下に紹介する、輪ゴムを利用する3力のつりあいや力の合成の実験は、
@  「力の大きさ」と「輪ゴムの伸びの長さ」の比例関係を利用するものではなく、輪ゴムを、いつも一定の長さに伸ばし、そのときの力を利用しようとするものである。
A 輪ゴムを一定の長さに伸ばすには、別紙のような「円」を用意し、その半径を利用すると便利である。
  ※大事なことは、円の半径を、伸ばしたときの輪ゴム2本の合力が使用するバネはかりの最大目盛りを超えないように、その伸びにすることである。